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女勇者セレス――迷走する世界の中で  作者: 松宮星
迷走する世界の中で
24/25

彼氏の困惑

「どう考えても……おかしい……」

 森の道を、太く長い枝を杖代わりに、私はよろよろと歩いた。

 背中が重い! 男の人を背負ってるぐらいの重さ。

『勇者の剣』が、ズシリと背にのしかかっている。


 いつも通りの白銀の鎧姿。髪の長さにも変わりは無く、ウェーブのかかった長い髪をうなじで一つに束ねている。

 でも……

 声は低くなったし、胸はなくなって、余計なものがくっついたのに……


「何で『勇者の剣』が重たいわけ?」

 私の怒りの叫びに、お師匠様がすぐに反応する。

「そやつ、美女にしか背負われたくないそうじゃ」

 宙に、お師匠様の白銀の長髪が舞う。

 空中浮遊で宙に浮かんでいるお師匠様が、ニッコリと私に微笑みかけてくる。どう見ても不可思議な美女だ。

 お師匠様が魔法使いの杖の杖頭を、私の背の『勇者の剣』に向けている。心話で剣と対話しているのだ。

「野郎の汗くさい背中なんぞ、一分たりともくっついていたくないと言うておる」

「……『勇者の剣』も性別が逆転しちゃったんですね?」

「うむ、まあ、そんなところじゃ。好みが正反対になっておる」

 て、ことは『男嫌い』?

 何で剣までおかしくなっちゃうの……男になったから軽くなるはずだったのに……

 あぁ……もう、泣きたい……


「男のくせに泣くなんて、みっともない」

 嫌だ、嫌だとばかりに、ナーダが頭を左右に振る。彼女の腰までの黒髪が、ふさりと揺れ動く。

「馬鹿で低能な男なんて、体力ぐらいしか取り柄が無いのに。せめて、その唯一の長所ぐらい、鍛えてみてはいかがです?」

 私は、たいへん大柄でグラマスな僧侶を見あげた。僧衣というよりは、薄絹のネグリジェを着ているような……

「ナーダ……『勇者の剣』、持ってくれない?」

「それ、本気で言ってます?」

 ナーダが冷ややかな眼で、小柄な私を見下ろしてくる。

「男のくせに、かよわい女性に大剣を背負わせる気ですか? 最低ですね、あなた。紳士ではありません」

「あなたの、どこがかよわいのよ!」

 女になったって、私より頭二つぐらいデカいくせに!


「運べよ、クソ坊主。このチビ助に背負わせてたら、夜になっちまう」

 無造作に髪を掻いて、アジャンが溜息をつく。何っていうか……今までのアジャンがそういうポーズをとるとひたすら下品だったんだけど、妙にコケティッシュ。

 胸とお尻を強調する鎧を着ているせい? 背にマントを羽織って、大剣を背負っているとはいえ、お腹、太腿はほぼ露出状態。

「俺ぁ、森で夜更かしは御免だ。近くに村があるんだ。急ごうぜ」

「訂正してください、アジャン」

 ズズイっとナーダが、アジャンに顔を近づける。二人とも女になっても、大柄。二人より大きい男の人って、あんまいなさそう。

「『クソ坊主』はやめてください。私、尼僧ですから」

 アジャンが、グッと喉を詰まらせる。

「うっせぇ、このクソ尼! とっとと運びやがれ!」

 頬を染めて怒るアジャンが……何か、変。何か、かわいい。


「仕方ありませんねえ……持ってあげますよ」

 大袈裟に肩をすくめてから、私の方を見もしないでナーダが右の掌を向けてくる。

 と、言っても、こんな重いもの、直接、手渡せるわけがない。私はバンドを外し、背の大剣を地面に落そうとした。

 が、しかし……

 あまりの重さにバランスを崩し、『勇者の剣』が体から離れると同時に、私も背から倒れかけた。

 そこへ、左右から伸びてくる手。

 ジライとシャオロンだ。

 二人に支えられ、転ばずにすんだ。

 女の子に助けてもらうのって、男としてどうかと思うけど。

「ありがとう……」

 と、感謝の気持ちを伝えると、シャオロンはポッと頬を染めた。

「いえ……お役に立てて、嬉しいです……」

 うつむくシャオロンは、いつもと違ってツイン・テール。帯もかわいい、美少女格闘家なのだ。道着は桃色。この格好が恥ずかしいせいか、前よりもっと控えめ。ひっこみじあんと言ってもいいかも。

 それに比べ……

「どさくさに紛れて、いつまでくっついているの、ジライ!」

 抱きしめたついでに頬ずりをしてくる、くノ一。素肌に鎖帷子、ミニスカの忍者装束。ジライはニコニコ笑っている。調子にのりまくって〜〜〜男なら、遠慮なく、ぶん殴れるのに〜〜〜〜

「あんまくっつかないで! お化粧がついちゃうじゃない!」

「む」

 パッと離れるジライ。

 私は頬を拭いた。

「もう! ベタベタ! あなた、白粉ぬりたくりすぎ! 少しはお化粧、控えなさい!」

「申し訳もございませぬ」

 しゅんと頭をたれて、うわめづかいに見つめてくるジライ。

 うっ!

 不覚にも……

 ちょっと、かわいく見えちゃった……

 なんか子犬みたいに、頼りなげで……

 おかしい! 絶対、おかしい!


「あなた、もしかして……」

 私は首をかしげた。

「……若い?」

 ジライは、顔の前で両手を組み合わせた。

「十八にございます♪」

 は? 

 私と二つ違い? 嘘!

「シャオロンは?」

「十四です……」

 シャオロンが十四歳なのはいいけれど……あ、でも、私、十六に戻ってるから、本当は十二よね。

「二十だ」

 聞かれる前から、アジャンが言う。旅の開始の時、二十五だったわよね!

「二十ニですよ」

『勇者の剣』を背負いながら、ナーダが言う。旅の終わりには三十超えてたくせに……

「何で、みんな……年齢が変わったの?」

 そんな事もわからないのかと言いたそうに、ナーダが眉をしかめる。

「『受ける』為に決まってるじゃないですか」

 あ、そうか……

 それで、性別逆転したんだっけ。

「私が二十ニとか、名の売れた傭兵のアジャンが二十そこそこの女性とか無理がありますけど」


「私めは次期頭領候補ではなく、ヒラのくノ一という設定になりましたゆえ、十八で無問題にございます」

 いちいちシナをつくってきて、ジライが言う。

「二つ差ぐらいでしたら、丁度ようございましょ?」

 肌をすりつけないようにぴったり、ジライがくっついてくる。

「そうですよね……二つなら……丁度いいですよね……」

 もじもじしながら、シャオロンが言う。

 いや、だから、何が丁度いいの?

 ジライが満面の笑顔で言う。

「ハーレム要員としてでございます、セレス様」



「は?」



「ちょっと年下、ちょっと年上、年上、お姉様、人外。これだけ揃ってるのです、後は旅の行く先々でナンパしまくっていけば、ハーレムも充実しましょう。美少女、美女、そこそこ、個性的な顔、よりどりみどりにございます、セレス様」



「は?」


 

「俺は数に入れるな、クソ忍者!」と、アジャン。

「私もご免ですからね、ジライ!」と、ナーダ。

 アジャンがキッ! と、私を睨む。

「こんな青臭い坊主、喰えるか! 俺ぁ、●しくって●扱いの上手い、大人の●としか寝ない!」

 あ……そう……そういう設定になったわけ……

 伏せ字は本人の理性を保つ為の、救済措置ってとこね。

「子供と言えども、男の×××なんか、絶対見たくありません。気持ち悪くて卒倒してしまいます」

 ツーンと顔をそむけるナーダ……えっと、もしかして……男嫌い?


 しかし、ジライはまったく二人の反対なんか気にしていなかった。

 二人を指差し、

「『ツンデレ』要員と、『嫌よ嫌よも好きのうちのレ●』を確保。更に、違う属性のおなごを集め、ハーレムを充実させましょう」


「誰がツンデレだ!」

「男なんか絶対いやです!」

「ハーレム王として、セレス様が頂点に立つ……これぞ、『萌え』の究極! 性別が逆転した以上、これしかありません!」

「なんかよくわからないけど……オレ、がんばります……セレス様の為なら」


 私の周囲で、女の子たちが叫びまくっている。

 耳がキンキンする……

 ふと見ると、宙のお師匠様がニコニコ笑っていた。

 完全にこの事態を楽しんでる……



 私と視線が合うと、お師匠様が更ににっこりと微笑んだ。


《現地でロマンス。旅先で美女と懇ろになってゆくのじゃ。と、言うても、本編で語られておる、おぬしに関わりのある人間は少ないからのう。チョイ役、死者、魔族。なんでも巻き込んでいくしかあるまい》


 お師匠様の心話が、聞こえる。

 旅先で出会ったキャラって……



 シルクドは……シルクド国王、アジャンに過去を見せた魔族ぐらい?

 シャイナは……シャオロンの隣村の人、どっかの村の村長さん。シャイナ皇宮にも行くには行ってるのよね。

 ジャポネは……オオエでショウグンに会ってる。

 二度目のシャイナでは……四天王サリエルと、ナーダの忍者と、ジライの部下達と魔族かしら。

 インディラは……四天王ウズベルと、情報屋のグジャラさん、あとはナーダの忍者と、ナーダのお父様と義弟達なんだけどあんまよく覚えてないのよね。

 ペリシャは……ジライの妹のアスカさん。あとは、シャオロンが出会っただけだけど、二代目勇者の従者シャダム様。

 トゥルクは……四天王イグアス。あ、私、後宮に行ってたんだ、男で後宮はマズいなあ。魔法使いのナーダ様にもお会いしてるのよね。

 エーゲラは……オクタヴィア女王陛下。

 エウロペは……国王陛下に、お父様に、侯爵家のみんな。

 ケルティは……四天王ゼグノス。ハリハールブダン様。皇帝陛下と、あとアレクセイ様? なんでもって言っても、ゲオルグさんはちょっと……いくらなんでも。

 バンキグは……


 バンキグは……


「ルゴラゾグス国王〜〜〜〜?」


 私は頭を抱えた。

 ルゴラゾグス国王は、とてもいい方だった。情に厚く、涙もろく、民思いで、戦士に常に敬意を忘れない、一流の戦士だった。

 でも……すっごい巨体の……そのお顔は……人間というよりは……


「ルゴラゾグス国王も女性化???????」


 でもって、私のハーレム要員?

 お師匠様の思念は、とっても明るい。愉快そうに、振動している。

《人外の者を取り入れてこそ、ハーレムは充実するというものよ。わしにつづく、人外二号じゃ》

 あ、もしかして、お師匠様、さっき、ジライに『人外』って言われた事、ちょっと気にしてる?


 だけど……


 無理。

 いろいろ無理。

 ハーレムなんて、私には無理。


 頭を抱える私の横で、仲間達の叫びが飛び交っている……


 なんか、もう……

 前途多難……としか言いようがない。

 とりあえず、おしまい。


 すみません、悪のりしました。


 一応、リクエストはクリアーしましたが、『萌え』があるのかどうか……


 カルヴェルとジライは女になろうが、変わりなし。二人とも自由に生きてます。

 シャオロンは、もっと美少女美少女した方が良かったかもですね。


 作中のアジャンとナーダのセリフには、林来栖様のお作も混じっております。活動報告の性別逆転話書くかもに対し、『こんな感じ?』と、昨年七月に、たいへん楽しいメッセを寄せてくださいました。

 アレンジしましたが、作中にセリフを使わせていただきました、ありがとうございました。もとは、

「まだ青臭くて食べられないわよ! あたしは逞しくって女扱いの上手い、大人の男としか寝ないのっ」。

「子供と言えども、男の×××なんか、絶対見たくありませんわっ!」。

 この口調の二人も捨てがたい……

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