錬金術師
「いやーごめん、まだ話せないかな。確証ないし」
「……ならいいや。」
あの口振りからしたらどうせ生存を確認した、とかだろう。
一瞬だけど、春ちゃんが悲しい目をした気がした
「そうだ、俺の能力って『劣化コピー』だよな?」
「うん?なんか気になることでも?」
「うーん……いや、どうでもいいことだ。」
少し不思議そうな顔をしたがすぐに唇の端を持ち上げる
それから戻ると
「あっ、ユッキー!ちょっと手伝ってほしいんですけど」
京一が駆け寄ってきた
「あっ、えっと……な、なに?」
「なにびっくりしてるんですか。頼みがあるんですけど」
「なんだ、どうした」
「実はパーティーをやることになりまして、準備の手伝いをしているんですがユッキーにも手伝って頂きたい」
今さら賑やかな雰囲気が辺りを占めていることに気づいた
「パーティーねぇ……で、俺は何をすればいい?」
「このあらぐらのどこかに畑をやっている人がいるらしいんです。その人から色々貰って来てほしいんです。僕は忙しいのでお願いします。」
「色々ってなんだよ。ってかどこかってど……」
うん、逃げられた。
どうせあれだろ?「何々が足りない!」ってなったら俺のせいっていう……くそ
「せめてどこにいるか教えろよ」
文句を言っててもしかたない、畑を探せばいいんだな
このあなぐらもそんなに広くないだろう
……ふざけんなよ
「広すぎだろ!」
疲れた 倒れよう
無駄に部屋多いし 人に聞くのは最終手段だ
「あれ、なにしてるの」
「迷子?」
泣き黒子とヘアピンの双子が俺を見下す
「えっと、はは畑を探してて」
「落ち着きなよ」
「たしか…ユッキー?」
「おっさんをあだ名で呼ぶな」
一瞬どもりかけたが大丈夫、相手はガキだ
「畑なら反対側だよ」
ヘヤピンの方が答える
「あ、ありがとう。えーっと…」
「僕が兄の陽。能力は審議眼」
「僕が弟の夜。能力は一時的な能力の無効化」
なるほど。ヘヤピンが兄で泣き黒子が弟か
「審議眼ってのは?」
「いい人か悪い人かざっくり見分ける」
「なんだそりゃ」
いい人と悪い人の定義
やはり陽の中の基準があるのだろうか
人それぞれ…か
「ありがとな。パーティやるみたいだからまたあとで。」
そのまま来た道を戻り、進むとたしかに畑があった
しかし……まぁなんというか不思議だ
「あのー」
1番近くにある案山子に話しかけてみる
ただの屍のようだ
「生命センサー反応。認証中です。」
「うわ!」
なんだ案山子が喋っただけか
「…って、こりゃ機械か?」
よくみると鉄らしい光沢でよくわからないがゴチャゴチャしてる
それにボロい布が被さっているだけだ
「認証失敗。登録外生命と判断。任務遂行に移行。戦闘モード。だけ直ちに退去せよ。直ちに退去せよ。」
ガチャガチャと機械らしい音を立てながら変形していく
プロペラが回転し始めドローンのような形になる
決定的な違いはいくつもの銃を構えてる所だ
訳もわからず眺めていると、そのいくつもの銃が光を溜め始め事の重大さに気づく
「警告無視。強制排除の条件を満たしています。」
とっさに手をあげ弁明する
「俺、畑、野菜、ほしい、パーティ、みんな、材料!」
いったい俺はなにを言っているのだろうか
そもそも機械相手に言葉は通じんだろうよ
「あ〜まってまって!戦闘モード解除、コード『イジメ、ダメ』!」
その言葉に呼応して光が収まっていく
「マスターの声紋、及びコード確認。戦闘モード解除します」
「危なかったね〜。あ、ちょっとこっちきて。」
言われるがまま案山子へと戻る機械に近づくとなにやらいじり始めた
丸眼鏡に汚れたオーバーオール
左手にはラチェット 反対の手で俺の手首を掴んでいる
砂のかかった金髪のショートからは甘い香りがした。
「新規登録。発声及び生脈のデータを入力してください。」
「…」
「ちょっと!黙ってちゃまた襲われるよ。なんでもいいから喋った喋った!」
「あ」
「データが足りません。」
「最初はハンドルネームでも何でもいいから名前の登録だよ」
なぜ先に言わない
本名はなぁ……しかたない
「ゆっ、ユッキー」
「ぶふぅ!おっさんのセンスwwwユッキーてwww」
「手を出してください。」
落ち着け
俺は煽り耐性の持ち主だ
しぶしぶ右手を伸ばす
「登録完了。以後よろしく」
「これでもう襲わないから。すまなかったね」
「命の危機を感じたが、初めてじゃない。」
それからパーティのことを話すと
「そりゃあいいね!好きなだけ持っていって。ストックはまだあるし、野菜はまた育てればいい。」
「ここ、一人で管理してるのか?」
入り口はせまいが中は広く 十じゃ利かない種類の植物が規則的に葉を伸ばしている
「ほとんど案山子が管理してるよ。まぁ案山子を作ったのは私だけど」
さっき襲ってきた案山子は地に一本の足を刺してから微動だにしない
「他の連中は手伝ってくれないのか?」
「いいの、これは罪滅ぼしだから」
あぁ なにかめんどくさい事情でもあるのだろうか
できることなら関わりたくない
なぜなら俺にできることはなにもないからだ
「……あんたまた地上に行くんだろ?」
一応目的もあるんだしずっとここに滞在って訳でもないだろう
「多分な」
「なら条件がある」
「なんだ?タダではくれないのか?」
「実は畑を保つ為のエネルギーと素材が足りなくなってきてね。」
「素材?」
「あぁ、私はエネルギーと素材さえあれば何でも造れる。いや、どこまで造れるかわからないけどね」
首を捻っていると
「まぁ、なんでもいいんだ。最悪私の体を素材にしてでも畑を守れればいい。私の能力は『変換』でね、エネルギーを別のエネルギーに、素材を別の素材にできるんだ。上位互換は無理だけどね」
「そんなもん食いたくない。発電機なんか造れないのか?」
「作れない……ことはないんだけど、やっぱり肝心の素材がなくてねぇ。それにソーラーパネルとか風力発電だとどうしても地上に置かなきゃならないしね。」
ため息を漏らすが生憎、俺は気のきいた言葉を知らない
「別の人に頼んでくれ」
「すまないね。あったばかりでこんなこと頼んじゃって」
「力になれなくてすまない」
「そう思っているのなら何か素材になりそうな物があったら何でも持ってきてくれ。」
それから大きな袋いっぱいに果物やらを野菜やらを詰め込んだのを渡され
「土産、楽しみにしてるから」
めんどくさいが無視するのもめんどくさい
そんなめんどくさいことを考えながら案山子に背を向けた




