夢叶えし者
23:45
少し早めに着いたようだ。それもこの「車」のおかげで、見た目はただのキャンピングカーだがステルスや物理抵抗(大)が付いてる優れもの。しかも自動操縦。
「作戦の確認をする」
京一の一言で車内は、静寂から緊張へと変わる
まず、能力は極力使わないこと。
それから一人で動かないことだ。
それを前提に、まずサンシャインタワーだが、一階一階確認してたら夜が明けることで炙り出すことにした。
もし出てきたら、こっそりと近づき拘束する
簡単には行かないだろうから弱らせても構わないという指示、つまり戦闘を想定しなきゃならない
それぞれ、銃や弓、木刀等をそれぞれ持ち心の準備をする
俺は拳銃2丁と鉄パイプ数本、それから包丁数本を選んだ
今は『Skype』でしまってある
試したいこともあるしな
「そこが片付いたら今度は駅の向こう側にみえる一番高いビルだ
それが終わったら居住地の確認、それで今日の任務は終わりだ」
細かいルートや移動速度、体調の確認と細かい部分が終わった時は既に時計は0時を回っていた
「オーケー、それじゃあみんな見えなくするから手を繋いで」
早く、と目で急かされる
このガキ…人の気も知らないで
手を繋ぐなんて幼稚園以来なのに…
手汗とか大丈夫だよな?強く握りすぎてないよな?
「…」
「…」
並び順は京一、中三人、俺、女だ
女 ヒト科ヒト属
学名ホモサピエンス 意味は「知恵のある人」
コミュ症男児が恐れ、同時に恋に焦がれる畏敬の最上位対象である
だが幸か不幸か数分、目的の場所で一人切り離す
…いや、俺には安堵しかない
次は俺の番だ
サンシャインシティの向かい、道路を挟んだ建物で待機だ
手を離すと姿が現れる
俺の手はグーとパーを繰り返す
「そうだ…今のうちに試しとこ…」
拳サイズの石を拾い上げ、投げる
すかさず『Skype』で収納
それを壁に向けて取り出す
ドオォォン
その轟音は前からではなく後ろから響き、さっきの石は俺に向かってカラカラと転がるが途中で力尽きる
事前に聞いていたことなので焦ることなくマイペースに振り向く
《聞こえるか?もし誰か出てきたら捕まえろ
こっちもなるべる援護する》
目に写ったのはサンシャインタワーを挟んで燃え上がる火柱で距離があっても熱さは伝わる
文字通り 炙り出しだ
《了解》
タワー真下に京一と健二と拓海
少し離れたところから俺と亜子と犬飼が見張りについてる
《…!誰か出てきた》
亜子の声が頭に響く
《京一 入り口から人が出てくる…おそらく一人だ》
上半身裸の男はゆったりと歩き、逃げる気がないように見える
《皆 構えろ》
どこか焦ったように京一の声が伝わる
《健二がやられた》
火柱は溶けるように徐々に低くなり、やがて消えた
それが合図だったかの様に亜子が弓を引き京一が銃を構え拓海が鉄パイプを両手に持つ
隠れてる場合じゃないだろ俺!
ドォォン
若いやつらが立ち向かってんだ俺も…
ドオオオオオン
俺も行かなきゃ、くそっ!
「行け!俺!」
飛び出た先は黒煙で何がどうなってるか見えなかった
いや、見えなくたって声は聞こえる
《大丈夫か!?》
距離が足りないのか意識がないのか分からないが誰も応えない
確認しようにもそんな時間はない
今すべき事は目の前に立つ半裸の男
「お前等…国の人間か?」
「…だったらどうする」
「殺す 違くても殺す」
あいつ話し合うつもりはないのか
殺すって簡単に言うなよ怖いじゃねーか
こんなの拘束とか無理あるだろ 殺されるわ
「出たからにはやるだけやってみるか…」
腹をくくった俺の手足は変わらず震えていた
『Skype』で鉄パイプを取りだし投げつける
剣道なんてやったことないし
即座に2丁拳銃を構え引き金を引く
「…」
そいつはただ手をかざし鉄パイプを爆破させる
弾もどうやら当たってない 無傷である
化け物め
真横に走りだし瓦礫に隠れるがすぐそこを爆破され無惨にも晒される
もう一度走りだし、隠れる
が、また回りを爆破され視界に収められる
それを何度も繰り返すうちに息が上がってきた
限界だ
移動中も『Skype』で呼び掛けてみたが誰も反応ない
まだ容量が分からない以上、能力は無駄に使えないし
よし、一か八かだ
目を閉じ爆発男の後ろに飛ぶ
手には包丁 それを躊躇なく突き刺す
殺しちゃまずいので勿論急所は外してる
…まだ人を殺す勇気がないだけだが
「っのやろ!」
周囲が吹き飛ぶ そう理解できたのはすぐさま瞬間移動したからだ
ここから見えるのは爆発男の背中
そこに刃物はなく、ただ傷がそこに刺さっていた事を示している
いくつか確認できた事がある
1つ 場所が分かっていれば死角でも爆破可能
2つ 人物は爆破できない
3つ そうとう場数を踏んでいる
背中に包丁を刺したときあの男は自分の回りを爆破した
このことから死角でも爆破可能だと言える
けど、俺が逃げ回ってるとき1度も爆破されなかった 爆発したのは俺のいた場所だ
きっと人物は爆破できない、と思う
最後にあの男も人間だ刺されれば痛がるし、爆発に巻き込まれれば怪我をする
集中する
目の前にある小石に手を掲げ、力を込める
「…いける」
粉々になった石を見て俺は覚悟を決める
やってやる、と
「こっちも力の限界だ、もう終わらせるぞ」
こっちだってもう限界なんだよ
久々の外だしもうお家に帰りたい
いや、最近はよく外出てる気がするが…
走り回ったから明日絶対筋肉痛だよこれ
てか生きてんのか?俺
出し惜しみせず全てをぶつけてやる
爆発男が何やら集中している隙に跳び出す
一直線に向かうのは爆発男だ、できるだけこっちに気を向けないと
「うおおおおおおお!!」
また鉄パイプを投げる
どうせ爆破されるんだから持ってた方が危険だ
「遅い!」
躱され、走ってくる
なんつー形相だよ まるで鬼だ
瞬間移動で何とか距離をとるがその瞬間俺は空に飛んだ
拳を感じる間もなく鳩尾に痛みだけが残る
小さい頃からの夢がこんな形で叶うとはな
いやいや、俺の夢は空を飛ぶであって空に飛ぶことじゃない
なんてことを考える程時間が長く感じた
「ぐふっ!?ッ…!」
地面に叩きつけられ肺の中の空気が逃げる
息が…くるしい…
なんとか酸素を吸い込み目を開くと爆発男が歩いて向かってくる
すぐそこまで来てる
逃げないと…逃げないと…
立てない、足が言うことを聞かない
もうダメか?死ぬのか?
爆発男が立ち止まっている
どうやらこちらではなく反対側に足を向けていて、少し視線を上げると肩に矢が刺さり血が流れているのが見えた
今だ 動け
「す…『Skype』」
薄れ行く意識の中、最後に振り絞った声を出す
あぁもうダメだ…
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