第七話「刀と片付けと観察と」
「さーて、片付けるわよ」
「はい、お嬢様」
朝食を終えると、蝶華は部屋へと戻り荷物の片付けに取りかかる。片付けと言っても家具などの大きな物は既に業者に頼んで有るから、実質蝶華が片付ける事と言ったら、自分の洋服と私物くらいだ。
「いい?アンタやることは服を畳んで私に渡す、ゴミの後片付け、いいわね?」
「はい、お嬢様…しかし、別に僕は一向に構わないのですが…」
「何?」
珍しく一つ返事で返さない辰馬を見て、蝶華は訊ねた。
「…服は仕舞うとこまでやらせて貰えないでしょうか?」
少々控えめな声で答える辰馬。
今辰馬は蝶華に跪いている体勢なので、蝶華を見上げる様にしている。その状態――上目遣いでそう言われると、蝶華もそう強くは当たれない。
「うっ…な、何で?…」
再び訊ねる蝶華。
「お嬢様がおやりになると、何時服がグシャグシャになりますなので…」
「……」
反論しようの無い事実である。
蝶華は家事全般は勿論の事、おおよそ『片付ける』という行為が苦手…というか出来ない、皆無なのである。
本家に居た頃も、自分の部屋を自分で掃除した事は全く無く(というか出来ない)何時もメイドに任せていた。しかし、そのメイド達の休む間も無い程、蝶華の部屋の荒れる早さは凄まじかった。
ゴミ一つ無い綺麗にされた部屋、そこに蝶華が二時間も居れば、部屋は荒れ放題。床中にゴミやチリが散らばるのは当たり前で、机や椅子はひっくり返り(?)本棚の中身は全て流れ落ち、悪い時は硝子まで割れている(??)
そんな蝶華に片付けるをやらせたらどうなるか?
…考えるまでも無い。
「ですからどうか、僕に任せていただけませんか?」
「…分かったわよ」
蝶華は渋々了承した、しかし…
「で、でも下着だけはダメよ!あと私物も!」
「…分かりました」
……ちっ………
今微かに、辰馬から舌打ちが聞こえた気がした。
「何よ文句あんの?」
流石の蝶華も怒りを覚えた。
「いえ別に…下着を畳むフリをしながら○○○○とか××××したいなど思ってもおりません」
そうきっぱりと、綺麗な笑みで辰馬は言った。
「…変態、その言葉○×が無かったらこの作品、即刻18禁にされるわよ」
「すみません、お嬢様」
と、謝ってはいるものの、笑みは一切崩して無いので反省してるかどうかは怪しいところだ。
まぁ、何時もの事だ。
「はぁー…とりあえず、服は頼んだわよ?下着は絶対に触らないでよ」
「はい、お嬢様」
さて、服を辰馬に仕舞わせている合間に、蝶華にはやらねばならない事がある。
(アイツが服を片付けてるうちにこれ仕舞わなきゃ…)
「お嬢様、終わりましたが?」
「うわ早っ!」
段ボール20個分は有っただろうという大量の服が、ものの1分もしないうちに、全て片付けられてしまった。いや早い事にこしたことはないのだが…
「よれしければ、そちらの荷物も――」
「く、くんな変態っー!」
蝶華は腕はブンブン振り、全力で辰馬を私物の有る箱へと近づけまいとする。
「ちょっとでいいから部屋から出てけっー!」
「…分かりました、失礼します」
と、一礼し辰馬は部屋から出ていく。
「はぁ…」
と、ため息を漏らす蝶華。
ドアに耳を当て、辰馬が近くに居ない事を確認すると、私物の箱に手を掛けて開けた。
「こんな事してる何て…辰馬には絶対バレないようにしなきゃ」
『辰馬の観察帳』と題された数冊の分厚い本を眺めながら、蝶華そう呟いた。
蝶華の着ている服の胸元にある大きな赤いリボン。
これに、小さなカメラが仕込んで有るのだ。これにより撮影した画像や動画を、この観察帳に日々記録している。これは辰馬に見られたくない。
(絶対に見られたくないわぁ、何でかってぇ?決まってるじゃない!私の面子云々ていうのも有るけど、何より面白さが半減しちゃうじゃないのよ、撮られているのを知らず、撮られている辰馬が可愛くて堪らないのよっ!)
と、一人妄想の世界へと旅立つ蝶華。
それからもう一つ、見られたくないものが有る。
「……」
『友達を作るには?』という本。
こん物を持っている何て、友達の居ない寂しい奴だけだ。…蝶華の様に…
(こっちも…見られたく、ないわ…不安にさせたく無いもの)
私物を本棚に片付けると。
「辰馬ーもう戻っていいわよー」
「あ、お嬢様ナイスタイミングで」
「?」
辰馬は、何やら細長い木箱を持って戻ってきた。
「辰馬、それ何?」
と、蝶華は訊ねる。
「ああ、これは…」
辰馬は箱を開け、中に有る物を取り出す。
「これです」
「刀…?」
辰馬が取り出したそれは刀のようだった。
反りは少なく、鍔もないし、柄にも鞘にも装飾は全く無い黒一色の刀。
「何で刀なんかを? 」
「SBには主人を守る為に武器を携帯する事が義務づけられているのです」
ちょっと急用ができたので、一旦失礼しましす。