第六話「変態館の朝は騒がしい」
筆者は朝弱いです。
蝶華ちゃんは早起きさんです。
シャワーからあがり、タオルで身体を拭た。着替えの洋服も言ったとうりちゃんと用意されていた。
着替えを済ますと蝶華は長い黒髪に手をやる。
(まだ少し濡れてるなぁ…)
自分の腰辺りまで届くほど長い髪だ、ドライヤーを使っても乾くまで時間が懸かる。
(少しくらい濡れててもいっか、その内乾くだろうし-)
「いけませんお嬢様!」
「…」
後から声がした、辰馬だ。
しっかり閉めた筈のドアの鍵は何故か開けられていた。
「…鍵はちゃんとしたと思うけど?」
「お嬢様のお髪の一大事です、ドアの鍵くらいどうて事ありません」
「意味分かんないわよ変態」
このドア、内側からしか閉じられないし開かない筈なんだが…
「しっかり乾かさなければお嬢様のお美しい髪が傷んでしまいます!僕が乾かしますからどうかそのままでわ…」
「何よ?私の事より私の髪の方が好きなの?」
「滅相もございませんっ!僕はお嬢様の全てが大好きです」
「なっ…」
蝶華は顔を赤める。
「い、いきなり変なこと言わないでよっ!」
「別に変なことではありません、それこそ頭の天辺旋毛から脚の先まで全てですっ!」
「変態!、とっとにかく乾かしなさい!」
「はい、お嬢様」
辰馬はドライヤーとタオルを手に取り、蝶華の髪を乾かし始めた。
鏡の前の椅子に座り、蝶華はムスッ、とした顔をしていた。逆に辰馬はいつもどうりの笑顔で作業する。
「お嬢様、朝食の方はどうなされますか?」
ドライヤーをかけ終わり、櫛で蝶華の髪をとかしながら辰馬は問い掛ける。
「…あんまり食欲無いわ」
「昨日は夕食を取られていないのでせめて朝食は取られてわ?…万が一にもお嬢様がご体調を崩されたら僕は腹を切らなければなりません」
「別に私が体調崩しても誰も怒らないし、誰も困らないわよ」
蝶華はあっけらかんと言う。
「いえ!僕が困まります、そして僕が怒ります」
「…怒るって私に?」
以外という訳ではなかったが、結構真剣に言われたので少し驚いた。そして辰馬におそるおそる聞くと。
「いえ、自分にです」
辰馬は笑顔で答えた。
「お嬢様の身の回りで起こる不幸災いは全て僕のせいなのです、たとえかすり傷一つでもなさったら僕は死をもってでしか償えません」
「重い、そこまでしないでいいわよ」
蝶華は呆れたように言った。
「…アンタがとっても忠実なのは知ってるから」
「お嬢様…」
「さ、髪ももういいでしょ?ご飯食べに行くわよ」
椅子から降りると身を翻し、ラウンジへと向かう。
「あ、はい!お嬢様」
辰馬も嬉しそうに後へと続く。
ーーーーー
ラウンジに着くと既に何人か先客が居て、それぞれ朝食を取っていた。
「お嬢様、メニューの方はいかがなさりますか?」
辰馬が訊ねる。
「うーん…じゃあシリアルで」
「かしこまりました」
辰馬は一礼し、キッチンの方へと赴いた。
キッチンに居るコックに頼みに行くためだ。
辰馬が朝食を取りにいく間に、蝶華は席に着いた。
すると、不意に後からスパイシーな香りが漂ってきた。振り向くと誰かがカレーを食べていた。
(朝からカレーか…)
蝶華はまず朝からカレーは食べないので少し以外に感じたが
(…朝カレーというのも聞いたことあし…珍しい訳じゃ無いのかな?)
そう考えた。
「お待たせ致しました、お嬢様」
辰馬がシリアルの入った皿を持ってきた。
「ん、ありがと」
皿が蝶華の前に置かれ、スプーンが添えられる。
スプーンに手をかけると同時に、後から先程とは違った匂いが蝶華の鼻孔をくすぐった。
(…この匂いは)
蝶華は再度振り向き、驚いた。
さっきまでカレーを食べていたのにいつの間にかラーメンに変わっていた。
(も、もう食べ終わったの?…)
少食の蝶華考えられない量と速さだった。
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
後を向きっぱななしの蝶華に心配そうに声をかける辰馬。
「な、なんでもないわよ」
蝶華は前を向き、スプーンを手に取りシリアルを掬う。シリアルはミルクを吸ってすっかりふやけていた。
ふやけてたシリアルを食べていると、右側の肩をツンツン、とつつかれる感覚が。
蝶華はつつかれた方に目をやると、そこにはパフェを食べているショートカットの女の子が立っていた。昨日見た、あの女の子だ。
どうやら、さっき後に居たのはこの女の子だったらしい。
「な、なんですか?…」
蝶華が訊ねる。
「…貴女…は?」
と、女の子は聞き返す。
(…名前を聞いているのかな?)
と蝶華は思い。
「鶯谷蝶華、です」
そう答えると。
「…悪魔野魔論…よろしく」
と、女の子は返事した。
「悪魔野…」
蝶華はその名字に聞き覚えが有った。
悪魔野家は、日本屈指の医療一家で、鶯谷家との交流もある。勿論、交流があるといっても親同士の話しで蝶華はほぼ無関係だが。
「ここに住んでいたの?」
蝶華が質問すると。
「うん…ここで…臨悟のSBやってる…」
「臨悟…ああ、あん時の中二野郎ね」
昨日の鉄門での事を思い出す。
「うん…臨悟…中二病」
「否定しなかいんだ…」
「うん…」
そういうと、魔論は食べていたパフェにのっているイチゴを取り、蝶華に差し出す。
「え?な、なに?」
無言で出されたので少し驚いた蝶華。
「…あげる…仲良くしようね…?」
「あ、ありがと」
蝶華がお礼をいうと、魔論は食べてた食器を片付けてラウンジを後にした。
「ふ、不思議な人だっなぁ…」
貰ったイチゴを見つめながら蝶華は呟く。
「そうですね」
辰馬も頷く。
蝶華は朝食を終え、ラウンジの出口に手をかけると-
ガチャ、とドアが開く。向こうから誰かが開けたようだ。
「うーい…ん?」
ドアから出てきたのは180センチ越えの大男だった。髪はボサボサでダルだるのジャージにサンダルといった格好で良く言えばカジュアル、悪く言えばだらしない。そして蝶華は、この男を知っている。
「ふん、久しぶりですね秋村」
前にも話しに出てきた夜良秋村だ。
「おお蝶華、久しぶりー」
「相変わらずだらしない格好ねぇ…」
「お前も相変わらずだなー、で誰?後の人ヒト」
秋村は辰馬を指さし、蝶華訊ねる。
「ただの私のSBよ」
と答えると。
「へぇーお前が近くに男置いとくなんてなー」
「ふん、前居たメイドより使えるから持ってるだけよ」と返す蝶華。
「持ってるってお前…まぁ元気そうで何よりだわ」
「ふん、…そうえばアンタのSBは?」
「ん?ああ蒼伊か、ここに居ると思ったんだけど…」
「仲はどうなの、いいの?」
「何?心配してくれてる?大丈夫大丈夫、めっちゃいいぜ?そりゃも俺の彼女?見たいな?ははっ」
「また冗談を-」
ダンッ、テラスの方から何かが飛んできて秋村の影を刺した。おそるおそるお見てみると、クナイだった。
「おー蒼伊、居るなら返事しろよな」
「…何が彼女よ!テメーの彼女何てまっぴらよ!」
相当怒っているようだ。
「まぁそう怒るなよ、俺はいいけど今蝶華ちょー危なかったし、お前キャラ崩壊してるし…」
秋村がそうたしなめると。
蒼伊はハッ、として蝶華に振り向きこの上ない万勉の笑みを浮かべる。
「ち、蝶華ちゃん?ご、ゴメンねぇー」
申し訳なさそうに頭を下げる蒼伊。
「た、大丈夫ですよー?気にしてませんし…」
正直、すっごく怖かったんだが…
「ホントにゴメンねー…元はと言えば秋村が悪いのよ!蝶華ちゃんに変な事言わないでよこのバカ!」
悪りー悪りー、冗談のつもりだっだけどなー、ははっ」
「はぁ…とりあえず、私用事あるからこで…蝶華ちゃん、行ってきますのチューして?」
「やだ」
蝶華は即答で返した。
蒼伊に連れられ、秋村もどこかに行ってしまった。
「ふー…」
蝶華は溜め息を吐き、腰に手を当て、天井を見上げると心の中でこう呟いた。
(ここの朝って…騒がしいわねぇ…)
溜め息の割には、何だが楽しそうにしている蝶華であった。