表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死にゆく国土の犠牲  作者: 射月アキラ
第3章
PR
9/11

02

「クリッフェントの王族」という立場は、私を辛うじて特別なものとして扱わせてくれた。


 しかし、今は──。


 背中に走る悪寒に体が震えた。


 静寂の神殿に再び足音が鳴ったのは、その直後のことだ。


 顔をあげた先には、大鎌を携えた死神が立っていた。


「それがお前の選択か」


 アッシュの声は、やはり低く、冷たい。


 ただの確認のように言った言葉でさえも、私を責める糾弾に聞こえてしまうほど。


 違う、と──私の望んだ選択ではない、と否定したくなってしまいたくなるほどに。


「立て」


 そう言ったアッシュの手から、鎌は煙のように消えていった。


 言葉に引きずられるように、私は立ちあがった。


 生贄としての役目すら果たせなかった私に、行く当てはない。頼るものもない私が、アッシュの言葉に逆らう権利など持てるはずもない。


 死者の書を抱えたまま、私はアッシュの元へ歩み寄った。アッシュは私の足元へ目をやったのち、振り返って神殿の出入り口に向かって行った。


 扉代わりの一枚岩を、一体どうするのだろうか。


 そう思っている間に、アッシュは右掌で扉に触れた。それだけで、巨大な岩石にひびが入り、芯と表面の区別もなく一斉に崩れ始めた。


 永らく神殿の一室を封印していたであろう岩が、突然自重に耐えられなくなったかのような──不自然な崩壊だった。


 だがそれよりも、私の意識を揺るがしたものがあった。


 岩が崩れたことにより飛び込んできた外気。


 吸い慣れたはずの外の空気が、私の知らない匂いになっていた。


 否。


 匂いが、ない。


 土、草木、花、家畜、人間。


 クリッフェントのどこにでもあったそれらの匂いが、感じとれなかった。


「全てのものに死があることを知っているか、ジャスティーナ・クリッフェント」


 アッシュの足は止まらない。


 震える手は死者の書を抱え、崩れそうな足が死神の背を追った。


 死者の書など放り捨て、立ち止まってしまいたかった。


 願望とは裏腹に、私はアッシュに促されるまま、神殿の外へ足を踏み出した。


 踏んだ芝生はカサリと音をたて、そのままぼろぼろと崩れていった。


 石の部屋から抜け出したというのに、私の目に入る色彩に変化はない。


 灰色。


 生気の感じられない無機質な灰色が、世界を埋め尽くしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ