六ノ舞「逃走」
俺は走った。
むちゃくちゃに走った。
どこへ行こうが関係ない。ただ、あいつらから逃げ出せればいいのだ。
「後ろだ!逃げたぞ!!」
あいつらの声。
追ってくる足音。
そんなの関係ない。
ただ、逃げられればいいのだ。
生きられればいいのだ。
走り出してからしばらくして、町とも思える場所にたどり着いた。
左右に木造の長屋。
そしてかなりの数の女と、男。
みんな着物を着ている。
女のほうは、とても華やかな色彩ゆたかな着物。
男のほうは、武士のように刀を刺した男や軽い、寝巻きに近いような格好をした髪を結っている男。
――ここはどこだ……?京都?だとしたら、祇園か……?
女は舞妓か芸子だろう。
だが、男の格好が説明がつかない。
何故刀を刺している?
それに女と男が揃って、江戸のような格好をしている?
「(何かの撮影……、違うな。この匂いは酒か)」
鼻をつくような酒の匂い。
酒を飲んでいない俺でも酔ってしまいそうな濃い、匂い。
そして、女の化粧のような匂いと、
どこからかする、栗のような甘い匂い……。
撮影とはとうてい思えない。
それに、祇園でもない。
もし祇園や今の五花街なら、こんな女と男がベタ付いているはずがないだろう。
「(まさか……!!)」
すぐ近くの店と思える家に掲げてあった、赤提灯を見る。
そこには
島原
と、くずし字で書いてあった。
「(島原遊郭……)」
逃げなくてはいけないのに、速度が遅くなる。
脱力感と、絶望感。
「(ここは現代じゃない……、江戸時代だ!!)」
さきほどの男たちの格好。
まるで忠臣蔵のような水色のはんだら模様。
そして、長州という言葉……。
新選組……。
「(幕末の京都……!!)」