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悪役令嬢たち

悪役令嬢(幼女)は、魔王にさらわれたみたいです

作者: つゆこ
掲載日:2026/03/05

 何かから逃げる様にがたんごとんと揺れる馬車。

 しゃきんしゃきんと鉄と鉄がぶつかる音が外から聞こえます。

 馬車の中はわたくしと、侍女のねーさまの二人きり。騎士様も御者のおじさまも馬車の外で誰かと戦っているみたい。

 侍女のねーさまにしがみついてわたくしは震えています。

 どうしてこんな事になったのでしょう。


 唐突に、ガコン、という大きな音がして馬車が大きく揺れました。

 まるで放り投げられたような浮遊感を感じます。

 そうして、辺りは突然の暗闇に包まれたのでした。

 なぜ?

 何がおきたの?

 しがみついたねーさまの温かさだけが頼りです。

 喉が引きつれた様に声が出ません。

 何も見えず。

 何も聞こえず。

 そのまま恐怖のあまり気を失って、暗転。


 気が付いたら、大きな天蓋付きのベッドの上、わたくしは寝かされておりました。

 知らない部屋です。

 ベッドのすぐ横には大きな窓がありました。窓の外を覗いてみれば、月が!

 赤い!

 知らない月の色。

 絵本で見ました。遠く魔族の王様が治める魔王の国では、月は赤く染まり夜空の端は常にオーロラがたなびくと。


 ここは、もしかして、魔王国?


 どうしましょう、わたくし、魔王国にさらわれてしまいました。


 身じろぎをしようとして、思う様に体が動かず、びっくりしてよくよく見れば、傍にはわたくしの侍女のねーさまが居ます。わたくしをしっかりと抱きしめたまま。

 お星さまになったママの代わりに、わたくしが産まれた時からずっと傍に居てくれたねーさまはわたくしの第二のかあさまも同然なのです。まだまだ年若くちょっぴりドジっ子ですが、一緒にいれば、まるで姉妹の様に仲睦まじいとお屋敷の使用人にも微笑ましく受け入れられていました。

 いつでも、何処に行くにも一緒だった、わたくしの大切な、


「ねーさま!」


 たいへん! ねーさまも一緒にさらわれてしまったのだわ!

 わたくしのせいで……!




「あ、起きたぁ〜?」


 なんだかゆるい感じで見知らぬ人が話しかけて来ました。

 ベッドの横、大きな窓がある方の反対側、いつの間に其処に居たのか、それとも最初から其処に居てずっとわたくしを見ていたのでしょうか。


「大丈夫? どっか痛いとこない? 喉渇いてない? お腹空いてない?」


 矢継ぎ早に人の良さそうな声色で問いかけてきます。

 言われてみれば痛いところはないけれどちょっとお腹が空いているし喉も渇いている気がしてきました。

 むむっ。油断してはいけません!

 この人がわたくしを攫った悪い人なのかもしれないのです!

 顔は暗闇の影に紛れていてよくわかりませんが、多分男の人です。わたくしは怯えを隠して、問いかけます。


「おじちゃまは、だれですか……?」


「お、おじ……?!」


 ガーン、とショックを受けた表情で青ざめたらしいことが声色からわかります。

 おじちゃま呼びがショックということは、まだお若い方なのでしょうか。


「えーっと俺はね、この国の王様なんだけど……」


 赤い月が見えるこの国の、王様……。つまり、


「まおう……?」


 血の気が引く、音がしました。

 がくがくと震えそうになる身体を必死で抑えて、勇気を振り絞ります。


 だめです!

 わたくしはパパの娘、誇り高き公爵令嬢です!

 まおうになんて負けません!


「わたくしを攫って、どういうつもりです」


 毅然と、わたくしは問いかけます。


「あぁ〜、えっとー……」


 わたくしの決死の顔を見て、まおうは、困った様に眉毛を下げて、ちらり、とわたくしの隣に居るねーさまの方へ視線を飛ばします。

 大変! ねーさまは、わたくしがまもらなければ!

 わたくしはきちんと淑女のお勉強を頑張っていましたから、知っています。

 わたくしは身分が高い公爵令嬢なので、例え悪い人でもわたくしをどうこうするのはちょっと躊躇するのです。

 でも、侍女やメイドなど、身分の低い人たちは、命の扱いが軽いのです。だから、きちんとわたくしが守らなければ!

 わたくしはねーさまの腕から抜け出し、ねーさまを隠す様に両手を広げて、あやしいまおうらしき男の人の視線からねーさまを精一杯隠します。


「彼女を傷つけるのは許しません。あなたの目的は知りませんが、もし彼女を傷つけるようなら、わたくしにも考えがあります!」


「えっ?! あ、えぇ?! いやいや君の大事な人を傷つけたりしないよ、ていうか『ぷるぷるボクは悪いまおうじゃないよ!』ってやつぅ〜!!」


 なにやら混乱したようによくわからない事を言っています。言っていることはなんだか変ですが、もしかして、そんなに悪い人ではないのでしょうか……?


「パパはどこ、ですか……?」


 震える声で、わたくしは尋ねます。

 あの日は、パパと一緒にお出掛けしていたのです。パパはお仕事が終わらなかったとかで別の馬車で、お仕事をしながら同じく移動をしていました。

 でも今、姿が見えるのはわたくしと侍女のねーさまのふたりだけ。

 パパが攫われるわたくしを黙って見過ごす訳がありません。

 もしかして。


 じわ……と、瞳に涙が浮いてくるのを感じます。


「あああ、パパね、パパはほら、今、大事なお仕事中っていうかなんていうかぁ〜。

 えーっとそうだまずは千里眼、それから念話、も一つおまけに投影魔法!」


 わたわたと焦ったような声でブツブツと何やら呟いたと思ったら、目の前に、薄っすらとパパの姿が現れました。


「パパ!」


 思わず抱きつこうと手を伸ばしますが、すかっと空を切ってすり抜けてしまいました。

 すかすか。確かに其処に見えるのに、さわれない。


「パパ、透明人間……?」


 いつか見た絵本に出てきた透明人間を思い出してぱちくりと瞬きをしてしまいます。

 目の前のパパは、目を丸くしたわたくしの顔を見て、へにょんと眉尻を下げて困った時の顔をします。


「娘よ可愛い可愛い我が娘よ、パパの話を聞いてくれるかい?」


「うん、パパ」


「実は今、おまえの身が危険で危ないんだ」


「きけんであぶない」


「そう。パパの傍に居ると危険が危ないから、ちょーっとだけ魔王くんのところに避難してもらおうと思ってね」


「ひなん」


 わたくし何とかお話を理解しようとオウム返しのようにパパの言葉を繰り返すのですけどやっぱりよくわからないのです。


「ちょこっとだけ、我慢してくれるかい……?」


「がまん……」


 よくはわからないけれど、どうやらパパにしばらくの間会えないらしい、と思ったらじわじわと瞳に涙が浮いてきてしまいます。


 でも、わたくしはいい子だから。

 パパを困らせてはいけないのです。


 しょんぼりと今にも涙がこぼれそうなところを何とか飲み込んでいるわたくしを見かねてか、まおうが何やらわたわたと話しかけてきます。


「あっあとそうだ、誤解してるってことはアレだよね、他の安否も気になるよね?!

 ええいまとめて1に千里眼2に念話さんしがなくて5に投影魔法!!」


「お嬢様!」

「お嬢様……! ご無事ですか?!」


「騎士のおじさま! 御者のおじさま!」


 透明人間のパパの隣に、これまた透明人間のおじさまたちが増えました!


「無事だったのですね! よかった……!」


 わたくしの無事な姿を見て男泣きしているおじさまたちを見て、わたくしの方も涙ぐんでしまいます。


 それから、わたくしはそう、大事な事に気付いてしまいました。

 あらためて、魔王様に向き直ります。


「もしかして、さらわれたのではなく、助けてくれたのですか……?

 ごめんなさい、わたくし、勘違いして……」


 早とちりで、はずかしいです。


「いやいや、勘違いしてもしょうがない状況だったらね、仕方ない仕方ない」


 ふるふるとわたくしを見つめて首を振る魔王様の瞳が、とってもやさしい事に気付きます。


「……間に合って、よかった」


 そう言った魔王さまのお顔を、わたくしはその時初めてまともに目の当たりにしました。


「……俺は君の味方だからね、いつだって君を助けるよ」


 にっこりとどこか照れたように笑った魔王様は、とってもイケメンでした。

 パパの次に!


(いつだったか、ねーさまがわたくしに教えてくれたのです。わたくしのパパは、とってもイケメンであると!)





 それから、わたくしの魔王国での‘’ひなん‘’生活が始まりました。


 魔王様は塞ぎ込みがちなわたくしを気遣ってか、多分忙しい中をぬって度々わたくしに会いに来てくれます。

 その時々にねーさまと話し込んで、わたくしのお世話に必要なものとしてたくさんのものをプレゼントしてくれました。

 そうして、わたくしを楽しませようと色んな魔法を使って見せてくれるのです。

 魔王様は魔族の王様だから、とっても魔法が得意なんですって!


 おいしいお菓子が踊り、香り高いお茶がティーカップの底から湧き出して、飾られたお花達が歌い出す。

 まるで絵本の中みたい。

 おうちにあった絵本の中に、そんなお話があったのをわたくしはちゃあんと覚えています。

 あれは架空のお伽噺ではなく、本当の事だったのですね!



 それから、少しずつ、少しずつ、例え難しくて理解できないのだとしても、わたくしを子供扱いせずに、きちんと今どうしてこうなっているのかを魔王様は教えてくれました。

 その時々にねーさまが『子供に聞かせる事では……』と、魔王様を睨みつけますが、でも、例えすべてを理解はできなくとも、わたくしは知りたいのです。子供扱いして欲しくない。そんな気持ちを、魔王様は分かってくれているようでした。


 馬車が襲われたのは王家の差し金。襲われた理由は、わたくしを王子様の婚約者にとの打診を断ったから。断ったのは、わたくしが王子様の婚約者になると、いずれ悪女という噂を立てられ悪役令嬢扱いされて、断罪されて命を落とすからなのだとか。

 わたくし、大きくなったら‘’あくじょ‘’になるのでしょうか。

 わたくしにもわかりやすい様にとすごく噛み砕いて魔王様はお話してくれたのですけど、やっぱり難しくてすべてを理解はできませんでした。

 でも、それでも、わたくしを子供扱いせず、秘密にして当たり障りのない言葉で言いくるめるのではなく、あますことなくお話してくれた魔王様は多分きっととてもやさしい方なのです。

 わたくしはまだ子供ですけれど、きちんと向き合ってくれた魔王様を、わたくしは好きになってしまいました。

 パパの次に!




 夜になると、“大丈夫なとき”には魔王様が魔法を駆使して透明人間のパパと会わせてくれるので、さみしくありません!

 ……ちょっとしか。


 他にもあれこれいっぱい、お願いをすると、魔王様は何でも叶えてくれるのです。

 遊んでくれますし、楽しいお話もたくさんしてくれます。

 魔王様の住んでいる国の不思議な出来事とか、もっと不思議な遠い遠い国のお話とか!


 魔王様はすごく物知りで、それでいて優しくてかっこいい。

 とってもとってもイケメンなのです。

 勿論パパの次に!




「パパの次にかぁ……」


 内緒話を打ち明けるように、魔王様の耳にそう囁くと、一瞬固まってそれから苦笑いをして、こしょこしょと尋ねられます。


「2番目じゃあ、お嫁さんにはなってくれない?」


「お嫁さん?」


 わたくしが魔王様の、お嫁さん……。


「ああいや、今すぐとかじゃなくてね、おっきくなったら! おっきくなってからの話ね!」


 わたくしが、おっきくなったら……。


「わたくし、おおきくなったら“あくじょ”になるみたいですが、それでもいいのですか?」


「えっあくじょ……いやうん、例え悪役令嬢になったって大丈夫、俺がきちんと護るから!!」


 そう断言されて、思わず大きくなったわたくしと魔王様が花嫁衣装と花婿衣装を着て並ぶ様を想像したら、なんだかほっぺがとっても熱くなってきてしまいます。

 魔王様の事は好きです。

 だから、もじもじとちょっとだけ迷って、それからこくんと頷いてしまいました。




「えっパパのお嫁さんになってくれるんじゃなかったの?!」


 その夜、透明人間のパパにわたくしがした魔王様との約束を同じ様に耳元で囁いて、しっかりと伝えます。‘’ほうれんそう‘’は大事なのです!


「うん、パパのお嫁さん、なる!」


「……魔王くんは?」


「魔王様のお嫁さんにも、なるのです!」


 約束しましたからね!

 わたくしはきちんと約束を守る‘’あくじょ‘’なのです!


「魔王くんこれはどういう事だい」


「えーっといやそのこれはですね……ほら、その……」


 パパが、何やらすわった眼差しで魔王様を睨みます。

 だめですよ、仲良くしなくては。

 大好きな人と大好きな人が仲良くしてくれたら、わたくししあわせなのです。

 ね?





 今日も。魔王様はわたくしに、今まで秘密だったらしい色々な事を教えてくれます。



 わたくしのママ。

 わたくしを産んだ時に、お星さまになってしまったという、わたくしのママ。


 その、わたくしのママが、魔王様のパパの部下だったらしいのです。

 魔王様が小さい頃はよく、わたくしのママにからかわれていたそう。


「いいなぁ……わたくしも、ママにからかわれてみたかった」


 思わずぽつり、とつぶやくと、びく、とわたくしの後ろに控えていた侍女のねーさまが反応しました。


 よっぽど慌てたのか、いつもかけていた分厚い眼鏡が落っこちます。どうやら眼鏡には魔法がかけられていたらしく、同時に髪の色も変わってしまいました。

 今まで眼鏡に隠されていた大きな目。

 覗いた、珍しい、瞳の色。

 わたくしの瞳の色とおんなじ……。

 そう、わたくしの瞳の色はとっても珍しいのだとパパがいつか言っていました。

 あら?

 あらら?

 思えば侍女のねーさまはいつでも分厚い眼鏡をかけていて、素顔を見たことがありませんでした。今、よくよく見ると、わたくしと同じ瞳の色、同じ髪の色、同じ顔……?


 すごい! わたくしのそっくりさんです!


 お年はわたくしより少し上のようですが、まるでうり二つですよ!


 ぽかぁんとお口を開いてお目々をまんまるにしているわたくしを見て、今にも泣き出しそうな顔をしながら、震える手のひらがそろり、と近付いて来ます。

 ふわ、と、戸惑うように躊躇うように、やわらかくわたくしの頭に乗せられた、あたたかい、手のひら。


 瞬間、わたくしの脳裏に電撃が走ります。まるで、すべてのパズルのピースがハマった時のような。

 なにもかもが理解できてしまった時のような。




「……まま……?」


「……っ!!」


 がばり、と。腕の中にすっぽりと、抱きしめられてしまいます。ねーさま、あらため、ママ……は、声にならない声を上げて、泣いているようです。

 いっぱいいっぱい、魔王様に教えてもらったあれこれと。今まで秘密にされていたこと、その背景、大事なこと、たくさん。

 わたくしは今、物凄く頭が冴えていて、何もかもを理解したような気になっています。だから、答え合わせを。


「ママも、きけんがあぶなかった」


「そうなの……」


「ママも、魔王様のところに“ひなん”中?」


「そうなの……」


「わたくしと、おそろい!」


「……そう……なの……」


 ママがその大きな瞳から決壊したようにぼろぼろと涙を溢れさせます。


「ママ、泣いてる、悲しいの?」


「ちがう、ちがうの、うれしいの……。

 ずっとずっと本当のママとしては逢いたくても逢えなかったあなたに逢えて、嬉しいの……」



 ひとは、嬉しい時にも、泣いちゃうんですって!

 わたくし、またひとつかしこくなりました!




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 転生したら魔王の息子でした。

 もし俺の境遇にタイトルを付けるなら、きっとそんな陳腐なやつなんだろう。

 記憶を思い出した時にどうしようかとしばらく悩みはしたものの、恐る恐る打ち明けてみればテンセイシャというのは魔族の国ではままよくある事らしく、へぇ~そうなんだ的にあっさり受け入れられてしまった。

 ちくしょう俺の葛藤を返せ。



 事の発端は、人間の国に嫁いでいった親父の部下だったねーさんが、どうやらきな臭くなってきた渦中に居るらしいと。

 当時絶賛魔王中だった親父から知らされて、某人間の国まで迎えに行くことになった俺イズ魔王の息子。

 親父の部下のねーさんには、俺っちがまだ鼻垂れ小僧だった頃から可愛がってもらってたというか延々からかわれてたっていうかおちょくられてたっていうか守ってもらってたっていうか。

 苦手とかじゃあないんだけどもちょっと気恥ずかしい相手だ。


 そんで迎えに行ったら、ねーさん(うっかりおばさんとか口を滑らした日には殺されっから物心付いた頃からずっとねーさん呼びだぜ!)は丁度初の出産を無事に終えたとこで。産まれたばかりの赤ん坊のフルネームを聞いて、びっくりしたのなんのって、えっこの子、前世で超ドハマりして読んでたラノベで俺の最推しだった悪役令嬢ちゃんじゃん?!


 父の部下だったねーさんがどっかの国のおっちゃん(当時は公爵家の嫡男だった)と大恋愛の末結婚したとは聞いてたけど、何処にお嫁に行ったとかは知らなかった。

 なのでその旦那の名前も知らなくて今の今まで思い出せず。不覚!



 ねーさんがお嫁に行った頃はまだ公爵のおっちゃんの国は親魔族派だったんだけど、そこの王太子サンが王位を継ぐ辺りになって騒動起こした挙句反魔族派に鞍替えしちゃってさぁ〜。

 一応ねーさんが魔族って事は秘密ではあったんだけど、何気に成人後見た目年取らない系の魔族なんだわ。

 ある程度までは美魔女って事で誤魔化せても、そのうち無理が来るわけで。

 ねーさんの身が危険になるかもってんでまぁ情勢が落ち着くまで里帰り? しようかって事になったんだわ。


 そんで、情勢が悪い中まがりなりにも公爵であるおっちゃんが妻であるねーさんを里帰りさせたーってバレたら立場が悪くなるし、とりあえず丁度出産で引きこもりになってたとこだったし産後の肥立ちが悪くて……って事にして雲隠れするかぁってなって、産まれたばかりの悪役令嬢ちゃん連れてねーさん帰ってくるってんで俺迎えに行ったのね。何しろ俺魔王の息子だから! 転移魔法使えっから! ぶっちゃけ出産直後のねーさんに無理させられないからって俺の方から立候補したし!


 けれども土壇場になって、おっちゃんを一人で残すのは忍びないってかおっちゃん、ねーさんにベタ惚れだったからさぁ〜、ねーさん里帰りする上に産まれたばっかの悪役令嬢ちゃんとも離ればなれにならざるを得ないってんでほんと死にそーなツラしてんの。

 下手するとほんとーに寂し死ぬかヤケ起こして王家に突っ込んで爆散しそうな感じ。

 いっそ家族揃って魔王国に亡命するか? って提案もしたんだけど、先祖代々ずっと守ってきて立派な領主様の息子だって子供の頃からよくしてくれた領民は見捨てられないし何とか王国がまた親魔族派になったら呼び戻せるからそうなるよう社交と政治も頑張るんだって。

 っかぁ〜流石領主の鏡だね〜うん、ねーさんが惚れただけあるわ、悔しいけど!


 だけどそれ聞いたねーさんがさぁ、やっぱおっちゃんひとりだけ置いていけないって言い出して、泣くんだもんよ。しょうがないから俺も覚束ない脳みそフル回転させて作戦練ったわ。丁度思い出した前世の記憶withラノベ情報(これから起こるかもしれない出来事)も加味してな。

 結果、ねーさんは予定通り産後の肥立ちが悪くて〜で雲隠れ、悪役令嬢ちゃんはおっちゃんのヤル気カンフル剤&精神安定剤で公爵家に残留、代わりに侍女として秘密裏に悪役令嬢ちゃんの傍に変装したねーさんを置く、という感じに。


 そんな訳で、ねーさんの里帰りを迎えに行った筈が俺っち一人でとんぼ返りよ。まぁ、悪役令嬢ちゃんのフルネーム聞いて前世の記憶思い出したオマケはあったけど。


 そんでまぁ悪役令嬢ちゃんに秘密が漏れちゃうと、やっぱまだ子供だからさぁ……秘密、難しいよねってんで、ある程度大きくなるまではママはお星さまになったと言い聞かせてたらしく……。


 星になった……ねぇ……。


 まぁ、ねーさんは星詠み人って種族だから間違いではないけど……。


 ちな、星詠み人ってーのは簡単に言うと夜は無敵なデバッファー&バッファーってやつかなぁ〜因みに昼間は概ね役に立たない。でも夜は無敵。

 すっげぇぞ〜夜空に単身浮かんでねーさん曰く‘’美しいポーズ‘’とやらをキメた状態で、繁華街のネオンもかくやという感じにビッカビッカ光りまくるの。

 それこそ点滅するわ光量絞ったり増したりするわで派手もド派手でねぇ〜。

 その光り方なりポーズなりによってデバフだったりバフだったり色々効果変わんだよねぇ。

 星に代わってお仕置きよ! ってなもんでまぁ俺の子供心に超超かっこよかったんだわ。

 それこそ憧れっていうか初恋のあばばばば……。


 いや! 俺ってば悪役令嬢ちゃん一筋だから! だってほら俺がまだまだ鼻垂れ小僧だった頃とかこの世界が知ってるラノベの中だとか知らなかったし!

 俺が前世の記憶思い出したの、ねーさん迎えに行くついでに悪役令嬢ちゃんのフルネーム聞いたあの時だし!

 ていうかラノベだと人間の国目線で物語が進むからさぁ、よしんばもっと前に思い出してたとしても、わっかんないよね!

 あ、でもそーいやねーさんの顔割とラノベの悪役令嬢ちゃんまんまか……顔で気付いた可能性……いやでも似てはいるけど悪役令嬢ちゃんは今思えばおっちゃんの要素も微レ存……おっちゃんもイケメンだしな……ねーさんのメンクイめ……。

 ……まぁ、それはとりあえず置いとこう。


 そんで正体は明かせずともパパとママとにたっぷりと愛情を注がれてすくすくと育った悪役令嬢ちゃんに目を付けた輩が居た! そう、王家のクソ野郎ね!

 王子の一人と悪役令嬢ちゃんを婚約させる話が持ち上がっちゃって、その話聞いた俺は慌てて前世で読んだラノベでの王子と婚約後悪役令嬢に仕立て上げられて挙句婚約破棄され断罪される未来を暴露、あっさり俺のわけわかんねー話を信じちゃって怒り心頭のおっちゃんは氷点下の笑顔で王家からの婚約打診を完全拒否、結果今の王妃様である聖女と魔族排斥を進める聖女教会と反魔族派閥と親魔族派閥が水面下で泥沼になってその余波で悪役令嬢ちゃんの命が狙われる事に!



 というわけで今ココ、悪役令嬢ちゃん魔王国へいらっしゃぁ〜い! ってなもんで、いやも〜おかげで小さい頃の悪役令嬢ちゃんと仲良く一緒に暮らせる様になっちゃってさぁ〜毎日ハッピー!

 しかも! 惚れた弱味でめっちゃ甘やかしまくったら、懐かれちゃって!!

 しかもしかもぉ〜おっきくなったら魔王様のお嫁さんになるぅ〜いただきました! オゥイェー!

 素直な悪役令嬢ちゃんかわい!

 えっ待って素直な悪役令嬢ちゃんめちゃくちゃかわいい……。

 いっそこの素直な悪役令嬢ちゃんのまま光源氏計画……?

 ラノベでのツンツンな悪役令嬢ちゃんもかわいかったけど!

 あああどっちも捨てがたい!

 素直でもツンツンでも悪役令嬢ちゃんだったらもうどっちでもいいわ俺愛しちゃう一生愛し抜いちゃう!

 あ、ちげーから! 俺ロリコンじゃねーから!

 俺が前世で一目惚れした悪役令嬢ちゃんはそりゃあもう妙齢で成長した成人後のボンキュッボンなげふげふん……。

 いやもうこれ卵が先か鶏が先かって話じゃね?!

 ラノベの悪役令嬢ちゃんに惚れて、その母親でそっくりな見た目のねーさんに惚れて、今子供の頃の悪役令嬢ちゃんに惚れてるっていう……。

 いやぁ……転生しても好きな女の好みって変わらないんすね、ハハッ。




 今日も今日とて作戦会議。


「やっぱ婚約断ったのが原因?」

「だろうな」

「王家許すまじ」

「尻尾は掴んだ、この機に黒幕を引っ張り出して大粛清をしてやるさ」


 ボソボソとオトナの会議中。

 お膝の上に乗せた悪役令嬢ちゃんが、最近魔王の仕事におっちゃんのサポートに悪役令嬢ちゃんの相手にと魔力使いまくっててちょい頭ラリってる俺ちゃんの顔色を見て、


「魔王様、無理してないですか……?」


 ってな感じですっごいかわいい表情で心配されちゃって、いやぁ~だいじょぶだいじょぶ、この機会におっちゃんにがっつり恩売って、将来バッチリ取り立てっから!

 らぶらぶ新婚生活の為にね!

 ヒャッハー!



 釣られてヒャッハー! なあなたは星詠み人になってビカビカ光りながら↓にあるお星さまをぽちぽちぽっちん★

(と、完全ラリ中の魔王様が申しております)

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