勝利の甘味・敗北の苦汁
扉を少しだけ開き、スッと身を滑り込ませる。
直ぐ様しゃがみこみ壁に手をついて移動する。
FPSやっててよかった。
電気が通っているか分からない、ならスイッチを探す必要はないな。
ずっと暗い部屋に籠ってたんだ、これぐらいすぐ慣れるだろう。にか分からないが目の前の台車には大量に5kg程の業務用のクラフト袋が積んである台車1つで12袋。それが8台ほどある。
「う、うごくにゃー!」
一瞬で体に緊張が巡りとっさに台車の影へ身を隠した。
「か、噛んだぁ…」
なんだあいつ、ドジっ娘か?
息を殺し、覗いてみるとドジっ娘はキョロキョロしていて、こちらの居場所は把握していないようだ。なぜバレたんだ、能力か?やはり隠しているだけで夜でも使えるのか?ああ!くそっ、考えるのはあとだ!
それにしても…
「ど、どこにいるんですか~?」
暗いからよくわからんが、髪の毛はサラサラで肩までありハイウエストジャンパスカートを着ている。
ごくり。
「いやいや、あんなオタサーの姫みたいなやつ…俺にはもっと美少女の嫁がいつかできるんだから。浮気はだめだ」
胸を強調してるやつは自分のことをかわいいと思ってるやつだろう。リア充が。
とにかく、このままじゃいずれ見つかってしまう…どうする…
すぐ傍の壁に手をやると、違和感を感じ耳をくっつけると
ヴヴゥゥゥゥゥゥゥと羽虫のような音が耳から侵入し、まるで脳まで到達したかのよう不快感。
「電気がまだ通ってるのか…よし…」
ゆっくり開くと鋭い冷気が肌を刺す。
動きやすい格好ということでTシャツ短パンはまずかったかな…大丈夫だ。すぐ入ってすぐでるだけだ。
よし、あとは…
「おんやぁ?」
ガラガラガラガラ
音を立てドジっ娘の方へ向かっていく。
だがそれをなんなく避けるがまだ来る。
80kgの台車が連続で8つ。
「自分で居場所教えてどうするんですかぁ?」
そういい放ち、暗いなか全ての台車を避け、さっきまで俺がいた場所へと走る。あいつドジっ娘か?あやしくなってきたな
「あっれ~いないやー?"力"かな?」
「俺に"力"なんてもんなないんだよ小娘」
冷蔵庫の中で俺の声が響く
「"力"がない役立たず?なんのためにいきてるのかなぁー」
ドジっ娘は冷蔵庫の中へと足を入れた
よし!内心ガッツポーズしながらさっき投げた台車に隠れてた俺が、反対側から加速して行く。ドジっ娘後ろから思いきり蹴飛ばす。ドロップキックだ
「うにぁあ!?」
可愛らしい声をあげるドジっ娘だがその目にはたしかな殺意が芽生えていた。
俺は素早く冷蔵庫の入り口付近に置いといたケータイを拾い上げ、扉を台車で塞ぐ。
女の子の力じゃ80kgなんてどかせないだろ。
おっこれ小麦粉じゃん
どうやってもって帰ろうかな…
「いってぇなクソジジイ!てめぇ殺す!絶対殺してやっかんな!覚えとけよくそがああぁぁぁ!!」
やはり。ドジっ娘は設定で猫被っていただけである。
ネットでどれだけ女を見てると思ってるんだ
「相手が悪かったか小娘」
「ふっー…ふっー…」
冷蔵庫の中だ、体力を温存することにしたんだろう。まぁ頭を冷やすのに丁度いいんじゃないか?
そして俺には初めての感覚の余韻に浸っている。勝ちってこんなに充実感に満たされるのか
やばい癖になりそう、超気持ちいい
でも喧嘩の初勝利が自分よりかなり年下って…
考えるのやめた正幸である
とりあえず何か食えそうなもの探さないと
「あ」
すぐさま中から駐車場を確認する。
よかった、まだBBQ してた。6人いるところを見ると、あの女監視役かなんかか?
「全然残ってねぇじゃねえかよ…」
陳列棚には商品はほぼ並んでいなかった。
そりゃそうか、来るのが遅すぎた。
台車を1つ拝借し、冷凍庫の鶏肉、うどん、それから小麦粉を20kg乗せ自宅へと帰還する。
半分ほど進んだ時、急いで戻り裏口付近で叫んだ。
「だれかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そしてすぐさま隠れる。
久々に大声を出したせいか声が裏返ったな、まぁ別に問題じゃない
気配探知系はおそらくあのドジっ娘だけだろう。じゃなきゃすぐ来てる。
表の駐車場でBBQ してた6人がすぐさま駆けつけた。
ここからじゃ声は聞こえないが、しっかり冷蔵庫からドジっ娘を出してやったところで俺は帰路に着く。
鶏肉をカラスに1/3持ってかれた
くそっ俺にも"力"があったらなぁ
初めての戦いに勝利した俺はすぐさま敗北を味わうのだった。