四ノ舞「歴史」
尚子さんと別れたあと、俺は二階の歴史関連の本棚を読み漁っていた。
俺は、文系が大好きだ。
本を読むことはこの上なく幸せなことだし、文字を書くことは好きだ。
暇があれば本を読んでいるし、色々と思考をめぐらせることが趣味だった。
それを生かして、将来哲学科のある大学に進みたいと思っている。
だから、歴史書を読むことも好きだった。
偉人たちの行動はとても面白い。
尊敬する行動を取る偉人もいれば、思わず笑ってしまいそうな行動を取る人物もいる。
その人物の生涯、行動、すべてが面白く感じられる。
「だいたいの本は目を通したな……」
毎日のように読み漁っていると、だいたいのを読んでいる。
まぁ、この図書館にはそこまでの量はないが。
本棚に視線を泳がせる。
何か面白いものはないか……と。
世界史、日本史……すべてを読んだとはいえないが、興味のあるものはすべて読んだ。
もうここには面白い本はないだろう。
本屋でも行って買おう……。
そう思い、歴史覧の本棚を離れようとした時だった。
「――ん?なんだ、これ?」
本棚の一番下の段に目立たなく置いてある、一冊の古い本。
厚さは文庫本二冊ぶんくらいの、普通の本。
題名は「命燃え 」
途中の、文字が消えかかっている。何て書いてあるのだろう?
それに、こんなボロイ本置いてあったか……?
そんなことを思いながら、手に取ってみる。
自然と手がその本へいったのだ。
ページをめくってみる。
古本独特の、土のようなにおい。
嫌いではないそのにおいは、ますます俺の興味を惹いた。
「新選組の本か……」
新選組。
今から数百年前に、幕末の京都で活躍した志士たち。
局長である近藤勇をはじめとして、厳しい掟のなか動乱の世を切り抜いていった男たち……。
俺の知っている知識はここまでだ。
くわしいことはよく分からない。
あまり興味がなかったのだ。
「ずいぶんとくわしい年表が書いて……ん?」
新選組隊士一覧のページに、俺とよく似た名が載っていた。
東 結紀
紀、の字の違いを除けば同姓同名変わりない。
それにこの時代にこの名前はめずらしい。
その隊士の名を、目次で探していると一番後ろに東結城と、小さく書いてあった。
まったくの同姓同名。
この時代、読めれば紀だろうが鬼だろうがよかった。
そのため同一人物にいくつもの字が、かわって記載されていることがあった。
しかし、城……。
他人事に思えなかった俺は、その最期のページをめくってみる。
東 結城
隊士見習い。
池田屋騒動前に入隊の古参隊士。
年齢わずか、十六。
土方……
とたん急激なめまいがした。
あまりの突然さに体が持ちこたえられず、体勢をくずした。
足がないかのような浮遊感。
世界が回転するような感覚。
そして、俺の視界を阻むような睡魔。
「…………っ!!」
頭をハンマーで叩いたかのような激痛。
そして、いつの間にか俺の視界を奪っている白の世界。
「ぁ……あ……」
俺は、気を失った――。