タッタヒトコトガホシクテ
ハッピーエンドでもなく、ただただモヤります。
2限の講義が終わり、学生たちはぞろぞろと食堂へやってくる。そして友達同士で談笑しながら学食や弁当を食べる。
私も、その中の1つの女子グループの中で談笑しながら学食を食べる。目の前では、かほが彼氏について楽しそうに語っている。かほの隣に座っているれいなは「やば〜」と言いながら楽しそうに反応している。そんな2人を見て楽しんでいる……。かのように見えているだろうか?実際、かほの話なんて全く耳に入ってなどいなかった。
”あ、れいなはやっぱり笑うと小鼻が広がって見えるな…。”
”かほは面長なのになんで前髪をアップにしているんだろう?”
学食を食べながら、そんな事ばかりを考えている。2人の他にも、目の前にいる人の顔のパーツが気になって仕方ない。初めて会った人はトータルで何点と自分の中で点数を決めるのが日課になっている。大学に入学にした始めの頃はそんな事を考えた事もなかった。でも、今更辞められない。一度気になってしまったら止められるわけがなかった。へらへらと適当に相槌をうっているうちに学食を食べ終えた。化粧直しをしてくると2人に伝え、トイレに向かう。すぐさま洗面台の前に立つ。洗面台の鏡に自分の顔が映る。左、右、下、斜めと色々なアングルから自分の顔を確認する。泣きそうになりながら「ブスじゃん…。」と小さく声を洩らす。
他人の顔も気になるが、1番気になって仕方がなかったのは自分の顔だった。涙でマスカラが流れてしまわないように必死に堪える。そして、アイラインを引き直し、リップを塗りチークで血色を良くしようとする。正直、化粧で何が良くなるんだかと思うが何もしないよりはマシなはずだ。深呼吸をし、気持ちを切り替えたふりをしてトイレを後にした。何事もなかったかのように2人の所へ戻るが、雰囲気で分かる。自分の悪口や何かを言っていたのだろう。変な沈黙した空気が流れる。れいなが沈黙を振り切るかのように喋り出す。
「わらび、いい加減やり過ぎだよ。出席日数だってやばいし…。もう十分でしょ?」
高校3年の秋、部活を引退し進路を決めなければならない時期がやってきた。中学、高校とバレー部一筋で頑張ってきたが将来プロになろうとまで考えていなかった。母や父には進学でも就職でも好きなようにすればいいよと言ってもらえた。自分の好きなようにという両親の言葉に甘えて、思い切って上京してみようと考えた。大好きな地元のりんごを使っていろいろなレシピを考えたいという、その場しのぎにもならないような理由を言い進路を決めた。学部は軽い気持ちで栄養学部を選択した。理由なんてどうでもいい。とにかく上京したい。憧れの東京に住める事が楽しみでならなかった。大学は受かった。
4月に入り入学式が終わると、何日間かオリエンテーションがあった。そこで大学の説明や、いろいろな人と仲良くなるためにレクリエーションなどをさせられた。
オリエンテーションのはじめにあった自己紹介、この時既に、自分の中の悪夢が始まっていたのかもしれない。自分の番がやってきた。「飯田蕨です。青森から上京してきました。りんごがめちゃくちゃ好きです!」
とりあえずウケは狙わず、明るく自己紹介をしたつもりだった。しかし、何人かがクスクスと笑っていた。あれ?と思いながら席に座ると前の席に座る女子が振り返って、話しかけてきた。
「ねえ!わらびって本名?どうやって書くの?」
ああ、名前が珍しかったのかと思いながら蕨という字をプリントの空いたスペースに書いてみせる。「へー、山菜?の蕨と一緒やん!しかも青森ってウケんね?!」そうやって話しかけてきたのが、かほだった。ちょっと馬鹿にされているような気もしたが、初めから人間関係で問題を起こしたくないと思い、笑って適当に返事を返した。
その後に、かほが適当に捕まえて連れてきたれいなが加わり、この3人がいわゆるイツメンになった。れいなも「わらびってまじか?」と名前に反応してきた。もうこれはそういうものなんだなと思い、やっぱり適当に返事を返した。最初の名前イジリさえ乗り越えれば後は何事もなく、普通の友達としていられると思った。
大学にも慣れてきた頃、講義終わりに3人でオシャレなカフェにに行った。かわいいキラキラした見た目のケーキを注文し、各々でとにかく写真を撮りまくる。そして、かほが3人で自撮りしようといつも通りインカメラにする。何枚か撮り写真をシェアする。送られてきた写真を眺めていると唐突に
「わらびってさ〜、メイクしないの?ファンデも塗ってないよね?」
とれいなが聞いてきた。そんな事聞かれた試しがなかったので思わず黙り込んでしまった。メイクかぁと考えてみると、昔母に言われた事を思い出す。
”化粧なんて肌に悪いだけなんだからしなくていいのよ。それにわらびは化粧しなくても十分可愛いんだから。”
流石に可愛いからしなくていいんだとは言えないので、
「お母さんに肌に悪いからしなくていいって言われたからかなぁ?」
と返した。
「それはさー、わらびのお母さんの意見じゃん?わらびはメイクしたいとか思わないの?
」
と言われ、悩んでいると、かほがすかさず続けてきた。
「ウチはすっぴんとか絶対ムリ!時間なくてもカラコンは必須っしょ!?」
「あー、分かる!コンビニ行くだけでもカラコンはつけるわ〜」
2人の会話についていけないでいると、
「じゃあさー、アイプチくらいしたら?」
とれいなが提案をしてきた。
「あ、あいぷち…?」
なんとなく聞いた事があるような言葉だったが実際何なのかはよく分かっていなかった。
「メザイクだよメザイク!二重にすんの!わらび一重じゃん?それ位はしよーよ?」
れいなは真顔だったため、そんなに深刻な事なのかなと少し反応に戸惑った。
「それとも、アレ?自分はメイクしなくても可愛いですよ〜って思ってる系?やばっ!まあわらびちゃんは可愛いんじゃないの青森では?」
かほとれいなは自分を見て鼻で笑ってるような顔をしていて、急に恥ずかしさのようなものを感じて手のひらで顔を覆った。顔が熱い。耳が熱い。どうしたらいいか分からず、顔を覆ったままにしていると2人はごめんごめんと笑いながら謝ってきた。そして、自分だけ気まずい雰囲気のままその日は帰った。
アパートに帰り、一目散に鏡へ自分の顔を見に行った。目をよ〜く見る。いつも目なんて睫毛にゴミがついてないか確認するくらいなのに、今は一重でぱっちり二重ではない事しか考えられない。
「まあわらびちゃんは可愛いんじゃないの?青森では?」
れいなの言葉を思い出す。青森では一重が可愛いとされている。そんな訳がない。でも両親は可愛いと言ってくれていた。しかし、両親のいう可愛いは美人など容姿を褒めている意味ではなく、子供を可愛がる意味での可愛いなのだと悟った。別に今まで自分が可愛いと思い込んで過ごしてきたとは思っていない。あまりにも無頓着過ぎたんだと恥ずかしさも込み上げてきた。よくよく思い返してみれば、高校の友達は休日遊ぶ時顔の雰囲気が少し違っていた気がする。普通に化粧をしていたのだ。高校の友達はあえて言わなかったのかは分からないが、すっぴんの自分をどう思っていたのだろうか?顔をどう見られるか考えた事もなかった自分が不思議に思えてきた。居ても立っても居られず、近所のドラッグストアの化粧品売り場に行った。
”ぱっちり二重キープ”
と書かれた透明なテープと
”水に濡れても安心”
という接着剤みたいなものを購入した。帰ってから説明書を読みながら挑戦してみる。なんとか接着剤みたいなものを乾かしてから、鏡をみると確かに二重になっていた。もう片方もやり終えると二重の幅が左右非対称になり、何度も失敗する羽目になった。二重にするのがこんなにも難しいとは思ってもいなかった。翌日から時間をかけてでも必ずアイプチをするようになった。かほとれいなはすぐに気づいてくれた。
「めっちゃ雰囲気変わんじゃん」
「マスターすんの早くない?すごっ!」
と褒めてくれた。純粋に嬉しかった。でも可愛いとは1回も言ってもらえなかった。二重にさえなれば可愛いと言ってもらえると、どこかでそう思っている自分がいた。可愛いってなんだろう?おもむろに、”可愛い モデル”で画像検索をかける。すると様々な芸能人やモデルが出てきた。確かに可愛い。そして殆どの人がぱっちり二重だ。可愛いし、美人だ。思わず画像を保存してしまった。それなのに自分は可愛いと言ってもらえない意味がわからないと思いながらも二重の方が絶対いい事だけは確信した。
アイプチをするようになってから、ある事が悩みの種になっていた。お風呂上がりのアイプチをしていない自分を見る事だ。アイプチを取った直後は跡が残っているが時間が経てば、元どおりの一重になる。気持ち悪い。そんな風にまで思えてしまった。モヤモヤがおさまらず、”二重 定着”で検索するが、いかにも宣伝です!という嘘くさいものしかヒットしなかった。今度は”二重にしたい”と検索をしてみた。そこに出てきたのは”二重整形ならTクリニック”の文字だった。”整形”という言葉に息を呑む。少し冷や汗も出てきたが整形したらずっと二重でいられる事に興奮もおぼえた。クリニックのホームページを見ていくと症例写真があった。自分のような一重の人がぱっちり二重になっている。他の写真も見ていくと、自分より目の小さい人が何倍にも大きく、さらに二重になっていた。まるで生まれ変わってしまったのではないかと錯覚してしまうほどだった。そして、料金表を見てみた。整形の相場が分からなかったが、高い事だけは確信していた。しかし、思っていたよりも安い金額だった。両親からの仕送りもあるし、バイトの出勤を増やせば出せない金額ではない。すぐに店長に連絡してシフトを増やして欲しいとお願いした。大学の課題などもあるが二重の事を考えると自然と頑張る事が出来た。
翌月、使わないでおいた仕送りのお金とバイト代を並べる。あれから日雇いのバイトも入れた。思った以上に簡単に溜まった。わくわくしながらスマホを取り出しクリニックの予約ページへ進む。必要事項を記入してカウンセリングと施術の予約を確定した。カウンセリングだけも可能もかいてあったが、すぐにでも整形をしたかったので同日にした。
施術を受ける当日、綺麗な女の人に案内されて二重にしたいと話し、書類にいろいろ書かされた。あまりよく覚えていないが一度男の先生が来て、自分の瞼を見て
「あ〜、これは重たい一重だね!綺麗な二重にしましょうね。」
と言われた事は記憶にある。自分が受けるのは”二重まぶた全切開法”という施術だ。切るのは怖かったが重たい一重にはこれがいいと言われたのでこれにした。麻酔を打たれドキドキしていたら全部終わっていた。目が覚めたら目にガーゼやテープを貼られている。ズキズキする。少し寝ぼけているような感覚とフラフラするようや感覚が混じっていた。
「綺麗な二重になりましたからね!1週間後に確認するので、また来てください。」
と男の先生に言われ、帰った。目立つのでメガネかサングラスを持参した方がいいとネットで見たのでサングラスを持って来た。サングラスを中々つける事がないので恥ずかしかった。1週間後、確認をしてもらうためにクリニックにまた来た。綺麗な二重で問題ないと言われた。まだ、少し違和感はあったが腫れが引いて二重の線が綺麗に入っていた。これなら明日から普通に大学に行けると思った。1週間、大学もバイトも休んだので流石にやばいと危機感を抱いていた。
次の日の朝、アイプチをしない分の時間でメイクをしてみた。ファンデーション、アイシャドウ、アイライン、マスカラ、チーク、リップを重ねていく。頑張ってヘアアイロンもした。そして、鏡で自分の目を確認する。かほ、れいなはどんな反応をするだろうか?可愛くなった自分を見て驚いて、可愛くなったと言ってくれるだろうか?と妄想を膨らませていた。予想通り、2人はすぐに変化に気づいてくれた。
「ファンデもマスカラもしてる〜!休んでると思ったらどしたの急に?」
れいなのテンションが上がっているのが見てとれた。かほもメイクいいじゃんと言ってくれた。
「あれ?アイプチ変えた?めっちゃ綺麗な二重だね?!」
とかほに言われた瞬間、ついに来た!と嬉しくなった。そして整形とは言わずに
「えへへ〜〜アイプチしてるうちになんか癖着いちゃったみたい!」
と言った。勿論用意していた答えだ。実際にそういう事があったとネットで見かけた。自信満々に答えたが2人は何も言わないで黙っていた。心の中で早く可愛いって言ってよと思っていた。でもやっぱり2人は言ってくれなかった。折角、整形したのに自分の思い通りにならない2人に腹が立ってしまった。その日は2人とあまり会話をしないで帰った。可愛いってなんで言わないんだろう。そう考えながらスマホで保存したモデルの画像を見た。二重じゃん、一緒じゃん。同じ色のアイシャドウもしてる。悶々としながら画像を見つめ続ける。ふと、目以外のパーツを見てみた。顔の中心にある鼻。鼻だった。鼻筋が通っていて小鼻が小さく、とにかく鼻が高い。恐る恐る自分の鼻を鏡で見てみた。鼻筋は通っていない。小鼻なんてニンニクのように見える。横から鼻を見てみるが、鼻が高いなんてとても言えなかった。アイプチをしても整形しても可愛いと言ってもらえないのは、この鼻のせいだと思った。二重にさえなればいいと勘違いしていた自分に幻滅した。じゃあ後は鼻だけ、鼻だけ変えればもう大丈夫なのだろうか?疑心暗鬼のまま、再びあのクリニックのホームページを開いた。鼻の症例写真を見る。いい。これは理想の鼻という写真がたくさんあった。しかし、二重の時のように上手く流れは進まなかった。どの施術も高い。一ヶ月、二ヶ月じゃ稼げない。でも早くこの鼻を変えたくて仕方がない。時間をかけてコツコツなんてやっていられない。短期間でたくさん稼ぐ方法は知っていた。ネットで整形について調べていくうちに、自分のような子が短期間で稼ぐ方法を何度も見かけていたからだ。その職業の存在は知ってはいたがまさか自分が就くとは思ってもみなかった。大学行きながらキャバクラ…。勿論、両立など出来るはずもなく出席があまり出来ず、単位もギリギリだった。それでも良かった。時給1.000円の世界では考えられないくらい溜まりやすい職業だった。高時給な分辛い事もあったが、お店には自分のように整形費用を稼いでいる子がいて安心出来た。流石に一ヶ月では稼げなかったが、二ヶ月経つ頃にはかなりの貯金が出来ていた。少し足りない分は仕送りで補った。両親には何も話していないのでずっと同じ金額の仕送りをもらっていた。お店には休みをもらって、クリニックに向かった。今回のカウンセリングは二重の時より慎重、といった感じだった。細かくデザインを相談したり、リスクを話されたりした。とにかくこの鼻になりたいと保存してある画像を見せた。必死だった。また、カウンセリングと同じ日に施術を受けた。痛みが尋常じゃなかった。喋るのも苦痛で口呼吸しか出来なかった。それでも嬉しかった。今度こそ、今度こそはあの2人を見返せる。そう確信した。すぐにでも見せたかったが、腫れ、血も中々止まらず数週間は引き篭るらざるおえなかった。一人ぼっちのうえに痛みや不安で、もう整形はしたくないと思った。やっと腫れがおさまり、大学に顔を出せた。前回同様、2人が心配してくれていた。そして近づいた2人が自分の顔を見る。早く、早く言ってと心の中で願いながら2人の言葉を待った。2人は顔を見合わせ、れいなが口を開いた。
「あのさ…。わらびさ、二重の時からアレかな〜と思ってたんだけど整形…したよね?」
と、少し苦笑いも浮かべて申し訳なさそうに聞いてきた。今回の言い訳も、具合悪くて寝込んだら顔が痩せたというものを用意していたが、とてもそんな事を言える雰囲気ではなかった。褒められるどころか、同情のような眼差しを向けられてカッと顔が赤くなるのが分かった。自分が期待していた言葉とは全く違う言葉をかけられた事に驚き、その場から走り去った。それは肯定してしまったようなものだった。講義も受けずに家に帰り、布団に潜り込む。泣きながら、なんでだろうなんでだろうと連呼する。
「可愛いって言ってよ!!!!!!」
悲鳴にも似たような声で叫んだ。その日以降、またキャバクラに復帰する事にした。
そして、大学も夏休みに入り、貯金が出来たのであのクリニックの元へ来た。カウンセラーさんがどうします?と聞いてくる前に
「脂肪吸引とセットバック、人中短縮、唇フィラー!あとヒアルロン酸も入れたいです!!可愛くなりたいんですけど後は何をすればいいですか?」
と食い気味に言った。余程、切羽詰まっていたように見えたのだろう、カウンセラーさんが優しく宥めてくれた。こんなに専門用語を覚えているなんてすごいですねとも言われてしまった。それほど夢中だった。可愛くなれるなら、可愛いと言ってもらえるなら、なんだってしたかった。もうあんな痛い思いをしてまで整形はしたくないと思っていたが、このままでいる方がずっと辛くて、生きているのが苦に感じてしまっていた。流石にまとめて払える金額ではなかったのでローンを組んだ。キャバクラさえやっていれば問題ないと思い、支払い回数も少なめにした。
気がついたら包帯とバンドのような物で覆われていて、顔はほぼ見えてない状態だった。一気に複数の施術をしたため、顔中痛く、熱くてじっとしていられない、ただただ地獄だった。今回のダウンタイムは数週間じゃ済まないので丁度夏休みで良かったと思った。母に夏休みは帰省しないのかと聞かれたが自立したいのであんまり帰らないようにすると言って誤魔化した。なんとか納得してくれた。包帯が取れるまで、また引き篭もり生活になったので、ひたすら過去の自分の写真を見返して捨てたり、データを削除したりした。卒業アルバムは個人写真の部分に画鋲を刺した。他の集合写真でどうしても我慢できない所があったらマジックで消した。この作業が意外に楽しく、達成感を感じた。写真を見た瞬間は最悪だが、過去の顔を消す度に自分は生まれ変わったんだと思えたからだろう。夏休みが終わりいよいよ後期の講義が始まる。夏休み中、かほ、れいなとは一度も会っていない。メールで当たり障りのない事を少し話した程度だ。いよいよだ、と自分を鼓舞させる。今まで一度も染めた事のない髪を流行りのアッシュブラウンにした。美容院で前髪の作り方、巻き方をレクチャーしてもらって何度も練習した 。ファッションも気にするようになった。出来るだけお金はかけないで、でもデザインは可愛い物をネットで探したりした。夏休み前の自分とは全てが違うのだから。変わらないのは、りんごが好きな事ぐらいかな?と呑気な事を考える余裕まで出て来た。
しかし、後期の講義が始まってから2人とは遊んだりするが欲しくて堪らない言葉は一度たりとも言ってもらえなかった。次はどこを直せばいいのかとクリニックへ駆け込むと、もうこれ以上はする必要はないと言われた。2人が可愛いと言わないのは可愛くなった自分を羨ましく思ったり、僻んでいるからだけだから気にする必要はないと説得された。
そして最後に、
「わらびさんは間違いなく可愛いです!自信持ってください!」
と言われた。嬉しくて、思わず涙が出た。自信が持てた気がした。帰りはスキップしそうなほど軽い足取りで帰った。自分の顔がニヤけてしまっているのが分かった。ニヤけ顔をおさめようと1人でワチャワチャしていると、前の方を歩いている女の人にいかにもチャラそう男がナンパしているのが見えた。あ、そうだ可愛いとナンパされるのかあと1人で勝手にドキドキする。フラフラと歩いていると案の定
「あのー、すんません。お姉さん1人ですか?良かったらお茶しません?」
漫画かよと言いたくなるテンプレートな台詞だったが、気分が良かったのでお茶に付き合う事にした。適当なカフェに入って会話をしていると
「お姉さん、それいくらかかってるんすかぁ?」
とナンパ男が聞いて来た。
「それって?」
「顔っすよ、顔。明らか弄ってるっていうか整形顔ですもん!」
と笑いながら言ってきた。初対面でいきなり整形を見破られてしまい言い訳をする暇もなく、適当に笑って誤魔化す事しか出来なかった。その後、用事があるからと言ってナンパ男を置いてきた。
「整形顔って何なの?可愛いんでしょ?なら可愛いって言えばいいのに」
とブツブツ独り言を言いながら家に帰った。とりあえずイジる予定はもうない。そう決めていたが、整形にはリスクがつきもので当然メンテナンスというものが必要だった。ヒアルロン酸が吸収される度に、何度も注入しなくてはならなかった。糸が緩んで小鼻が広がるとまた小さくするためにメスを入れる羽目になった。自分の顔が可愛いのか、可愛くないか。どうしてここまでして可愛いと言い切れないのか。もはや自分では分からなくなっていた。可愛いと言われているあの子とは何が違うのかと他人の顔にも執着するようになった。さらには、他人の顔で気になる部分を見て、あの施術をすれば良くなるという分析のような事をしてしまうようになった。異常だ。自分のこの考えは異常である事に気付いていたが直せるわけがなかった。もう遅かった。
「わらび、いい加減やり過ぎだよ。出席日数だってやばいし…。もう十分でしょ?」
れいながその言葉を言い放った後に 、私は発狂していた。
「いいから可愛いって言えよ!!!!」