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第十三話「大っ嫌いな変態の帰還」

夏は暑い…

嫌な奴にも遇ったり…by筆者

ミーンミーンミーン

ジジジジジジジジジ


蝉の煩い7月。

6月のジメジメも嫌いだが、うだる様な真夏の暑さの方がもっと嫌いだ。


「暑い…」

と、呟きながら朝食を摂る蝶華。

もう制服は夏服で有る。半袖のシャツに短めのスカート。

夏は男女共に、自然と肌の露出が増える。

蝶華も例外では無い。


今日の朝食は、オムレツにサラダ、クロワッサンにフレッシュジュース。

どれもかなり量が少ない。


「ご馳走様、とでも言っておこうかしら?」

食事を終え、椅子から立つ蝶華。


「お嬢様、食器を御下げ致します」

と、辰馬。

相変わらず何時もと同じ、上下黒一色に統一されたダークスーツ。

見ているだけで暑くなる。



「あ、いいわよ、自分でやるわぁ」


「え?しかし…」

少し驚いた感じの辰馬。


「いいの、今日は私が下げたい気分なのぉ」

と、食器を手に取り、カウンターの方へ向かう蝶華。


「ああお嬢様…貴女は何と慈悲深い御方ななのでしょう、こんな下劣な家畜以下の僕の為にその綺麗な御手を煩わせるなんて…何とお優しい…」

目を潤ませ、感激した様子の辰馬。


(お、大袈裟ねぇ…)

と、心の中で言う蝶華。


(それに、たまには私も、辰馬の為に、何かしてあげたいし…)


カウンターに空の食器を置く蝶華。


「おう蝶華ちゃんか、珍しいな」

アホみたいに長いコック帽を被った、黒光りの筋肉男が、ドスの効いた声で話し掛けた。

彼の名前は料理場調造(チョウリバチョウゾウ)

いくらなんでも偽名かと思う程、ふざけた名前だ。


見た目は厳つく、近寄り難いが、性格は中々気さくで、フレンドリーだ。

蝶華にも、気軽に話し掛けてくれる。


「何っ時もあの執事君が下げに来るのに」


「ふん、今日は偶々自分で下げたかっただけよ」


「そうかい」

調造は笑顔で返す。

言っては悪いが、どう控え目に見ても、カタギには見えない。

どう見ても、裏社会の住人にしか見えない風体だが、彼の作る料理は素晴らしく美味だ。少食の蝶華でさえも、最近は少し食べ過ぎてしまう程だ(今朝の朝食も普段の蝶華からすれば多い方)


聞くところによると、彼はここに来る前まで、ありとあらゆる料理屋に居たと言う。

それこそ、某高級ホテルからその辺のラーメン屋までエトセトラ…

しかし、何処も長くは居なかった。

長続きしなかったのでは無い。

柄の悪い見た目の所為で、あちらこちらにたらい回しにされたのだ。


酷い偏見だ。


そして最終的に、流れ着く形でたどり着いたのが、ここ『変態館』こと、『マンションKAWARNO』の厨房…

もうここに勤めて3年に成るらしい。


「で、美味しかったかい?」

と、調造。


「べっ…別にそんな美味しくなんか無いわよっ!」

と、蝶華。


(って何言ってんのよ私!ホントは美味しかったんだから美味しいって普通に言いなさいよ〜!)

と、心の中で叫ぶ蝶華。


「そうかい、じゃ不味かったのかい?」

と、聞き返す調造。

何故か笑顔で、少しからかう様に言った。


「い、いや…不味い訳じゃ…」

(あう…怒らしちゃったかな…)


「じゃ美味しかったのかい?」


「うう…そっ…そう思いたいなら思えばいいんじゃない???」

(うわーー!何で素直に言えないのよ〜!!)心の中で、頭を抱え、悶える蝶華。


「はははっ、なら良かったよ」

と、ニコニコ笑いながら調造。


「あ、そうそう」

思い出したかの様に、突然話題を変える。


「え?どうしたの?」

蝶華も少し驚く。


「んいやね、ここ最近さ、お皿とかスプーンとかの食器がよく足りない…と言うか無くなるんだよ」

と、調造。


「?」

何故そんな事自分に言うのか、蝶華は分からなかった。

(な…なんで私に言うのかしら?…)


「いやそれがね、どうも君の使った食器が主に無くなるんだよ」

と、調造。


「え?」

(どっ…どう言う事?…)


「今日はちゃんと揃っているけどね、君が下げたからかな?」

と、調造。


「………」

蝶華は、無言で辰馬の方を見る。


辰馬は変わらず、笑顔だ。清々しい程に。


「はぁー…」

蝶華は溜息を吐く。

食器の犯人は辰馬だと、察したからだ。


…盗った食器をどうしているかは、考えない事にしよう。


―――――


「…じゃあ、行くわよ辰馬」

鞄を持ち、返事を待たず歩を進める蝶華。


「はい、お嬢様」

と、変わらぬ笑みで辰馬。


ガチャ


車のドアを開け、乗り込む蝶華。

後に続き、辰馬も運転席に乗る。


ブォォン


「ふぅーーー〜ー…ーー〜〜………」

何だか、もの凄く長い溜息をつく蝶華。


「暑かった…」

目は何だか虚ろだ。相当滅入っている様だ。

「大丈夫ですか?お嬢様」

と、心配そうに辰馬。


「大丈夫じゃ無いわよ…もっと冷房効かせて」


「はい、お嬢様」

辰馬は冷房の温度を限界まで下げた。



そうこうしている内に、学校の門が見えた。


「着きましたよ、お嬢様」


「んん…むにゃ」

どうやら、うたた寝をしていた様だ。

眠そうな声で返す蝶華。


「ああお嬢様っ!…眠たそうにされるお姿も何と愛らしいのか…」

変態の目を輝かせながら言う辰馬。

そんな辰馬に。


「変態」

と、短く返し。


「じゃあ、行ってくるわ」

と、言う蝶華。


「行ってらっしゃいませ、お嬢様」

蝶華に向かって、深々と頭を下げる辰馬。


―――――


今日は終業式。

1学期の終いで有る。


蝶華の通う学校では、毎期終業式に、その期の成績が発表される。


ただ、勉強が得意で無い人には気の毒な事に、その成績の発表のされ方が『張り出し』なのだ。


終業式の朝に成ると、校舎の入口付近に大きな看板が立てられ、全校生徒の成績が晒される。

こうやって、学校側は生徒達の学力の向上の士気を保とうとしているらしい。


しかし、まぁ、蝶華にはあまり関係無い事だ。

特別得意な訳では無いが、特別苦手な訳でも無いからだ。


さて、順位を確認するか。


……蝶華は、54位の様だ。

全校生徒474人中。

本来なら、もっといい点でもいいのだが、あまり順位を上げ過ぎると、何やらしょうもない嫌味を買う。

かと言って、またあまりにも下げ過ぎても、今度はそれをネタにからかわれる。

それ事態はいい、些細な事だが、そんな醜態を本家の鶯谷家が許す筈が無い。


だから何とか、丁度いい順位を保たなければ成らないのだ。

真面目に勉強している者から見ると、ふざけた話だが、蝶華は仕方無いと思っている。


こうやって、何とか弱い自分を守っている。

誰かに守って貰うのでは無く。


自分、で、だ。


「蝶華ちゃん…」

不意に声を掛けられた。


「悪魔野さん?」

声の主は、同じクラスに同じマンションに住む、悪魔野魔論だった。

服装は蝶華とあまり大差無く、校則通りの 夏服の制服だ。

ただ少し違うのは、大きな声では言い難いが、胸部に有るだろう。


「順位…どうだった?…」

と、魔論。


「……え?ああ、54…だったけど」

と、蝶華が答えると。


「んむ、高い」

ちょっとムッとした魔論。

何時もは見せない珍しい表情だったので、少し驚いた。


「え?えと…」


「私よりちょっと高い、悔しい」


「あ、ああ…」

こんな表情の魔論も、中々可愛いものだ。


「因みに、何位だったの?」

その場の雰囲気で、訊いて見る蝶華。


「449位」

と、さらり答える魔論。


(ち…ちょっとじゃ無い気が…)


「うん、ちょっとじゃ無い…かも?」

と、魔論。


「う……」

また聞こえてた…


「ご、ゴメンね…」

蝶華は申し訳無さそうに謝る。


「?」

魔論は不思議そうな顔をする。

どうやら気にしてはいない様だ。

そうこう話していると。


「おーい!魔論ー!」

と、後から大きい声が…

このシチュエーション、前にも似たような事が有った様な…声も聞き覚えが有る。


「おお!此所に居たか!」

声の主は案の定、臨檎だった。

服装は相変わらず、よく分からないマントに謎の鎖付きの手袋。

一応、下の制服は夏服だ。


「……アンタは何位なの?…」

と、出会い頭に唐突に質問を投げる蝶華。

率直に気になったから。

それに少し、嫌な予感がしたからだ。



「む?蝶華か、何位とは一体何の話だ?」

と、臨檎。


「期末成績の順位よ」

と、返す蝶華。


「448だが?」

と、けろりと返す臨檎。


(やっぱり…)

蝶華は心の中で呟いた。

嫌な予感が適中したのだ。


チラッ、と、魔論の方を見る蝶華。


「…?」

小首を傾げて、頭の上に?を浮かべる魔論。

「…わざと?」

と、小さな声で訊ねる蝶華。


「何が?」

と、返す魔論。

全く分からない、と言った表情だ。

でも…多分だが。


わざと合わせている。


魔論が、臨檎に。

意図的か、偶然なのかは分からないが…


臨檎が魔論合わせている、と言う可能性は少ないと見た。

普段の素行から考えて…


「お前達は一体何を話してるのだ?…まぁよく分からんが、いいとしよう、では魔論よ!行くぞ!」


「うん」


契約の名の元に、全てを我に委ねよ!全ての風よ!


と、臨檎が高らかに叫ぶ。


……契約って何よ?…何と契約しているのよ…


そんなツッコミも消え失せる程、堂々とした中二っぷりだ。

本当に、何か能力が使えるのではないか?…と、錯覚してしまう。


「行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

と、魔論に担がれながら、大声で叫ぶ臨檎。

だっ


前回同様、煙たい土埃を巻き上げて、校門の遥か先へと駆けて行った魔論達。


「…」


やっぱり騒がしい二人だ。


蝶華は苦笑した。


「さて、と」

何時までこの場に立っていても仕方が無い。そろそろ辰馬を喚ぼう。

そう、口に出そうとした刹那。


キィィィィィィィィィィィィィ!!


耳障りな、喧しい悲鳴の様な音が、突如聞こえた。


「ひやっ…!?」

突然に奇音に、びくっ、と跳ね上がる蝶華。

(い、一体何?…)

恐る恐る、視線の方へ目を向ける。


黒塗りの縦長のリムジンが止まっていた。

さっきの音の正体はこの車のブレーキ音なのだろう。

その証拠に、道路はタイヤの跡で黒く汚れ、プスプスと煙も上げている。


「ん〜〜、なかなか荒々しくて、良い運転だったぞ、運転手よ」

と、リムジンの中から声が出てきた。

この危険な運転を、批判するのでは無く評価するとは…


「『ドS』で良いでは無いか!」

付け加えた様に、その声は言った。


「げっ…!?」

その声に、思わず悪寒が走る。

良く聞くと、聞き覚えの有る声だった…


そう、思い出したくも無い、大っ嫌いな『変態』の…


「ふう〜、久しい学舎では無いか〜!我輩の事を待っていたか?待ち焦がれでたか?〜わっははは!」


ホントに大っ嫌いな、幼馴染みである。



音村死音(オトムラシオン)が、帰って来た。来てしまった………………




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