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13話 兄としての威厳。


『なんですかこの性犯罪者? 私に歯向かうんですか?』


『いえそんな鳴海様! 滅相もございません!』


『本当ですかねぇ⋯⋯? ⋯⋯そうだ、ブヒブヒ言いながら私の靴舐めてくれたら信じようかなぁ⋯⋯』


『さ、流石にそれは⋯⋯』


『あれぇ? いいのかなぁ? あの写真、みんなにばらまいても⋯⋯』


『くぅ⋯⋯わ、分かりました鳴海様』


『ほら、早く、なにためらってるんですか』


『⋯⋯ぶ、ぶひ⋯⋯ブヒブヒ⋯⋯ブヒブヒ』


『ふふふ⋯⋯はははっ! はっはっはっ! はぁーはっはっはぁ! ――





「はぁっん!? って、イッタッ! 後頭部いったぁっ!⋯⋯ゆ、夢オチ⋯⋯か⋯⋯」


 とんでもない夢を見てしまった⋯⋯朝から便所に顔突っ込むレベルの不快感だわ⋯⋯


「というかここどこ⋯⋯なんかちょっと暗いんですけど」


 ⋯⋯あ、そっか、俺昨日ベットの下で寝たんだ。


「なんだよベットの下で寝るって⋯⋯完全に心に闇を抱えてる人じゃねぇか」


 ガチャ


 ん? 誰か入ってきた⋯⋯?




「お兄ちゃーん、さっさと起きないと遅刻する⋯⋯

ってあれ!? お、お兄ちゃんがいない!? お、お母さーん、お兄ちゃんが消えたー!」


 ドタバタとうるさく鳴り響く足音が徐々に遠ざかっていく。


「⋯⋯」


 なにしてんだろ、俺。









「ベットの下で寝るってなに? お兄ちゃん大丈夫なの?」


「んあ? 大丈夫、気にすんな日葉里(ひより)、俺は正常だぞ」


「⋯⋯足クロスさせながら歩く人が正常には見えないよ、私」


 この妹、木枯日葉里とは割と仲が良い方だと思う。

 この歳になって今みたいに一緒に登校する兄妹は中々いないんじゃないか?


 2歳差で今現在中学3年生、俺と違って友達も多いし、前に家でコイツ宛のラブレターかなんかを見たから多分男子からもモテるんだろう。


 やっぱポニーテールは男子からの人気が高いんだろうか。


「なにか悩み事でもあるの?」


「悩み事⋯⋯」


 よく考えれば悩み事しかないな、最近。


「いやねぇよ、心配すんな」


「⋯⋯そう?」


 まぁ流石に妹に悩み事相談するほど落ちぶれてはいない。


 昔っからコイツは俺に対して心配性なところがある。

 心配されるのは嬉しいが、もうちょっと兄である俺を信用してほしい。


「そういえば今日は伊花さん来なかったんだね」


「あ、そういえばそうだな」


「彼女でもないのにほぼ毎日家まで迎えに来るって凄いよね」


「⋯⋯おう、確かに凄いな」


「私安心したよー、お兄ちゃんそういうのに全く縁がないって思ってたから。なんでそんな想ってくれてるのに付き合ったりしないの? 可愛し凄くいい人じゃん、伊花さん」


「色々あるんだよ、色々」


 そう色々⋯⋯

 

「ふーん⋯⋯」


 どこか意味ありげにそう呟く。


「ほら、学校着いたぞ。それじゃあな」


「あっ、そういえばお兄ちゃん。ドックフード今朝の分で切らしちゃったから帰りに買ってきてってお母さんが言ってたよ」


「あいよ」


「それじゃっ」


 そう言って校門に歩いていく日葉里にすぐ友達の女子が話しかけ、楽しそうに喋り始める。


「⋯⋯日葉里が俺みたいにならなくて良かったよ、ホント」





「おはようございます下半身脳みそ野郎、今日からよろしくお願いしますねっ」


 朝学習が始まる前の人がまだまばらな教室。

 鳴海なるに呼ばれ、俺は彼女の席の前で正座させられていた。


「下半身脳みそ野郎ってなんですかね⋯⋯」


「貴方みたいなち○こに忠実な人の事ですよ、分かりませんか? このち○こ野郎」


「ち○こ野郎⋯⋯あ、それ武本に言ってやってくれないですか?」


 ち○こ野郎ってコイツから言われれば武本の目が覚めるんじゃないだろうか。


「⋯⋯私がち○こ野郎って言うのは貴方だけにですよ、木枯君?」


「⋯⋯なにそのちょい意地悪後輩キャラみたいなセリフ」


 てか今初めてまともな呼び方で呼ばれた気がする。




「なるちゃんおはよー」


「あっ! 姫香っち、おはよう! 今日も可愛いね!」


「ふふっ、ありがと⋯⋯ってゆうくん? なるちゃんの席の前でなにやってるの?」


「あっ、どうも⋯⋯」


『コイツに弱み握られて、奴隷やらされてます』って言えたらどれだけ楽になれるだろうか。


「⋯⋯ほら、姫香っち来たから、自分の席に戻ってください⋯⋯!」


 俺の耳元で小さく話しかけてくる。


「怪しい⋯⋯ゆうくん、やっぱりなるちゃんの事⋯⋯」


「全然! そんなんじゃない――イッタッ!」


 瞬間、足のつま先に衝撃が走った。


『は、や、く!』


 彼女を見ると、口パクでそう訴えていた。


「っ⋯⋯そ、それでは姫香さん、また」


 そう言い残して俺は急ぎ足で自分の席に戻った。


 姫香さんの疑いの眼差しが痛い。


「もう嫌だ⋯⋯やっぱり日葉里に相談しようかな⋯⋯」


 兄としての威厳が崩壊した瞬間だった。



「は?⋯⋯今武本なんて言った?」


 勉強の手を止め、横に立っている武本の顔を見上げる。


「いやだからさ、バイトに鳴海さんも誘おうと思うんだが」


「しょ、正気か武本!?」


「何で!?」


 そしてそれから数十分後。

 

 朝学習の時間に武本の恋愛相談をするのが恒例になりつつある。


「なんでまたそんな事を⋯⋯」


「俺考えたんだけど、木枯に前言われたみたいにさ、やっぱり鳴海さんとの接点が少ないんだよ、俺」


「うん⋯⋯そんな事も言った気がしなくもないですね、えぇ」


「だから接点を確保するためにバイトに誘おうっていう算段なんだよ。木枯もいればバックアップしてくれらしな」


「⋯⋯」


 まさか自分で墓穴を掘るとは⋯⋯


「お、俺はやめといた方がいいと思うけどなぁ⋯⋯」


「え、なんでだよ?」


「いやまぁそれはあれだよ、あれがあれしてあん時にあれしたからだよ、ほらあれだよあれ」



「木枯⋯⋯指示語の用法って知ってるか?」 


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