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15話 一難去ってもまだ二難。


「おい、何してんの?」


 それから言葉を発する事なくただ俺の事を呆然とした顔で見ていた彼女に視線を送る。


「⋯⋯っ⋯⋯」


 彼女は手をギュッと握りながら、俯いた。



「⋯⋯なんだよそれ、あれだけ俺に対して威勢良く高圧的な態度とってたってただろ。お前⋯⋯こんな時に限って弱い子アピールか⋯⋯?」


心の中で言ったつもりが声に出てしまっていた。


「⋯⋯うぐっ⋯⋯ぐすっ⋯⋯」



「⋯⋯は?」


 いやだからさぁ⋯⋯なんで泣いてんだよ、ふざけんなよ。

 そうやってすれば許されるとでも思ってんのかコイツは⋯⋯



 あぁもう⋯⋯


「おい鳴海、ちょっとこい」


 彼女の手を強引に取り、引っ張る。


「えっ?⋯⋯こ、木枯君?」


「いいから」



「はぁ⋯⋯」


 その後、俺たちはショッピングモールから数百メートル離れた公園へとたどり着いた。


 夕方の公園はまだ小学生達が遊んでおり、少々うるさかった。



 そして彼女は、



「ひーふーみー⋯⋯」


「なんでラマーズ法なんだよ⋯⋯」



 なぜか息を切らしていた。


 まぁ無理もないか。

 俺の身長が170ぐらいだからコイツの身長は150前半ってところだろ。


 歩幅からして全然違う、俺も早足できたからキツかったんだろうな。


「す、すみません⋯⋯」


「⋯⋯」


 さっきからなんだコイツ? こんなしおらしく謝るタイプじゃないだろ。


「⋯⋯はぁ、で? 何盗ろうとしたんだよ?」


「髪染料⋯⋯」

 

 そういやコイツ茶髪だったっけ。


「いや俺よく分かんないんだけどさ、その手の商品って何円ぐらいすんの?」


「⋯⋯1000円、ぐらい⋯⋯」


「1000円? 安いな。なんでまたそんなもん盗んだんだよ? そんなポンポン無くなるもんでもないだろうし小遣いで買えるだろ?」


「安くなんかないですよ!」


 再び急に声を大きくし、俺の目をキッと睨んでくる。


 俺たちの周りに気まずい沈黙が流れる。

 周りの騒々しさとは隔離されたような、そんな状況になった。


 そして、そのままの状態が幾分かたった後。


「⋯⋯私、父親がいないんです」


「⋯⋯え?」


 本当に唐突に、なんの前触れもなく彼女がそう切り出した。


「私が小学校4年生の時に離婚しました。クソみたいな父親でしたよ。毎日パチンコ打ちに行って、まともに働かずママ⋯⋯お母さんがパートで稼いできた金を板チョコ一枚に変えてくるような、そんなゴミ野郎です」


「はぁ⋯⋯それは凄いな」


 そんな絵に描いたようなクズいるんだな⋯⋯


「だから⋯⋯まぁ有り体にいって家は貧乏なんです、それこそ染髪料すら買えないぐらい」


 ここで俺に一つの疑問が浮かび上がった。

 至極単純で普通な疑問が。


「じゃあ髪染めなきゃいいじゃん」


 すると彼女はまたもやこちらを睨んできた――かと思えばすぐ落ち着きを取り戻して。


「そう、ですよね⋯⋯私もそう思います」


「なら――」


「でも! ⋯⋯仕方がないんです、こうしなきゃ私なんてあのグループにいられなくなるから⋯⋯」


「? あのグループって林王グループの事か?」


「はい」


 うーん⋯⋯いまいち話の流れが掴めないな⋯⋯


「どうして髪を染めない事とグループにいられなくなる事が繋がるんだ?」


「⋯⋯分かんないんですか?」


「あぁ、だから聞いてる」


 すると彼女は俯き、しばしの沈黙の後、口を開いた。


「私、なんの魅力もないから⋯⋯姫香っちとか沙希ちゃんとか他の皆みたいに。だから化粧とかこうして髪を茶色にしてなんとか皆んなに歩調を合わせて、自分を飾らないといけないんです⋯⋯じゃないと一緒に、いられないから⋯⋯」


「は?⋯⋯なんだそりゃ、バカじゃねぇの」


 彼女の告白を聞いた俺は、自然と口からそう出ていた。


「なっ!? ひ、人が折角苦しい胸の内を明かしたっていうのに⋯⋯なんじゃそりゃってなんですか!?」


「いや余りにも言ってることが理解不能すぎてつい⋯⋯」


「ひ、酷いです⋯⋯!」


 そう言うと彼女は俺の足を思いっきり蹴ってきた。

 まぁ全然痛くないんですけどね。


「ど、どこらへんが理解不能なんですか? 説明してください!」


「えーと、まず最初に言いたいのは、40人から告白されてんのに自分には魅力が無いとか意味不明な事言ってんじゃねぇって事。お前そんなの他の女子に言ってみろ、絶対嫌われるぞ」


「それは化粧も髪も染めてるからで⋯⋯」


「そんな事ねぇよ」


「え?」


「⋯⋯んで2つ目。お前それで万引きしてたら意味ねぇだろ。もしそれがバレてみろ、それこそお前あのグループにいられなくなるぞ」


「うっ⋯⋯」


「3つ目、着飾ってないからってグループから外すような奴はハナから友達じゃねぇよ、それはただのお飾りだ。大体お前の大好きな姫香さんはそんな事で仲間外しするような人か?」


 これは友達いない俺が言うのもなんだけどな。


「そ、それはそうなんですけど⋯⋯でも⋯⋯」


 尚もどっちつかずの態度をとる彼女。

 


「⋯⋯あのさ、もっと自分に自信持てよ。俺なんか何も取り柄ないけどお前よりかは自信あるぞ」


「なんですかそれ? 自己評価高すぎないですか?」


「逆にお前は低すぎな。んで、まぁ⋯⋯その、なんだ、俺は茶髪より黒髪が好きだぞ」


 あれ? 俺なんでこんな事言ってんだ?



「⋯⋯ふふっ⋯⋯ふふふっ⋯⋯」


「な、何笑ってんだよ⋯⋯」


 何故か笑い始める彼女。


 そしてひとしきり笑った後、こちらに振り返って。


「あーもうわかりましたよ! 分かりました! 負けました! それじゃあさようなら!」


 そう言い残し、物凄いスピードで走り出した。


「えっ? あっ、おい!――いっ⋯⋯!」


 さっき走ったせいで足がつり気味になっちまってる。


「って⋯⋯本当に行っちゃったよ⋯⋯」


 もう既に彼女の姿は公園にはなかった。


 多分アイツの行動原理と心理は一生分からないな⋯⋯





「あ、ドックフード⋯⋯どうしよう、もう一回戻るのはめんどくさいな」





「なな、木枯」


「なんだ武本?」


 翌日の朝学習の時間。

 足から強烈なサロンパス臭を漂わせながら、俺は勉強に勤しんでいた。

 

「鳴海さんさ、イメチェンでもしたのかな?」


「⋯⋯さぁ? まぁ色々あんじゃねぇの⋯⋯?」


「茶髪もいいけど、黒髪の鳴海さんもいいなぁ⋯⋯な? 木枯もそう思うだろ?」


「確かに茶髪よりはマシだな」


 黒髪にしたアイツは⋯⋯まぁ以前より可愛く見える。

 俺の好みだしな。


「鳴海さんスマホ弄ってる⋯⋯何見てるんだろう⋯⋯」


「⋯⋯なぁ武本、ストーカーにだけにはなるんじゃないぞ」


 その発言は流石に俺でも悪寒がしたわ⋯⋯



「あ、木枯、スマホ鳴ったぞ」


「おう。ありがと⋯⋯えーと、なになに⋯⋯」


『奴隷は契約解除ですっ。そのかわり私も一緒に屋上で昼ご飯を食べますから! あ、あと姫香っちが木枯君の事好きだとは絶対に認めませんからね!』


「⋯⋯」


 彼女の方を見ると俺に向かってウインクをしてきた。


「⋯⋯とりあえず、問題解決、なのか?」



「おい木枯! 今俺に向かってウインクしてきたぞ!? なぁなぁ!」


「よ、良かったねー⋯⋯」


 まぁまだ他の問題があるが⋯⋯

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