第九話「入学式の朝2」
短いけど、何とか定期に出来ました…
「めっ…目、もう赤くないわよね!?」
朝食を済まし、出発の準備を整えた蝶華は、今洗面所のガラス前に居た。
「はい、お嬢様」
辰馬はニコニコと答えた。
「ほ、ホントに!?…」
しつこい位に訊いてくる蝶華を、辰馬は愉しげに眺めていた。
先程、蝶華は自分の悪癖の所為で、今までずっと恥ずかしい思いをしていた事を知り、大泣きしてしまった。
その所為で目がとっても赤くなってしまったのだ。
今日は入学式、高校デビュー初日から赤く腫らした目で当校するなど、蝶華のプライドが許さないと言う物だ。それに恥ずかしい。
なので今、時間ギリギリまで目の腫れを治そうとしているのだ。
「…も、もう赤くないわよね?…よしっ!」
ようやく気がすんだ様だ。
「さあ行くわよ辰馬っ!車を出しなさい」
と、辰馬に命令する蝶華。
「はい、お嬢様」
車のドアを開けながら、辰馬は答える。
ブゥゥン
蝶華を乗せた車は交通違反スレスレのスピードで走る。
それ位出さなければ完全に遅刻だ。
「……」
車内での蝶華達の会話は、何時もよりかなり少なかった。
当然と言えば当然だ。
蝶華の頭の中は、これからの高校生活の事でイッパイなのだ。
高校生活を楽しみにしている、訳では無い。
絶対に、クラスの皆に不快な態度をとってはならない、と。
昔、小学生の頃、蝶華はイジメられていた。実家が大財閥の鶯谷家だったからだ。
家が金持ちだから、からかわれた。
チョーシ乗ってんじゃねーよ
…乗って無い
金持ちだからって威張ってんじゃねーよ
…威張って無い
自分ん家が金持ちだからってさ、ウチらとは違うんですよアピール止めてくんない?
…そんな事して無い
ウゼーんだよ
……
死ね
………
男女構わず、よくイジメられた物だ。
しかし、よく有る話だ。蝶華としては、ここは耐えて然るべきなのだろう。
でも、蝶華は耐えられ無かった。
耐えられず逃げてしまった。
虚勢と罵声に。
何時しか、自分を偽る癖が付いてしまった。
弱い自分を見られるのが怖かった。
見せたら、またイジメられてしまうのではないか。
それが堪らなく怖かったのだ。
だから蝶華は、自分を強く、大きく見せる為に、相手に高圧な態度を取ってしまう。
強く、成ろうと……
中学三年間は、そんな傲慢とも言える態度で過ごし終わってしまった。
だから友達なんて、ほぼ皆無と言っていい程居ない。
しかし、高校からは違う。
高校こそは、そんな態度を改め、皆と仲良くしよう。
そう決心したのである。
(とりあえず、先ずは友達100人から…いや100は流石に…じゃあ90…いや80……10人………)
とても、そんな人数と友達になるどころか、関われる自信も蝶華には無い。
(………先ずは1人からね)
長考の末、考え付いた結論。
まぁ、今の蝶華にすれば最善の判断と言えよう。
しかし、相変わらず、蝶華の癖は直らない物だ。
朝、と言うかさっき後悔したばかりなのに、もう忘れている。
思った事を口に出す癖。
だからこの決心、全て辰馬に聞かれていたねだ。
蝶華はそれにまた気付いていない。
その優越感が、辰馬には堪らなく快感だった。




