第十二話「梅雨は変態が活発に」
季節は流れ、6月。
ジメジメとした梅雨の朝。
蝶華はこの季節が苦手だ。
ジメジメとした、この暑さが嫌なのだ。
かと言っても、夏本番の暑さも無理だし(すぐ体調を崩す)冬の寒さも駄目だ(すぐ風邪をひく)
やっぱり、入学式みたいな春の陽気が好きだ。暑過ぎず、寒過ぎず。
「あー…ちょっと下げて……やっぱもっと上げて…」
そんな、まさに梅雨と言う季節にぴったりと思う程の、ジメジメとした雨が降る日曜日の朝。
鶯谷蝶華はベットに項垂れていた。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
隣には、そんな蝶華を心配そうに見詰める辰馬が居た。手にはエアコンのリモコンと、団扇を握っている。
「うー…全然大丈夫じゃ無いわよ…」
枕に顔を埋めながら、蝶華は弱々しく答えた。
顔色も良くない。本当に滅入ってる様だ。
「……」
そんか蝶華を見ながら、辰馬は団扇をパタパタと扇いであげる事しか出来なかった。
「もー…何なのよ、何でこんなジメジメして、更に暑いのよ…」
ぶつぶつと暑さに文句を垂れる蝶華。
因みに、今外の気温は22度くらい…
正直、暑過ぎると思う程、暑い訳でも無い。しかし、蝶華にとっては暑いのだ。
「…だからもっと上げ…やっぱ下げ……ないで…」
ところで、さっきからのこのやり取り。
蝶華が辰馬に、エアコンの温度を調節させているのだ。
更に因みに、今エアコンの設定温度は18℃…地球温暖化に拍車を掛けているのか、と思う程キンキンだ。
しかし、そんなキンキンにしたら、今度は涼しさで体調を崩して仕舞う。
だから蝶華、暑かったら下げて貰い、寒かったら上げて貰う。これを繰り返しているのだ。18℃から28、℃28から℃18、18℃から…
これを延々と。
「うーん…」
辛そうに唸る蝶華。
「ああ!、申し訳有りませんお嬢様、もし引き受けられるなら、僕が全てのお嬢様のお苦しみを、全部受け止めたいです…!お嬢様の、苦しみ…そう考えれば辛くは有りません」と、辰馬。
多分、多分だが、辰馬は100%善意、優意からの言葉なのだろう。
しかし、何だか辰馬が言うと卑猥に聞こえるのは、疑問に思うまでも無い。
「…変態」
残り少ない気力を振り絞り、蝶華は辰馬に言う。
「ありがとうございます!もっと罵って下さいませ!お嬢様!」
「煩い…そんな余力もう無いわよ…」
本当にぐったりしてしまった蝶華。
目を開けているのも少し辛いので、軽く目を閉じていると。
バンッ
勢いよくドアが開けられた。
「何かきゃワいー女の子のきゃワいー喘ぎ声が聞こえたんだけど!?」
ハァハァと、息を荒げて、鼻血をポタポタと滴ながらやって来た美人な女性。
繚ノ浦蒼伊、綺麗な蒼髪に整った顔立ち、整った体型、更に巨乳
はたから見れば、女性の理想とも言える美貌を持ち合わせている彼女だが…
「……」
変態、と言おうとしたが、そんな気にも成れない。
「あああ、相変わらず何時見てもきゃワいーわね蝶華ちゃんっ!元気の無い蝶華ちゃんも最高よぉー!」
と、蒼伊。
この通り、女の子好きの変態だ。
これでも彼女、古来より代々続く『くノ一』の家系で、彼女の本業は本当に『忍者』だそうだ。
しかしこの御時世、忍者にこれと言った仕事が有る訳でも無く、こうしてSBをやりながら食い繋いでいる。と、この前本人から聞かされた蝶華だった。
勿論、本当に忍術とかも使えるとか(でも卑猥な事しか使って無い)
「繚ノ浦さん、それには僕も大変同意ですが、喜ばないで下さい」
と、辰馬。
っておい、何か少し矛盾してるぞ。
そんなツッコミが頭に浮かぶ。
「そうだわ蝶華ちゃん!元気が無い時は、女の人の裸を見ると元気が出るらしいわよ」
と、蒼伊。
何故かそう言いながら服を脱ぎ始めた。
「ちょっ…何してんのよ!」
これには蝶華も慌てて跳び起きる。
「ほらほらぁ〜元気出たじゃない」
嬉しそうに…では無く、イヤらしくニヤニヤしながら服を脱ぎ続ける蒼伊。
そうこうしてる内に、もう下着だけだ。
「……う」
自然と蝶華の視線は、蒼伊の胸部に集中する。
自分のとでは比べ物にも成らない程、豊満な胸。
無意識に自分の胸を撫でる蝶華。
つるっ。
(…何だか劣等感が…)
年の差と言う理由では補いきれない、圧倒的な差だ。
(ん?…そう言いえば…)
チラッと、辰馬に目を向ける。
何時もと変わらぬ笑顔で、平然と立っていた。
「…ねぇちょっと」
と、蝶華。
「はい、何でしょう?」
と、辰馬。
「…何でしれ〜っと立ってるのよ?」
「と、言いますと?」
「だからその…何と言うか…」
「何で平然と立ってるのよ、でしょ蝶華ちゃん」
と、いきなり会話に入り混んで来た蒼伊。
「え、ええ…」
まぁ図星だった。
「そんなの簡単よ、コイツが変態だからよ」と、蒼伊。
(えぇー…それ答えになって無いんじゃ…)
と、蝶華は心の中で思う。
「そんな事無いわよ、充分過ぎる位的確な答えよ」
と、蒼伊。
「…………」
また、例の悪癖が…
「…ってそれより、その…繚ノ浦さんはいいの?…」
話しを逸らす様に、蝶華は蒼伊に質問を投げる。
「うへへへ…きゃワいー…」
顔を赤く染め、涎を滴ながら、蒼伊は不気味に笑う。
「あ…あの…」
蝶華も、もうツッコムつもりは無い。
会話を再開させようと促す。
「ああゴメンゴメン、蝶華ちゃん」
涎を拭いながら、蒼伊は返した。
「別にいいって言うか、どーでもいいのよ、コイツ私の裸見たって、どうせ何も反応無いだろうしね」
と、蒼伊。
「は、はぁ…」
よく分からないが、男ってそう言うものなのかも…
と、思う蝶華。
「ええ、その通りです。僕はお嬢様でないと興奮でしませんから」
と、笑顔で言う辰馬。
「……」
普段と変わらぬ笑顔だが、発言の内容だけに、変に聞こえる。
「うわーロリコンとかホント引くわねー、まぁ私はロリな女の子大好きだけど」
と、蒼伊。
「もう…出てけぇぇ!この変態!」
ブンッ
枕や着替えやらを手当たり次第に、辰馬と蒼伊に投げ付ける蝶華。
それを華麗に避け…るのでは無く、何故か当りに行く辰馬と蒼伊。
ばすっ
もろに顔面に直撃する。
「あっ…だ、大丈夫?… 」
と、蝶華。
自分でやっておいてアレだが、やはり心配になる。
「うへへへ…蝶華ちゃんいー匂い…」
「…お嬢様、素晴らしい香りです」
………
枕や着替えに顔を埋めながら卑猥に笑う二人を見ながら、言葉を失なう蝶華で有った。
―――そして、春は終わりを告げ、騒がしい夏がやって来る。




