第十一話「入学式の朝4」
告白…されたいですね(切実) by筆者
HRは終わった。
臨檎が中二病MAXで騒いでたが、なんとか終わった(先生は相変わらずオロオロしてたが、魔論が何とか修めた)
「ふう…」
靴を履き替え校門を出ると、蝶華は溜め息をつく。
実を言うと、あのタイミングで魔論や臨檎逹か入って来てくれて感謝していた。
あのヤな空気を一気に壊してくれたから。
(…今度お礼言わないと)
素直に言えるか分からないけど…
「お礼?」
「ひゃぁう!?」
いきなり後から声を掛けられ、思わず変な声が出てしまった。
振り向くと、魔論が立っていた。
「あ、悪魔野さん?何時からそこに?…」
「えっと…さっき…かな?…」
可愛らしく頭を傾げながら、魔論は答える。
「そ、そう…」
口ではこう返し。
(あ〜もう可愛いわねぇ…)
頭?中ではこう考えていた。
「可愛い?…」
魔論が不思議そうに訊いた。
「あ……」
どうやらまた何時もの癖で…
「な、何でも無いわよ?あはは…」
何とか誤魔化す蝶華。
「そ、そういえば、あの中二病はどうしたの?」
蝶華が訪ねると。
「うーん…もうすぐ来ると思う?」
と返す魔論。
「?って言われても…」
相変わらず、不思議な子だ。
だがそこがいい!by筆者
…何処からか来た変態の呟きは放って置いて、物語を進めよう。
「おーい魔論ー!」
校舎の方から馬鹿デカイ声が聞こえてくる
臨檎の声だ。
「待たせたな」
と臨檎。
「ううん…私も…えっと…10分?…じゃなくて16秒…くらい前に来たばっか?だよ」
と魔論。
「そうか、んん?おー!そこに居るのは蝶華とやらではないか!」
蝶華の存在にに気が付いた様だ。
「ええ、覚えてて貰えたのね」
とりあえず、素っ気なく返す蝶華。
「まあな、しかし同じクラスとは…これも何かの運命かっ…!?」
と臨檎。
運命を『さだめ』と読ます…
何気無い日常会話にまで中二病を練り込ますとは…これはもう末期症状だ。
蝶華は呆れた。
しかし、それにしても…
滑稽と言うか…蝶華自身、人の事は言えないのだが…
臨檎と魔論の身長差が…
魔論が異様に高いのか、臨檎が異様に低いのか。
…いや、多分後者の方だろう。
臨檎と蝶華の身長は同じくらい(若干、臨檎の方が高い)
だが蝶華と魔論だと、魔論の方に軍配が挙がる。
要するに、臨檎が非常に背が低い、ハッキリ言うと、チビ過ぎるのだ。
流石にここまで低い事を笑うのは不謹慎過ぎると思い、蝶華は口元を軽く押さえる(思った事を口にだす癖を押さえる為)
「うむ?どうしたのだ口など押さえて…まぁいい、さて、無駄話はこれくらいにして、そろそろ我が拠点へと帰還するとするか、魔論!」
「うん…」
返事をすると、魔論は臨檎の前に立ち、背中を見せる様にしゃがむ。
「よっ…と」
何をするかと思いきや、臨檎は魔論の肩に足を掛け、跨ぐ様に座る。
肩車だ。
「行くぞ魔論!我が牙城へと発進っ!」
指を高らかに上げ、愉快に叫ぶ臨檎 。
「うん」
魔論は短く返すと、スタートダッシュのポーズを取り、次の瞬間。
ザッ
僅かに砂を蹴る音が聞こえたかと思ったら、次の瞬間にはもう魔論達は校門の遥か彼方まで、砂埃を上げ走り去って行った。
まるで、ジェット機が通り過ぎたのかと錯覚した。それほど速かったのだ。
「わ〜はっはっは!さ〜らばっ!……」
臨檎の声が徐々に小さくなっていく。
「………」
魔論の驚異の運動神経に、度肝を抜かれた。可愛い顔してあのパワー…
何処にそんな力が隠してあるのか、蝶華は疑問に思っていた。
(…そろそろ、辰馬を呼ぼうかしら)
魔論達は今行ってしまったし、他の生徒達はほぼ全員帰った様だし。今現在、校庭に居るのは蝶華だけだ。
カラッと晴れた春日和の青空を頭上に、蝶華は一人、ぽつん、と立っていた。
…何だか孤独だ。
いや、この孤独は自分で作り、招いた物だ。他人を恨んだりするのは、ただの逆恨みだ。誰の所為でも無い。
自分の所為だ。自業自得、因果応報。
弱い自分を守る為に、自分を偽り、虚勢を張り、悪態を突いては他人との溝を、自ら広げる。
そんな事を、今までずっと繰り返して来たのだ。
今更簡単に、どうにかなる筈の無い悪癖だ。
蝶華はため息をつくと、辰馬を呼ぶために携帯を取り出す。
「鶯谷さん!」
すると、不意に後ろから声が。
辰馬かと、一瞬思ったが、辰馬は『鶯谷さん』何て呼ばない。
振り向くと、見知らぬ男子生徒が立っていた。
運動部らしい短髪に、今時風に着崩した制服。
走って来たのか、少し息を荒げている。
「あの、俺同じクラスの相楽祐輔って言う奴ッス、前回のお話で『何故か顔を赤らめたり(?)〜』とかやってた奴ッス、多分この回1話っきりにしか出ないモブキャラッス」
自らモブキャラ宣言をしたクラスメイトに、蝶華は若干引いていた。
「え…と…それで? 」
と訊ねる蝶華。
「はい、貴女のお嬢様っぷりに人目惚れしたッス!是非付き合って下さいッス!」
こんな口調、テンションだが、顔を赤らめ、真剣な顔で頭を下げ、右手を蝶華に差し出す。いいなら手を取ってくれ、と言う意味だろたう。
「…」
蝶華は口元を押さえながら内心。
(きゃーーー!こっ…これってまさか、こっ…ここ告白!?)
と驚いていた。
蝶華にとって、こんな事初めてだ。
「……」
相楽に見詰められる蝶華。
返事を、求められでいるらしい。
(…申し訳無いけど、断らないと…私よりいい子はイッパイ居るし、それに…こんな真剣な気持ちに、嘘は吐けないわ… )
丁重に、断らないと…
ご免なさい。
この一言で充分過ぎる謝罪と、断りの言葉に成るだろう。
蝶華は心の中で決心する。
(よしっ…)
「…悪いけど、アタシアンタみたいなのに興味無いのよ、一応ご免なさい、ってだけ言っておこうかしら?でも、アンタもその成でよく告白成功すると思ったわね」
と蝶華。
………うう……
まただ…また…悪態を吐いてしまった…
また人を傷付け―――
「あ…あああありがとうございますっ!」
「!?」
蝶華は驚いた。
当然だ、こんなにも罵詈雑言を浴びせられて、お礼を言う訳が無い。
変態、でも無い限り…
「な、何か…今鶯谷さんに罵られて、スッゴく嬉しかったッス!なんなんスかねぇ…これが俗に言う『マゾ』ってやつスかねぇ」
と相楽。
前言撤回。
ただの変態だった様だ。
「さあ!もっともっと罵って下さいッス!」何をして欲しいのか、尻を此方に向ける相楽。
「…」
どうするべきか…
考えるまでも無い。
放って置くのが得策だ。
蝶華は相楽を無視し、校門へ向かう。
「放置プレイッスか!堪りませんッス!」
息を荒げる変態を後目に、蝶華は携帯で辰馬を呼ぶ。
ーーーーー
「お帰りなさいませ、お嬢様」
何時もと同じ言葉、同じ姿勢で辰馬は蝶華を迎える。
「ええ、ただいま、とでも言っておこうかしら?」
これも何時もと同じ。
(…も〜う!何で何時も普通に『ただいま』って言えないのよ〜!うう…)
これも何時もと同じだ。
「…… 」
蝶華を乗せた車は、ゆっくりと、静かなスピードで走る。
車の震動が丁度いい感じに揺れて心地いい。
「お嬢様、新しい学校生活は、いかがでしたか?」
車を走らせながら、辰馬は訊ねる。
「え?あ、ええ…」
と蝶華。
少し、答えに困る。
正直に言えば最悪だった。
新学期早々、早速クラスの皆に悪態を吐いてしまった上に、生まれて初めて告白してくれた人(変態だったが)に酷い事を言ってしまった(喜んでたが)
また、今までの様な学生生活に成ってしまうのではないか?…
自分でも、そう危惧している。
「お嬢様?」
と辰馬。
蝶華はハッ、と我に帰る。
「いかがなされました?そう黙りなされて…」
心配そうに話し掛ける辰馬。
蝶華は慌てて。
「な、何でも無いわよ?」
と言い繕う。
「えっと…学校?大丈夫大丈夫、何の問題も無いわよ」
嘘だ。
大丈夫な訳無い。無いのだが…
辰馬にこれ以上余計な心配を掛けるのも、気が退ける。
「…そう、ですか…何か煩う事が、憂慮する事がお有りなのでしたら、何なりと」
と辰馬。
「ふ…ふん、無駄な心配、ありがとうと言っておこうかしらぁ?」
…こんなにも有り難いのに…こんなにも親切に、優しくしてくれているのに…
まだ一度も、お礼を言えていない。
その事が歯痒く、悔しく、残念で、蝶華は俯きながら唇を噛む。
ーーーーー
「お嬢様、着きましたよ?」
と辰馬。
窓を見ると、何時もの変態館が目に映る。
ガチャ
辰馬が車のドアを開ける。
「ん…」
蝶華が軽く相槌を打つ。
このやり取りも、何時もと同じだ。
変態館へと向かおうとする蝶華を見て、辰馬はハッ、とした。
「お嬢様!」
急に驚いた様な口調になる辰馬。
「なっ、何よ?…」
それに蝶華も驚く。
辰馬は蝶華に跪き。
「靴に汚れが…申し訳ございません!お嬢様のお足を、あろうことか汚れた靴で歩かせていたなんて…この司之宮辰馬、一生の不覚…!」
悔しそうに頭を下げる辰馬。
「…」
蝶華は靴を見る。
ほんの少し、土埃で汚れているだけだ。
気にする程の物では無い。
「誠に申し訳ございませんお嬢様!今すぐ拭きます!舐めて」
と辰馬。
「は?……」
と蝶華。
驚いた訳では無い。
ただ、何と無く…
「失礼します」
と丁寧な言葉ながらも、蝶華の靴に顔を近付け様とする。
「変態っ!」
ガッ
蝶華の蹴りが、辰馬の顔面に炸裂する。
ひ弱な蝶華の蹴りでも、この距離からはかなり痛いだろう。しかし…
「ありがとうございます、お嬢様」
辰馬は清々しい笑顔。
「……馬鹿な事してないで、さっさと行くわよ変態」
と蝶華。
踵を返し、変態館の扉を開ける。
後ろに辰馬も着いてくる。
やっぱり、こうして辰馬と居る時間の方が、蝶華は好きだ。




