こんなのが運命なんて信じない! 1
俺は今、今までの人生で最高に幸せだ。
いつもは疲れと眠気でぐったりした帰り道だが、今日はふわふわと足取りも軽い。
この勢いで空だって飛べそうな気がする。
隣に彼女がいないのが唯一の難点だけど…。
「…………」
彼女、そう。彼女。
「………………デヘ」
傍から見れば気持ち悪いくらいに頬が緩みっぱなしであろう事が、自分でもよく分かる。
でも今はまったく持って気にならない。
『ごめんね、一緒に帰りたいけど、今日は用事があるから……』
『うぅん! 全然気にしなくていいよ』
小首を傾げるいつもの仕草がさらに可愛く見える。
残念なのは本当だけど。
『本当? ありがとう』
『いやいや、本当、気にしないでよ』
君の笑顔が見れるだけで満足です。
…今のところ。
『それじゃ、またね。敦也くん』
『え、あ、うん……』
そう言って彼女は手を大きく振りながら行ってしまった。
最後の最後に名前を呼んで。
「……―――くーっ」
なんかすごく彼氏と彼女って感じがする。
俺も名前で呼んでおけば良かったなぁ。
多分、こんな話友達から聞いた日にはプロレス技を即効で掛けたくなるだろうけれど、実際自分の身におきてみればその気持ちは正に『百聞は一見にしかず』って感じだった。
嬉し恥ずかし十八歳。
高校最後に賭けて良かった。
このこそばゆさを皆に自慢したい。
独り身の友人たちよ、幸せすぎでごめんなさい。
喧嘩とか誤解とか、これから色々、二人の行く手を遮る苦難もあるだろうけど、俺は彼女を信じて突き進んでやるぜ!
俺は一番星に誓った。
「お、お兄ちゃんヤル気だねー」
「へ?」
声がした方を見ると、一人の男性がこちらを見てニヤニヤしていた。
何だと言うのだろう。
「それ」
ニヤニヤ顔のまま指で示されたのは俺の握り締められた右手。
そしてその右手の中には……。
コンドーム、という所謂避妊具だった。
「うわぁ!」
い、いつの間に!
俺は大慌てでとりあえず棚に戻した。
ていうか俺はいつの間に薬局に?
男の本能って恐ろしい!
俺はまだまだ純愛でいたいのに。
「なんだ、買うんじゃないの?」
男性は楽しそうに聞いてくる。
「いえ、まぁ……、まだ付き合い始めですし」
そんなすぐにがっつきたくないし。
もごもごと素直に答える。
そんな俺の発言に、男性は笑顔で対応してくる。
「彼女いるんだ? だったら買っておきなって。いざそういう雰囲気になった時に備えがなくて出来なかった、なんて事になったらくやしいだろ?」
男性は親身になってくれてるようだ。