プロローグ
『どんな願いも叶えよう。
ここへ辿りつけたのなら』
メディヴァル。
それはどんな願いをも叶える宝石。
この深緑と霧のグライア・メディエノル国に古くから伝わる伝説。誰もが知っていて、もはや誰もが信じない夢物語。数多の願いを携え、人々があらゆる森の奥へ向かったのは遥か昔のこと。一人も願いを叶えては戻らないその事実。幾多の願いが人知れず消えた。
かつて建国の英雄が魔を払い、この地に平安をもたらしたときにも、その宝石は力を貸したという。だが願いを叶える石を一人の手元に置くことは、余計な争い事を呼ぶ。
政を信頼のできる仲間達に委ね、その石を元の場所へと返すため旅に出た英雄は、そしてそのまま戻らなかった。
曖昧なその場所だけが、詩人により広まる。
地図も存在しない道程。広大な、魔物の棲むという森。その奥で口を開ける深く暗い地の裂け目の底。ひたすらに闇が続く洞窟の、気が遠くなるほど先。冷たい地底湖の真ん中に、宝石はあるのだと。
(目印など何もない、それは、進んでみれば確かにわかることだった)
金には換えられないその価値は、世の権力者に留まらず誰しもを魅了してきた。それを手に入れることができれば、全てが手に入る。できないことなど何もないのだから。
けれど。
(至高の宝玉と讃えられるその石が、結局はどんなものだったのか。そこまでは…誰も教えてはくれなかった)
僕は思案するばかりだ。
全てを叶える、メディヴァルの前で。