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4話 私は生粋のチョロ女なのである。


 私、林王沙希と伊花姫香は幼稚園からの友達だ。


 常に行動を共にして、幼稚園の先生から『2人は将来結婚でもするのかな?』と、からかわれるぐらいには一緒にいた。


 それは小学生、中学生になっても続いて、いつしか私についたあだ名は『金魚の糞』。



 私は暗くて、ダサい眼鏡をかけ、冴えない顔をした女の子だったのだ。

 友達と言えるような友達は姫香以外いなくて、彼女が中心となって形成されていったグループの隅っこで縮こまっているような女の子。


 それでも姫香はいっつも私の事を気にかけてくれて、私の悪口を言った子のことを注意したりしてくれてた。


 可愛くて、頭も良くて、気遣いもできて。

 そんな彼女に何度も救われてきた。ホントに感謝してもしきれない存在。


 だけど、彼女に助けられ続けた私には、それと引き換えに劣等感というものが積もり続けた。




 中学2年生の時、私に凄く優しくしてくれる部活の先輩がいた。

 いつも気にかけてくれて、2人で練習後も一緒に残って自主練をしたりなんかして⋯⋯私は凄く単純だったから彼の事を好きになるのにそう時間はかからなかった。


 姫香に相談なんかもして、本気で彼に告白しようか迷ったりもした。



 けどある日、彼が姫香に告白をした。

 


 結局のところ、彼が私に優しくしてたのは私の為ではなく、私と仲がいい姫香に近づく為だったって訳。



 これまでにも私の好きな人が姫香のことを好きになる事なんてたくさんあった。

 でも私は好きな人に喋りかけたりするなんて一切できなかったから、ある種の諦めがつけれた。


 何もしなかった自分が悪い、彼女は私なんか比べ物にならないぐらいに魅力的だから、そう自分に言い聞かせて。



 ⋯⋯だけど今回は今までのと違い、私からもそれなりに行動を起こしての結果だった。



 私はすぐに姫香のもとに行き、どうしたのかを聞いた。

 すると姫香はいつもの、私を慰める時の笑顔でこう答えた。


『うん、ちゃんと振ったよ』



 その瞬間、私の積もりに積もった劣等感が爆発した。






 その日の学校終わり、私は行くあてもなく走り続けた。


 顔を涙と鼻水まみれにし、大声で泣きながら走っていく私は、周りから見れば頭のおかしい子に見えたと思う。


「どうしてなの!? みんな姫香の事ばっかり!」


 今まで溜まってきた感情を全てぶちまけながら、とにかく走り続ける。


 そうでもしないと、彼女に対する嫉妬とか劣等感とかで頭がどうにかなりそうだった。


「きゃっ!」


 隣の市との境界線である川の近くまで来た時、もうとっくに限界を迎えていた足がもつれ、大きく転んだ。


 前日の雨でぬかるんでいた土道に突っ込み、泥まみれになる。


「ううっ⋯⋯もう、いや⋯⋯どうして私ばっかりこんな思いしなきゃならないの⋯⋯」



 多分、その時の私は誰でもいいから慰めて欲しかったんだと思う。


『辛かったね』って手を差し伸ばして欲しかった。


 だから、


「あの⋯⋯だ、大丈夫ですか?」


 こんな冴えない顔をした木枯優斗(カレ)が、私には王子様に見えた。








 その後、彼の体操服に着替えた私は、彼と川の橋の下で私の制服が乾くのを待っていた。


 彼が体操服を貸す時、『きょ、今日体育休んだからこれ着てなくて⋯⋯その、よよよ、良かったら俺の体操服き、着ますか?』と顔を真っ赤にしながら言った彼を見て、わずかにあった警戒心を解いた。


 私は彼に今悩んでる事を話した、失恋した事や姫香の事とか劣等感を抱き続ける自分の事とか。


 私がずっと話し続けている間、彼はただ黙って、優しい顔をしながら聞いてくれていた。


 そして気づけばもう、日がすっかりと落ちて夜になっていた。


「あっ、もうこんな時間!? ごめんなさい、私ばっかり話しちゃって」


「あ、いや全然大丈夫ですよ。俺にできることなんて話を聞くぐらいしかないですから」


「そ、それじゃあ、今日はありがとうございました! そ、それでは!」


 私はこの名前も知らない、今日初めて会った人にこんな話を長々としていた事が急に恥ずかしくなってきてその場から逃げるように去った。


 全身が沸騰するように熱くなっていくのが分かる。


 でも、不思議と私は少し気が楽になっていた。


「ふふっ、名前、聞いとけば良かったかな」








「⋯⋯な、なんだったんだろうあの子⋯⋯名前も教えてくれなかったし⋯⋯てあっ、 俺の体操服、持ってかれたんですけど⋯⋯」


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