こんなのが運命なんて信じない! 4
「な、なな、なぁあああああ???」
とりあえず殴った。
なんかもう、本当、とりあえずだった。
でも避けられた。
「なんで避けるんだよ!」
「え、や、普通避けるっしょ」
男性店員は変わらずへらへらとした笑みを浮かべてる。
最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ。
「もしかして、初めてだったとか?」
もう一回殴った。
今度は当たった。
男性店員が復活する前に俺は店を飛び出した。
そりゃあもう全力疾走で。
とりあえず走って。
走って走って走って走った。
走り出した直後、あの男性店員が何か言ってたような気がしたけど、無視。
うっかり息が詰まって盛大に咳き込んでしまい、急停止。
やばい、ちょっと死にそう。
そう簡単には死なないだろうけれど。
苦しくて咳き込んで、咳き込んでまた苦しくて。
脳に酸素が足りなくて、喉も痛くて目が潤んだ。
「おや……、誰かと思えば佐々原君じゃないですか」
後ろから不意にかけられた声に、息も絶え絶えながらに振り返ると、そこには一人の男性がいた。
その男性は自分の二つ上の元先輩で、一年生の時、バスケ部で一緒だった人だ。
何かと目にかけて貰っていたもんだから、卒業後も細々と交流を保っている。
現在大学二年生。
大学でもサークル活動としてバスケを続けてるらしく、元々ガタイが良かったこともあって、軽くマッスルと表現しておかしくない、正に『漢』らしい先輩なのだ。
ちなみに敬語は癖らしい。
「ど……っ、どうも…………」
多少落ち着いてきたお陰で返事は返せたが、それだけだった。
先輩はとりあえず状況を悟ってくれたらしく、自分のスポーツバッグからまだ中身の残っているペットボトルと、タオルを取り出して、俺に貸してくれた。
「とりあえず、飲みなさい。あとその顔をなんとかしましょうか」
「す……、すみませ…っ」
「返事とかは後でいいですから」
「あい……」
俺、情けない。
けれど今は先輩の優しさに無条件で甘える事にした。
なんだか酷く涙腺が緩みそうだったので、水分補給をして誤魔化した。流石にこれ以上醜態を晒すのは後々の俺と先輩との間柄に禍根を残しかねないと思ったからだ。
「…ぷはぁ! ありがとうございました、紳二先輩」
「こういう時はお互い様なのだから、気にしないことです」
先輩は空になってしまったペットボトルを俺から取りあげ、きゅっと蓋を閉めてから再び鞄にしまった。
多分後で専用ゴミ箱に捨てに行くんだろう。
空にした俺に預けてしまえばいいのに。
とても生真面目で面倒くさいと思う時もあるが、基本的には清々しい好青年である。
う、うらやましくなんかないんだからね!
男として、ちょっと…いや結構? 憧れている程度だ!