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1話 どうしてこんな事になってしまったのでしょうか。


 青い空にひつじ雲が浮かび、心地よい風が吹いている昼下がりの学校の屋上。


 俺の右手には今朝買ってきたコンビニのおにぎり、左手には自販機で買ったお茶。


 そして膝の上には伊花姫香。


「ゆうくんご飯粒ついてる、取ってあげるね」


え?何を言ってるのかって?正直、俺もよくわからん。


「えへへー、昼放課の屋上って気持ちいいねーゆうくん?」


 傍から見ればあの伊花姫香と誰もいない屋上で二人きりでイチャイチャしやがって羨ま死ねなのだろうが⋯⋯


 実際そんな事は一切無い。


「ちょ、ちょっとあの⋯⋯流石に邪魔なんでどいてもらっても⋯⋯」


「え?私邪魔だった⋯⋯? ご、ごめんなさい、許して! 邪魔にならないようにするから! ゆるしてゆるしてゆるして――」


「だぁぁぁぁ!! 大丈夫だから! 邪魔なんかじゃないから! だからお願いだから落ち着いて!」


 そう、彼女はいわゆるメンヘラさんなのだ。


「ほ、ホントに?私ゆうくんの邪魔じゃないの?一生側にいてもいいの?」


「も、勿論いいよ! ⋯⋯ん?いやその今一生って言った?流石にそれはちょっと重い」


「⋯⋯ダメ?」


「ぐっ⋯⋯!」


 ずるい、中身はメンヘラでも外見は俺の憧れの伊花さんそのものなのだ。

 そんな彼女に上目遣いでそんな事言われたら否定なんてできる訳ないだろ。


「しょ、しょうがないなぁ⋯⋯」


 俺は引きつる顔を隠しながらそう言った。


 すると彼女は俺に抱きついてきて。


「ゆうくん優しい! 大好き!」


 はわわわわわわわわわ、なにか2つの大きなものがががががががか。



 キーンコーンカーンコーン



「あ、昼放課終わっちゃったね、残念。私とゆうくんが2人きりになれるのもこの時間だけだから、他の時間ももっと一緒にいたいのにあのウジ虫共が私の邪魔を⋯⋯」


「あ、あはは⋯⋯うん、そうだね」


 鼻血をどうにかして抑えながらそう答える


「じゃあまた明日ね! 愛してるよゆうくん!」


 そんなクソ甘な事を平然と俺に告げて彼女は屋上を後にした。


「っ⋯⋯はぁ⋯⋯」


 極限の緊張状態から解き放たれた俺は大きくため息をつく。



「どうして俺がこんな事に⋯⋯神様、俺が欲しいのはメンヘラな女の子じゃなくて普通に楽しく喋れる友達なんですよぉ⋯⋯」





1週間前


「う、嬉しい⋯⋯!」


「へ?」


 え?今、彼女『嬉しい』って言ったのか?


「ど、どうゆう事ですか?」


 すると彼女は目をキラキラと輝かせ


「貴方は私が死んだら悲しいって言ってくれた! 貴方は私を大切に想ってくれた、認めてくれた!」


 ちょちょちょっと待って、色々整理が追いつかない。

 今俺の目の前にいるのはあの伊花さんで間違いないよな⋯⋯うん間違いない、全く一緒だ。


 だがおかしい⋯⋯俺の知ってる伊花さんはもっと落ち着きがあって、全ての言動が可愛らしくて...少なくともこんなメンヘラじみた事を言うような人ではないはずなのに⋯⋯


 そんなことを思っていると彼女は俺の手を握る力をさらに強めて

 

「あぁ⋯⋯やっと会えた⋯⋯私の事を大切にしてくれる人、私の夫になる人」


「お、夫!?」


 ホントに何が起こっているんだ?

 今目の前にいる伊花さんは、伊花さんの皮をかぶったメンヘラ野郎なのか?いやというかそうであってくれ


「そう! 結婚するの! それで二人で働きながらね、コツコツお金貯めてマイホームを買うの。子供は2人は欲しいかなぁ⋯⋯欲をいえば2人とも男の子がいいかな、それでねみんなで公園でキャッチボールをしたりピクニック行ったりするの、それからそれから⋯⋯」



 ⋯⋯ダメだコイツ、早く何とかしないと。




 そして時は戻って現在。


「まさか伊花さんがあんな人だったとは⋯⋯」


 教室に戻る際、俺はなるべく他の人の目につかないよう空き教室だらけのB棟にわざわざ遠回りしている。


 かなしいかな、1度ぼっちになってしまうと更にそれを加速させるような事を何故かしてしまうのだ。


「にしてもなんであんな実生活充実してそうな人があそこまで極度のメンヘラに陥るんだよ⋯⋯しかもちょっとヤンデレと妄想癖も混ざってるし⋯⋯」




 ⋯⋯よし、決めた。

 俺はやっぱり今のこの良くわかんない関係のままでいるのは嫌だ。

 俺は彼女と純粋な友達同士になりたい、仲良く喋って、一緒にテスト勉強したり、そんな関係に。


 ただそれにはまず彼女のあのメンヘラ気質をどうにかしないといけない⋯⋯

 ハードルはかなり高そうだがやってやる、それで俺は初めての友達を作るんだ!


「そうと決まれば早速明日から⋯⋯ん?」


 あの教室、ドアが少し開いてる?


「空き教室は全部鍵しまってる筈だけど⋯⋯誰か中にいるのかな⋯⋯」


 ドアの隙間から教室を覗く




「ゆうくん、ゆうくんゆうくんゆうくんゆうくん。私だけのゆうくん、大丈夫、ゆうくんが私を必要としてくれるだけで⋯⋯」




「⋯⋯ひっ!」


 そこにはおぞましい事をブツブツ言いながら黒板を爪で引っ掻いている彼女がいた。





 ⋯⋯俺の計画はもしかしたら人類が火星に定住する以上に無謀なものなのかもしれない。



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