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10話 忘れられない体験とは。


「よぉ木枯! 今日から頼むな!」


「お、おう武本⋯⋯が、頑張るよ」


 中間テストまであと1週間に迫った朝の教室。

 一応進学校と銘打っているこの学校は、この時期になると30分程度の朝学習という時間が設けられる。


 とは言っても名ばかりのものであり、そもそも監督の先生が居ないので皆んなやりたい放題やっているというのが現状である。


 因みに、この時間がぼっちにとって一番キツイものだったりもする。


「鳴海さんは⋯⋯あ、ほら林王さん達と喋ってるじゃん、入ってけば?」


「はぁ!? 無理無理無理無理! 俺は恋愛マスターの木枯とは違うんだよ!」


 だからその恋愛マスターってなんなんですかね⋯⋯


「⋯⋯因みにさ、鳴海さんのどこらへんが好きなの?」


 俺は声のトーンを一段下げて武本にそう聞いた。


「どうだろうなぁ⋯⋯あの守ってあげたくなる感じ? うーん、なんて言えば⋯⋯」


「あぁ、なんとなく分かる。身長も低いし華奢な体だもんな、雰囲気もなんかそんな感じだし」


「だろ? 俺たち男子からの人気も林王と伊花の次に高いんだぜ」


「へぇー、そうなのか」


 普段男子と全くと言っていいほど喋らないからそういう情報には疎い。

 現に林王さんと姫香さん以外どんな女子が男子の間で人気あるのかなんて全く知らないしな。


「じゃあライバルも多いんじゃ?」


「そう! そうなんだよ! それでなんかこの学校に入って既に40人ぐらいから告白されてるらしくてな⋯⋯」


「え? でも彼氏とか鳴海さんには居ないんだよな?」


「全員⋯⋯振った、らしい⋯⋯」


 ⋯⋯おっふ。


 難易度高すぎないか?

 武本自体顔は悪くないし、ちょっとおかしな所あるけど基本いい奴っぽいが、流石に40人が撃沈してるとなるとなぁ⋯⋯


「ま、まぁでも可能性がゼロという訳でもないし、一緒に頑張ろうな」


 だがしかし、ここでやめてしまえば俺の時給1000円が消えてしまう。武本には申し訳ないが華々しく散ってもらおう。


「そう言ってもらえると嬉しいよ」


「うっ⋯⋯」


 その一切穢れを感じさせない笑顔が俺の汚れちまった心に突き刺さる。


「おーい武本! この動画めっちゃオモロイぞ、お前もこっち来て見てみろよ!」


 と、ここで武本の友達から声がかかった。


「あ、おう! 今行くわ! それじゃあな木枯」


「んっ、じゃっ」


 そう別れを告げ、彼は喧騒の中に紛れて行った。


「⋯⋯」


 後は机に頬杖をつきながら黙って時間が過ぎるのをぼーっと待つだけ。

 皆んなが騒いでいるところを、静かで遠い所から眺めるというのは気分が良いものではない。


 これがあるから朝学習の時間は嫌いなんだ。


「⋯⋯鳴海さん、ねぇ⋯⋯」


 可愛い、よなぁ⋯⋯ホント、林王グループにはどうしてあんな外見レベル高い人が集まるんだろうか。

 ⋯⋯まぁ大半が俺の好みではないけど。

 化粧濃いめだし。


 でもそう考えると鳴海さんも姫香さんと同じで控えめなメイクだし、清楚系とはちょっと違うけど大人しめな感じだよな。


 姫香さんと重なって見えてしまう。まさか彼女にも何か裏があったりしないだろうか。


「まぁ流石にね⋯⋯本当に姫香さんじゃあるまいし」


「私がどうかしたの?」


「おわっ!?」


 俺の肩の付近から顔がにょきっと生えてきた。


「あっあれ? 姫香さん? さっきまであっちに居たはずじゃ⋯⋯」


「ゆうくんがなるちゃんの事ずっと見てたから、気になって来ちゃった」


 全然気づかなかった⋯⋯

 ついにステルス機能まで搭載してしまったのか。


「と、というか大丈夫なんですか? 俺と教室で喋って⋯⋯」


「大丈夫だよ。グループの中にはもう教えてるし、他の人はお喋りに夢中で誰も見てないから」


「えっ!? 言っちゃったんですか!?」


「うん、もう沙希ちゃんに知られちゃったし良いかなって」


「そうなんですか⋯⋯」


 俺の悩みはなんだったんだ⋯⋯


「で? なんでなるちゃんの事見てたのかな?」


「あぁ、それは武本が⋯⋯はっ!」


 咄嗟に手で口を覆う。


 あっぶねぇ⋯⋯流れで口が滑っちまうところだった。


「武本君? 武本君がどうかしたの?」


「あっいやっ! ⋯⋯た、武本はカッコいいなぁ!」


「⋯⋯? 何言ってるの?」


「うっ⋯⋯な、なんでも、た、武本は関係ないから」


 そんか俺の煮え切らない態度を見たからか、彼女は少し目を細めて前屈みになり。


「⋯⋯なんか怪しい」


「い、いやー別に何も怪しくなんか⋯⋯」


「⋯⋯さては沙希ちゃんの次はなるちゃんを? ⋯⋯ダメだなぁ⋯⋯こんな手癖が悪いゆうくんは早急に治さないと⋯⋯でもどうすれば⋯⋯」


「て、手癖っ? 俺別に万引きとかした事なんて――」


「⋯⋯あ、そっかぁ⋯⋯私の事が忘れられない身体にゆうくんをすれば良いいんだ⋯⋯」


「ちよっ!? 引っ張らないで! どこに連れてく気ですか!?」


「保健室に」


「ほ、保健室? なんでまた⋯⋯」


「今からゆうくんと一生忘れられない体験をするためだよっ」


 は?


「え? なにそれ怖い。やだ! 絶対いきませんからね」


「いいから! 付いて来て!」


「だから制服引っ張らないで! あーもう、誰か助けテェェエぇぇぇぇ!」


 武本の事とかで悩むよりも、こっちをまずなんとかしなければ。


 そう改めて固く誓った。



















「ちっ、アイツ⋯⋯絶対に許さない」


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