くっころ
よくあるくっころネタです。
そこにいたのは、オークであった。
あの、オーク。
まさかオークが分からない者はいないとは思うが、ここでは一応説明せねばなるまい。
その巨体、生殖、面相、能力的な面においてまさに人間とは様相を異なる一種族である。
猪のような顔をしているとも、豚のようだとも、鬼のようだとも、はたまた醜悪とも怪物とも、様々に言われるその容貌は、事実決して美しいとは言えまい。しかしそれは一般的な人間――エルフやドワーフなどを含んだ人間種と呼ばれる種族の価値観からであり、その尺度において異相であることは生物として歪であることを意味しない。
猪が猪の顔をしていることを醜いとは言うまい。
ヘビにはヘビの、牛には牛の、馬には馬の、そしてオークにはオークの造形があり、彼ら自身がいかなる基準で美醜を判断しているかはさておき、異形なりに均整が取れているとも言えた。人間の強面という言葉では足りぬ恐ろしい顔つき、ぎょろりと落ち窪んだ眼窩と巨大な目玉、赤黒い肌、そして暴虐を表情としたかのような悍しい笑顔。
すべてのオークは異常なまでの性欲に溢れていると言われ、短い一生のうちに多くの子を成そうとする本能に支配されている、などとして忌み嫌われている。
そのオークと相対するのは、一人の美しい戦士であった。
それもエルフの女騎士だ。
エルフ。
これも分からない者がいないなどありえないと思われるが、解説をしておくべきだろう。
人間とは異なる点においてオークと同じ。しかしその美貌は男女問わず、美しい人、として崇敬の視線を浴びること甚だしい。森に住む妖精とも言われ、単なる人間ではありえない整った容貌から、まるで宝石のように扱われる存在である。人間にとって最悪の醜男がオークであれば、エルフは美男美女の代名詞として知られている。
そんなエルフの女戦士の格好は、実に優美であり、その仕草ひとつとっても素晴らしい。華麗なレイピア捌きは歴戦の剣士のそれであり、軽装鎧はミスリルか何かで、身につけた防具の薄さは素早さを主としているのであろう。魔法に長けた種族とも言われ、わずかに長い耳と物語めいた美貌とが人間との差異として語られる存在であった。
しかし、そのエルフの女騎士、おそらくは高貴なる血を注いでいるであろう彼女は、自ら襲いかかったオーク――腰布だけを身にまとい、手には雑な作りの棍棒を持っている、最強と言われるかのエルフの女騎士であれば決して負けることのありえない雑魚――に、あっさりと返り討ちにあった場面である。オークの手際はいっそ鮮やかなほどであった。
オークは獣と同じような存在であるが、驚くことに言語を解すると言われている。
しかし、残虐であり、ひとたび戦場に出たオークは人間の男を殺すか、女を犯すまでは止まらないとすら言われている。
ゆえにこそ蛮族。
オークは殺さなければならないと、エルフの女騎士はそう言い聞かせられて育った。
負ければ慰み者になるのは間違いないのだ。
「くっ、殺せ!」
女騎士は叫んだ。犯されて殺されるくらいなら、と。
しかしオークはその瞳に理知の色を輝かせ(ry
◇
エルフの女騎士はオークの言葉に悩みながらも、首を横に振った。
「くっ、信じられるかっ! わたしは貴様の思い通りになどならん! 早く殺せっ!」
しかしオークは辛抱強く(ry
◇
エルフの女騎士はオークの集落に辿り着くと、嘆息した。
剣はオークに預けてしまった。
「くっ。だが、わたしを欺こうとしてもそうはいかん……見極めてやる。従うのは今だけだ」
しかしオークは柔和な(ry
◇
エルフの女騎士は一ヶ月過ごしたオークの家から別の場所に移るにあたり、表情を険しくし、凄まじい勢いで詰め寄っていった。
剣は返して貰ったが、使う機会もないので手入れする時以外は物置にしまってあった。
オークに見下ろされてはいたが、エルフの女騎士は何ら恐れることなくこう言い放った。
「くっ、なぜわたしを家から追い出そうとするのだ……料理が出来なかったのがそんなにダメだったのか……!」
しかしオークは首を横に振り(ry
◇
エルフの女騎士は苦しげな声を上げていた。
「くっ、くっ」
しかしオークは動きを(ry
◇
エルフの女騎士は大きくなったお腹を撫でながら遠い目をしていた。
特に監視もない。修練のために剣を振っていても誰にも咎められない。
家から出てきたオークを睨み付け、無造作に剣を突きつけた。
「くっ、昨日はどうしてあんなに早く寝てしまったのだ……! いや、貴様の寝顔は嫌いではないが……おかげでわたしは……っ」
しかしオークは目を細め(ry
◇
エルフの女騎士は幼子を抱きながら、微笑んでいた。
が、仕事から帰ってきたオークの胸元を叩いて、拗ねたように言った。
「くっ、そろそろ二人目を作っても良いのではないか……っ」
しかしオークはそのたくましい腕で(ry
◇
エルフの女騎士は泣いていた。
生命力に溢れているオークだが、その寿命は短命だった。
「くっ……貴様、わたしを置いていくなぞ許さん……あの子たちもいるのだぞ……っ」
しかしオークは眠るようにして(ry
◇
エルフの女騎士は過去を思い返し、唇を噛み締めた。
「くっ……」
しかしオークはもういない。
ただ、オークとのあいだに生まれた三人の子だけが、幸せな日々の名残だった。