第一章-春の変- 第1話「変態館」
変態とは…変態である!
by作者
「変態館に?…私が?」
鶯谷蝶華。この春から高校生になるの15歳だ。
「はい、御父上様が…」
で、蝶華の前で無様に跪くのは執事であり、下僕の司之宮辰馬。
……執事というかただの「変態」である。
辰馬によると、私の父が「高校に行くなら家を出ろ」と言ったらしい。変わりに高校から程近い「マンションKAWARINO」に移れとのこと……
春の暖かい、優しい風が、カーテンを静かに揺らしながら吹く。
「ふんっ……」
私は読みかけの本に栞を挟み、掛けていた眼鏡を外し「ふぅ……」と息をつく。
「ああぁ…思い詰めて溜め息をつくお嬢様…素敵です!…」
何時もと同じく、変質な発言をする辰馬。
「変態」
更に何時もと同じく、この一言で辰馬を罵る蝶華。
「ほーんと変態よねぇ辰馬はぁ……」
「光栄です、お嬢様」
微笑んだまま、辰馬は言う。
「ま、予想はしてたわよ。あの男が考える事くらいすぐ分かるわ、私が邪魔なのよ…アイツは」
「お嬢様……」
「もういいわ、アイツの事で時間使うのも勿体無いわ」
*****
「早く行くわよ辰馬」
身仕度を済ませ、車に乗り込む蝶華。
「……お嬢様、御父上様にご挨拶しに行かれないで宜しいのですか?」
辰馬が車のドアを開けながら訊ねる。
「必要ないわ、不用よ不用」
「分かりました」
蝶華の即答に、今更驚くことも無いだろう。
辰馬は心の中でそう思った。
車を走らして早10分。
窓ガラスに映る自分越しに流れる外の風景を眺めながら呟く。
「でもまさか『変態館』に移れとはねぇ……」
先程から蝶華言っている「変態館」とは、蝶華がこれから移る「マンションKAWARINO」の通称である。何故「変態館」と呼ばれるのか、勿論理由がある。
「変態館ってアレでしょ?変態ばっかっていうあの……」
「はい、変態な方々が多くいらっしゃると聞いております」
蝶華の問い掛けに辰馬が答える。
「なんか嫌な気分ねぇ…私は変態じゃないわよ」
辰馬の頭を蹴りながら、蝶華は返す。
表情を変えずに蹴る訳だから…かなりの『ドS』もといい、十分『変態』だと思われる。
が、蝶華は認めない。
「いえ、お嬢様は十分変態だと思われますが」
辰馬は率直に返す。
「はあぁ!?冗談じゃないわよこの変態!」
珍しく反論した辰馬に怒りを露にし、ガンッと、蹴りをより一層強くする。
「そうですね、申し訳ありませんお嬢」
尚も笑みを崩さずに答える辰馬。
もうここまでくると完全にただの『変態』にしか見えない。
そんなやり取りを続けて数十分。
「着きましたよ、お嬢様」
どうやら変態館に到着したようだ。