3話 俺は生粋のチョロ男だと思う。
あれから2日たった。
「今日も来ていない⋯⋯か⋯⋯」
あれから2日とも彼女は屋上に来ていない。
学校には一応来てるのだが、どこか避けられている気がする。
「まぁ無理ないよな⋯⋯」
俺の前での彼女なら、あの時自分の手を掴む林王の手を噛んででも離そうとしただろう。
たが彼女には俺とは違って今まで積みあげてきた物がある。
それを壊してまで、彼女が俺の事を取るなんて思うのは傲慢だ。
⋯⋯いや、というかそもそも彼女の俺に対する愛というのは本当のものなのだろうか?
俺は彼女の事を何も知らない、何も教えてもらってない。誕生日だって、どんな食べ物が好きなのか、趣味はあるのか⋯⋯どうしてあの時自殺なんてしようとしていたのか、ホントに何もかも知らない。
元々住む世界が違う存在で雲の上のような存在の人なのだ。
そんな彼女とすごせて、2週間にも満たない短い期間だったけど、正直今まで生きてきた中で一番楽しかったし、嬉しかった。
我ながら変な事だと思う。
たしかに苦手なんだ、彼女のメンヘラ気質なところとかすぐ妄想に突っ走る事や、時折見せる狂気しか感じない言動が。
でもそれがなくなった途端、どうしかとても寂しくなった。
今まで幾度となく寂しいと思ったことはあるが、ここまで本気でそう感じることなんて今まではなかった。
俺は生粋のチョロ男なんだと思う。
これから先、俺と彼女が関わる事はもう一切ないのだろうか⋯⋯?
「⋯⋯はぁ⋯⋯やめだやめ、飯がマズイくなったわ⋯⋯雨も降ってきたし図書館にでも避難しに行くか」
そう言って立ち上がり出口のドアの方へと歩るこうとすると。
ふとB棟の校舎裏に向かって行く2人の人影が見えた。
「あの後ろ姿は⋯⋯林王と伊花さん?雨降ってんのに、何してんだろ?」
⋯⋯ちょっとまて、今あの2人の組み合わせはかなりやばいのではないだろうか。
それに場所が場所だ、少なくとも確実に良い事ではないだろう。
「まずい⋯⋯!」
気づけば俺は、屋上を飛び出していた。
*
こんな全力疾走したのはいつぶりだろうか。
運動なんて普段一切しない俺にはこの距離の全力疾走はかなりキツイものがある。
周りの目も物凄く痛いし怖いし恥ずかしい。
それにたとえ彼女達の元に行けたとして何か俺にできる事があるとは思えない。
でも、あの時、林王に連れてかれる伊花さんの助けを求めるような顔を呆然と立ち尽くして見ているだけで何もできなかった、そんなヘタレな自分でいるのはもう嫌なんだ。
校舎の外に出た、さっきよりもより激しくなった雨が俺に容赦なく叩きつける。
「くっ⋯⋯! あともう少しだ! 踏ん張れ俺!」
脚がもつれそうになるのをなんとか堪えて走り続ける。
校舎裏が見えてきた、脚のギアをもう一段階あげさらに加速する。
しかし、次の瞬間
バチィンッ!
このうるさい雨の音の中でもはっきりと聞こえるぐらいの、大きく、鈍い音が辺りに響いた。
あぁ、間に合わなかった⋯⋯
その後悔の念だけが、頭を駆け巡った。
そしてその音に間髪入れず林王の怒号が聞こえてきた
「どうして⋯⋯どうしてアイツなのよ!? なんでいつも⋯⋯いつも姫香は私の大切なモノを奪っていくの!?」