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REZALL─リザル─  作者: Bluesky
3/5

EP3








 エリュシオンの血液は『リザル』と呼ばれ、僕たちの生活に欠かせないものである。


 そのエリュシオンとは、普通に生活していればまずお目にかかれない生き物だ。


 僕が初めてエリュシオンを見たのは7歳のとき。アレスに連れられてオリジン博物館へ行ったときのことだった。


「あれがエリュシオンよ。養育過程にオリジン博物館の見学があるから連れてきたの。見るのが嫌だったら、すぐに言うのよ」


 アレスがそう言ったのは、僕が5歳のときにエリュシオンの血液を誤って飲んだ事件を思い出してのことだろう。あの時僕はとても辛い思いをした。それが原因で、両親とは別居している。アレスは母の友人だ。


「わぁ……大きい……」


 特に嫌だとは思わなかった。僕の住む『第2保護区シグザウェル』には学校が存在せず、親が子どもの教育を担う制度が設けられている。僕の養育を担っていたのは、実の母ではなくアレスだった。そのアレスが連れてきてくれたのだから、しっかりと目に焼き付けておきたい。僕はそう考えた。


 ショーケースの中には、エリュシオンの剥製が飾られていた。全長約5メートル、高さ3メートルの四足歩行の獣である。


 飾られていたのは、紫を主体とし赤のラインが数本入ったごく一般的な固体だった。爪はとても鋭く、ツノの部分から黒い触角が生えている。目や耳や鼻はどこにも見当たらず、尖った牙が寸分の狂いもなく綺麗に生え揃った口が印象的だった。




















EP3 『接触』







 今日は特別な日だ。


 昨日、僕の携帯にルイス先生から連絡が入った。そう、待ちに待った先生の来店だ。


 開店前のCzではアルバイトの子たちが掃除をしていた。ピアノの練習をするために、僕は昼間から店に顔を出している。一人暮らししているアパートに電子ピアノを置いているが、やっぱり弦を叩いて弾きたい。


「おや、早いですね。練習ですか?」

「あ、マスター来てたんだ。今日はルイス先生が来るんだよ」

「ルイス先生が。それは、頑張らないといけませんね」


 スタッフルームから出てきたのは、マスターことガリルだ。アレスの愛人で、Czの仕事を紹介してくれた人でもある。


「リダ君、今日は車じゃないんですか?」


 マスターはそう言うと、店内から駐車場を一別した。


 実は最近、看護師のスオミに運転禁止令を出されたばかりだ。リザルの副作用のひとつに末端器官の一時的なマヒがあり、昔と比べると薬で抑えきれないほど重症化している。運転するには事欠かないのだが、しばらくは控えたほうが賢明だと釘を刺されている。


 ガリルはすぐに察したようだった。


「練習もほどほどにね」

「わかってる」


 それ以上は何も言われなかった。


 アルバイトの子に断りを入れてから、グランドピアノの置いてあるステージへ登る。既に緊張気味なのか、指先が汗ばんでいた。緊張なんて何年ぶりだろう、とおかしな気分になった。


 たくさん緊張すれば、だんだん感覚が麻痺して何も感じなくなる。というアレスの言葉を思い出した。初めてのコンクールで緊張して泣いていた僕にとってその言葉は衝撃的だった。


 僕にピアノを教えたのは、育ての親のアレスだ。


 7歳の僕は、アレスに言われるがままピアノを弾き始めた。アレスは僕に、過去の辛い出来事を忘れて没頭できる何かを与えたかったのだろう。


 きっかけはアレスと見に行ったジャズのコンサートだ。「鍵盤を適当に叩いてるだけじゃん、あれなら僕にもできそう」という、かなり不順な動機だったが、アレスはにっこり笑って「じゃあ今日からジャズを弾こうか、リダ」と僕に返した。


 勉強も運動も得意ではなかったが、ピアノだけはなぜか上手くなった。


 僕はジャズが好きになった。そのときその時の気分で変幻自在に表情を変えるジャズの魅力に引き込まれた。僕の好きなように、楽譜と違うように弾いてもそれが認められるのだ。


 アレスによる養育過程が終了し、その証明となる養免βを取った日に、ガリルからこの仕事を勧められた。ガリルがマスターを勤める、ジャズバーCzのピアニストだ。その時僕は未成年だったから、成人してから、という約束で。


 ……だから、僕が緊張するなんてありえないんだ。大丈夫だぞ、リダ。お前はやればできる。


 店内に、バイトの子が床を掃く音と、マスターがグラスを磨く音と、僕のピアノが響いてとても心地よかった。そこに、今は聞こえるはずのない鈴の音が交ざった。


「今やってるの?」


 チリン、と控えめに揺れたドアのベルに、いっせいに皆の視線が集まる。一番に口を開いたのはマスターだ。


「申し訳ありません。開店は17時からでございます、お客様」

「そうなの、ごめん。ピアノの音が聞こえたからさ」


 アルバイトの子が、しまった、という表情をしていた。大方、ゴミ出しか何かで鍵を開けっ放しにしていたのだろう。


 若い男は立ち去る様子もなく、店内を見回して、ステージにいる僕をじっと見つめた。


「せっかくだし聴いてっていい?」

「お気持ちは嬉しいのですが、17時にご来店ください」

「そっか。じゃ、また来る」


 パタン、と静かに閉まったドアに、全員がほっと胸を撫で下ろす。


「鍵は忘れず掛けるように。ああやって勘違いしたお客様が入ってこられるからね。いいかい?」

「はい、すみませんでした……」


 それから、なんだか弾く気にもなれずそうそうに練習を切り上げた。マスターには夕方また来ると言っておいて、近くの喫茶店で時間を潰すことにした。


 掃除を終えたバイトの子たちが、控え室で鍵を掛け忘れた子を慰めている。


「気にすることないわ、レイラ。そもそも、ちゃんと準備中の看板を立ててたんでしょう? はやとちりした相手も相手だわ」

「マスター、怒ってないかなぁ……?」

「あのくらいでマスターが怒るわけないでしょう。あなたちゃんと謝ったんだから大丈夫よ」


 僕からも一言励ましの言葉を入れ、裏口から店を出た。寒風が容赦なく僕の身体を叩きつけ、もう秋なのだと実感させられる。さらに今日は車もないんだから苦行だ。


 気だるげに一歩を踏み出すと、僕は誰かに頭を掴まれた。
























 * * *










 せっかく綺麗に髪をセットしてきたのに。


「あんなに強く引っ張らなくてもいいじゃないですか! もう、ボサボサですよ」

「ごめんごめん。まさか君が出てくると思わなくって」


 さっきの男が裏口で出待ちしていたなんて、誰が予想できよう。


 そして、どうして僕は今、見知らぬ男とお茶をのんでいるんだろう。


 僕はオリジン市街のシンボルであるメリディアルタワーが見えるカフェに来ていた。と言うか、無理矢理引っ張って連れてこられた。


「それ食べねーの?」

「甘いもの苦手なんです」


 じゃあ先に言えよー、と、男は頬を膨らました。言ったのに聞く耳持たずで注文したのはどこのどいつだ。


「俺、パラド。昨日19になったばっかだから祝ってくれてもいいんだぜ」

「リダっていいます。Czのスタッフです。17時から深夜25時まで、持ち込み可のジャズバーCzでピアノ弾いてます。ラテンジャズが得意です。Czはただいま初めてのお客様限定で飲み放題サービスキャンペーンを実施しています」

「ここまで来て営業かよ……リダはいくつ?」

「19ですよ。誕生日は半年前に過ぎました」


 案の定、同い年じゃん、とパラドは騒ぎ出した。こうなるだろうと予測して歳を言わなかったのに……。正直このノリにはついていけない。


「今日久々に休み取れたから飲もうと思ってさ~。リダって毎日あの店にいんの?」

「ええ」

「いいな~、ああいう落ち着ける職場で働きたいよ、俺も。今日なんか休みだって言うのに上司から仕事任されて」

「それなのに遊んでていいんですか?」

「めんどいからいいの。俺こう見えて実績は上げてるから! あと、敬語やめてよ、俺そういうの苦手」


 好き勝手言われて少しムッときたが、僕も同年代に(特にこいつには)敬語を使いたくないとたった今思ったので丁度良い。


 パラドがなまじ良い服を着ているのでどこのお坊ちゃんかと思っていたが、自分で稼いでいるのか……ちょっと見直した。努力している人は好きだ。


「そういえば、リダは来年の定例会行く? って、なんか真面目そうだしサボるわけないよな。俺は見ての通りだからぶっちゃけダルいわー」

「え、待って、何のこと?」

「ああ、リダは最近の子だから知らないのか。ガーディアンズ本部のマリセラって奴に聞けば教えてくれるぞ。俺からは説明するのめんどいからパス」

「いや、だから……」


 どうして同い年のパラドに最近の子呼ばわりされなきゃいけない。


 何が何だか呆けているのを尻目に、パラドは僕が食べきれずに残しておいたレモンケーキをかっさらっていった。よくそんな砂糖のかたまりが食えるもんだ、アレスと良い友達になれるぞ、お前。


「まぁ……いいや。僕、もうすぐ出勤だから。はい、これ、お茶代」

「待てよ、俺も一緒に行く」

「はぁ? 一緒に店に入ったらおかしいだろ」


 こうして一緒にいること自体おかしいんだから、少しは空気を読んでほしい。彼に(つか)まらないよう急ぎ足で席を立った。


 急に、目眩がした。こんな時に、と悪態をつく暇もなく、僕はパラドの胸に倒れこんだ。


「おい、リダ、どうした」


 パラドが咄嗟にささえてくれたおかげで床に頭をぶつけずに済んだ。薬を飲む暇はなさそうだ。周りの客や店員が僕を見ていたので、僕は一時も早くここを去りたかった。パラドに「ごめん」と言って足早に店を出る。


 会計を済ませたパラドが後を追ってきた。


「なんで一緒に行ったらダメなんだよ」

「なんででも、いいから……お前は一人で来い。じゃあな、もうついてくるなよ」











 と言ってこの男が言うことを聞くわけもなく。


「リダ、さっきからずっとあそこに立ってるの、誰?」


 「開店まで待ってる」と言って、パラドはずっと外からこちらを見ている。たまに目が合っては手を振ってくるのだ。


「えっと……なんか、知り合い。一応お客様だから、あんまりジロジロ見ないであげて」

「何それ、どういうことよ」

「僕が聞きたいかも」


 そう言うと、ドラムのデイジーはさらに怪訝な顔をして開店作業に戻った。


 僕はと言うと、調子が悪くずっと座りっぱなしだ。


 体内に砂を詰め込まれたように重い。指一本動かすのにも骨が(きし)んでいるのが聞こえる。


「リダ、大丈夫ですか?」

「ああ。大丈夫、弾けるよ」


 今日は特別な日なのだ……こんなことしている場合じゃない。


 僕のすることには基本的にノータッチなマスターだが、さすがに今日は心配して声をかけられた。


 控え室に戻り、誰も見ていないことを確認して、薬をむさぼった。息も絶え絶えにそれらを飲み込むと、体が軽くなったようだった。薬が効いてきたというより、まるで薬を飲んだという事実で気分が良くなったようだった。


 僕は、確実におかしくなっている。




















 * * *








 すっかり日が落ち、店も盛り上がりを見せ始めた頃、ルイス先生はやってきた。


 すぐにでも演奏をやめて先生のもとへ行きたくなったが、今日は僕のピアノを聴きに来てくれたのだからそういうわけにもいかない。カウンター席に座った先生と目が合うと、心臓がドキっと跳ねて、鍵盤を叩く指が軽くなったようだった。不思議な感覚だ。


 と同時に、ステージの真ん前の席で楽しそうに談笑するパラドにため息を吐いた。一瞬だけいなくなったので帰ったのかと思ったが、今はこうして僕からよく見える席に座っている。僕目当てで来店している女性客のロジーと楽しそうに盛り上がっているのも気に食わない。その方は僕の客だぞ。


 ルイス先生はマスターと話している。あの二人は昔から仲が良い。何かと話が合うのだろう。




「お疲れ様、リダ。カッコよかった」


 僕の演奏時間が終わった。これから盛り上がる、という今の時間帯はいつも僕の担当だが、ザ・空気読める男のマスターがシフトを変えてくれていた。


「ありがとうございます。ごめんなさい、汗かいてて。ステージすごく暑いんです」


 せっかくきめた髪はパラドにぐしゃぐしゃにされるし汗かくしで散々だが、ルイス先生の笑顔の前ではそんな気遣いもふっとぶようだ。


「先生、車?」

「いや。部下に送ってもらったよ」

「じゃあ、飲むってこと?」

「そのつもり。そういえば、リダと飲むの初めてだ」


 僕がいつも飲んでるお酒をマスターに頼んで、その後は三人でいろんなことを話した。主に僕の話だ。マスターが、僕が小さかった頃の話ばかりするから気が気じゃなかった。何か変なこと言われないか、って。先生も先生で食いつくし。


「リダはまったく彼女ができませんでしたね。自分よりピアノが上手な子がいいとばかり言ってましたから」

「い……いいじゃん、別に」

「いいですけど、あと何年かけて探すつもりなんでしょうね」


 マスターがやれやれと視線を斜め上に逸らした。


「リダは昔からピアノ弾いてたの?」

「はい。7歳から15歳の間、アレス姉さんに教えてもらいました」

「楽譜どおりに弾かない、自分勝手に改変して弾いて満足する問題児だったと聞いています」

「マスター、変なこと言わないで!」


 すごいじゃん、とルイス先生が笑う。もう、恥ずかしい。


 僕以外の話題、ルイス先生のことも聞きたかったのに、先生が僕のことばかり聞いてくるからそれだけでかなりの時間が過ぎた。僕の話なんていつも診察のときにしているのに……。


 だめだ、アルコールのせいで顔が赤い。


「それそんなに強いんだ?」

「えへへ、僕が弱いだけです。飲んでみます?」

「うん、いただこうかな」


 うわぁ、間接キスだ……。


 って、何考えてるんだ。先生に申し訳ないと思わないのか。僕なんかと間接キスさせて。


「うわ、辛い……辛すぎる……」

「えぇ、そぉですかー?」

「ごめん、辛すぎて涙出てきたみたい……」


 声を震わせて、笑いながら涙目になった先生がなんだかおかしくて僕は笑い転げた。


「マ、マスター……」

「リダは酔うと笑い上戸になりますからねぇ」

「違う、チェイサー……チェイサーを……」

「ああ、ハイハイ。私としたことが、気が利きませんでした、はは」


 炭酸水を受け取った先生は、それを一気に飲み干した。僕のそんなに辛いのかな? 確かに甘いのは嫌いだから辛めのお酒を飲んでいるが、自分ではこれくらい普通だと思っていた。


「ねー、リダ、いつになったらこっち来てくれんの?」


 なかなか笑いが収まらない。カウンターにつっぷして腹を抱えて声を殺していた僕は、はじめその声に気づかなかった。


「あ、ねぇマスター、コレ、持ち込み可って聞いたからリダと飲むお酒持ってきたんだけど」

「はい、かしこまりました」


 そいつが僕の頭を強く掴んだところで気がついた。パラドだ。


「あ、それやめろって言っただろっ」

「うわ、真っ赤じゃん。可愛い」

「可愛くない。あっち行け」

「無理。リダが放してくんないと」


 はっと気がついた。僕は座ったままパラドの胸にもたれ掛かっていたのだ。


 飲みすぎるとこうなるからいけない。パラドは厚かましくも僕の隣の席を陣取った。


 ルイス先生とパラドに挟まれて、何か言いようのない寒気を感じた。


「……リダの友達?」

「違う、ぜんっぜん違うからね、先生。こいつなんかストーカーだ!」

「はぁ? 何てきとーな事言ってんだよ!」

「仲良さそうだけどね」


 先生、何言ってんだ。どこをどう見たら仲良く見えるんだ? こんな奴と仲がいいなんて、先生に誤解されたらたまったもんじゃない。


 でも、どうしてか先生、笑ってた。そういえば僕、先生に友達を紹介したことなかった。そもそも紹介できるような友達いなかった。友達……いなかった……。


「さっきリダが休憩してる間に、急いでリダの好きそうな酒持ってきたんだけどー」

「……やだ、誰が飲むかよ」

「じゃあいいし。マスター、俺の分だけでいいわ。あとそれキープできる?」

「ハァ!? お前、また来る気!?」


 初めて来た店にボトル持ち込んでキープなんて、図々しすぎる! と思ったのは僕だけみたいで、マスターは笑顔で「できますよ」と答えた。まぁ、こんな奴でもマスターからしてみれば大事な客なのか。いや、俺にとっても大事なお客様だと言いたいところだが……──


「お前だけは何かイヤだ」

「可愛い顔して言われてもなぁ」

「あーやだやだ、気持ち悪い。先生助けて~」


 ルイス先生は(もた)れかかった僕の頬に手を当てた。冷たくて心地よくて、思わず目を閉じると、困ったような笑い声がして頭を撫でられた。パラドとは大違いだ。


 その後もなんだかんだ盛り上がって、先生が帰るまで僕は飲み続けた。明日も仕事があるというので控えめに飲んでいた先生だったが、最後は少し顔が赤かった。迎えが来たと言うので、先生を外まで見送りに立った。


 冷たい空気が火照った身体を包んで心地よい。先生は車に乗り込む前に、僕の頭を撫でてこう言った。


「凄く楽しかった。今度はパラドのことも話してね。リダの友達のこと、もっと知りたいから」


 先生は僕の頭から手を放し、紅潮した頬についばむようなキスを落とした。


「あ、え……」

「じゃ、今度の診察でまた会おうね」


 車が夜の喧騒に紛れて見えなくなるまで、僕はそこに立ちつくしていた。


 パラドが背後にいることにも気づかなかったくらい、僕の頭は逆上(のぼ)せていた。


 カラフルなネオン街の看板の色がぐちゃぐちゃに混ざって、自分が何を見ているかわからなくなった。目が回っていた。髪が抜けるくらい強く捉まれ、ぐい、と後にひっぱられる。


「おい、あの先生帰ったんだろ。今から俺の相手しろよ」

「さっきからほんと偉そうだな……」

「お前はほんと、なんつーか……人間くさいな」


 馬鹿にしてんの? と言い放つと、パラドは「だって、お前、」と言いづらそうに口ごもった。


 また、目が回った。キスされたときのとは違う、激しい痛みを伴う目眩だった。


「リダ! くそっ、またかよ──」


 パラドの僕を呼ぶ声が聞こえる。


 辛うじてパラドの表情が確認できた。綺麗に生え揃った少々鋭い歯が、小さい頃博物館で見たエリュシオンそっくりだ、と思った。その口がしきりに僕の名前を呼んでいる。そのうち音も聞こえなくなった。


 全ての景色が滲んで見えた。気を失う直前、また心臓が、ドン、と跳ね上がった。


 



















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