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18話 様子が変ですって?


俺の部屋に石が投げ込まれた事件から1週間がたった今現在も木枯家に対する嫌がらせは続いたいた。

生卵が塀に投げつけられていたり、鳥の死骸が玄関前に置かれていたりと様々な方法で。


「まただ⋯⋯今度は手紙か⋯⋯」


 何か文字が書いてある訳ではない数十通もの白紙の手紙がポストいっぱいに入っていた。


 今現在は早朝なので、昨日の夜のうちにその犯人がやった可能性が高い。


「お兄ちゃーん、早く新聞取ってきてってお父さんがー」


「おう、わかった今行く」


 どうしようこれ⋯⋯とりあえず俺の部屋にでも移動させておくか⋯⋯


「⋯⋯ゆうくん何してるの?」


「あっ、姫香さん、おはようございます」


 俺がポストから手紙をかき出していると、朝のお迎えに来た姫香さんに声をかけられた。


 俺は取り出し始めていた手紙を再度無理矢理ポストにねじ込む。


「これですか? ⋯⋯まぁ例の嫌がらせで――って姫香さん?」


「んっ⋯⋯」


 すると彼女はなぜか無言で俺のすぐ後ろまで来て、そのまま俺の腰に手を回し抱きついてきた。


「⋯⋯え? ちょっ!? どど、どうしたんですか!?」


 朝シャワーでもしてきたんだろうか、シャンプーのいい香りが鼻腔を刺激する。


「ううん⋯⋯なんでも。ちょっとこうさせてて、お願い⋯⋯」


 なんだこれ⋯⋯何が起こってるんだ?


 いつもの軽い感じの抱擁とはどこか違う、どこか物凄く色気みたいな、何というか⋯⋯エロスを感じる。


 あぁ⋯⋯ヤバイぞこれ、抱擁だけで俺の俺がおはようございますしてしまいそうだ。


 耐えろ、耐えろ俺⋯⋯! ここで耐えねば男ではない⋯⋯!


「ちょっとお兄ちゃん? 早く新聞持って来て――」


「あっ⋯⋯」


 新聞を催促しに来た日葉里とバッチリ目が合ってしまった。


「⋯⋯いちゃいちゃするのはいいんだけどさ⋯⋯朝っぱらから家の前でするのは日葉里どうかと思うなぁ⋯⋯」


 目からハイライトが消え、俺を軽蔑する目で見てくる。


「ち、違うんだ日葉里!勘違いするな!」


 日葉里に決定的な現場を見られ、顔の血の気と一緒にアソコの怒気も引いていった。



「と、いう事が今朝あったんだよ」


「⋯⋯な、何で私がそんなクソ惚気話みたいなの聞かされなきゃならないんですか!?」


「お前が『今朝から姫香っちの様子がおかしいです、何かしたんだろこの変態仮面!』って俺に鬼の形相で言ってきたからだろ? 俺にはそれぐらいしか心当たりがねぇよ」


 移動教室に行くまでの廊下。

 俺は鳴海に絡まれていた。


「だ、大体なんで姫香っちが木枯君なんかに抱きつくんですか!? 実に腹立たしいです! 不快です! 納得いかないです! 絶対に木枯君と抱きついたら臭いに決ます!」


 イラッ⋯⋯言わせておけばコイツ⋯⋯


「そんなに言うなら試してみるか?」


「なっ!? 何を言ってるんですか!? こ、この変態!」


「⋯⋯冗談だよ」


 何コイツはそんな顔赤くしてんだ⋯⋯ホントよくわかんなぇな。


「兎に角、俺も姫香さんの様子が変なことに対しての原因とか全く知らないから、そもそも基本あの人普段から変だし」


「⋯⋯そうですか、残念です」


 一瞬神妙な顔になる彼女。


 コイツはコイツなりに姫香さんの事心配してるんだろう。



「それはそうと木枯君、今日美術のペア一緒に組ませんか?」


「は? あーごめん、姫香さんにもう誘われてんだよね」


「ひ、姫香っちに?」


「あぁ。というかなんで俺誘うの? お前俺の事嫌いなんだろ?」


 なんだコイツ、どういう裏があるんだ?

 体が震え出してるし怖いんですけど。


「⋯⋯そ、そうですよ! 木枯君の事なんか大嫌いですけど何か!?」


「いや、そんな恨めしそうな顔で見られても⋯⋯」


 前にも言ったが、本当にコイツの行動は予測できない。


 ある意味姫香さん以上に慎重に扱わないといけないな。









「姫香さん、俺の顔どんな感じで描けました?」


 ペアを組むという鬼畜の所業を姫香さんの救いでなんとか乗り越えた俺は、彼女と向き合い互いの顔を描きあっていた。


 ただ周りからの視線が凄く痛い。

 姫香さんはもうこのよくわからない関係を隠す気がないらしく、大分おおっぴらに俺に接するようになってきた。


 当初俺が危惧していたような事にこそ今のところなってはいないが、時々俺に対する陰口が聞こえてくるようになっていた。


「うわっ⋯⋯俺そんなイケメンじゃないですよ、特に目の当たりとかこれどうなってんですか⋯⋯」


 姫香さんのデッサン用紙を覗き込んでみると、そこには少女漫画も引くレベルの美男子が描かれていた。


 一体どう見たらこんな風になるんだよ⋯⋯


「⋯⋯ねぇゆうくん」


「はい? どうしました?」


「今日、さ⋯⋯私の部活終わるまで待っててくれないかな?」


「⋯⋯? どうしてですか?」


「一緒に帰りたくて」


「別に全然いいんですけど⋯⋯珍しいですね、一緒に帰ろうなんて」


「うん、ゆうくんと一緒に帰りたくなっちゃって」


 『ゆうくんを待たせるなんて私には出来ないから我慢する!』とかなんとか言って一緒に帰ることは今まで一度もしなかったんだけど。


 ⋯⋯やっぱアイツの言う通りちょっと様子が変だな。



「ゆうくん、今日は待たせちゃってゴメンね」


「いや別にいいですよ、気にしてないですから」


 この時間帯の電車に乗る事はあまりない。

 時計を確認したところ今は午後7時ぐらい、周りには部活帰りの人達がちらほら見える。


 ちなみに今は俺が普段電車に乗る時のベストな位置、すなわち入口の付近の2つの角で、互いに向き合うようにして立っている。


「あれですね、1週間後の球技大会。姫香さん確かサッカーでしたよね? 俺もサッカーなんでお互い頑張りましょうね」


「うん⋯⋯頑張ろうね」


 その会話を最後に俺たちの間に沈黙が走った。

 聞こえてくるのは電車の車輪が定期的に鳴らす機械音だけ。


 姫香さんと2人きりの時にこれだけ何も喋らない事があっただろうか。

 普段なら彼女の方から喋りかけてきて、会話が途切れる事などないのだが。



 そして、そのままお互い何も喋る事がないまま俺が降りる駅に到着した。


「そ、それじゃあ俺この駅で乗り換えなんで。また明日」


 彼女の返答を聞く事をしないまま、出口に向かって歩き始める。


 正直、その場に居づらかった。

 何も喋らない彼女といるのは、全く知らない赤の他人と一緒にいるような感覚になったから。


 だから歩みを進める足の運びも自然と早くなっていた。


「待って⋯⋯」


 が、その歩みは彼女が俺の制服の袖を引っ張ったことで止められた。


「え? ⋯⋯で、でも⋯⋯」


「お願い、私の家まで一緒に来て⋯⋯」



 そう弱々しく放った彼女の助けを求めるような顔が、何故かとても可愛く見えてしまう。



「⋯⋯あっ」


 気づけば、電車の扉はすでに閉まり次の駅へと向かって動き出していた。


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