蹂躙の宴
それは、「実戦」なんて呼べる代物ではなかった。
「あははっ! すげぇ、マジで身体が軽い!」
家持が炎を纏い、凄まじい速度で集落を駆け抜ける。
その通り道にある家々が、彼の放つ熱量だけで次々と発火し、崩れ落ちていった。
「無駄な動きが多いぞ、カイ」
戦場を見下ろす位置に立つ大伴が、冷静に告げる。
彼の『氷軍指揮』によって生成された氷の兵士たちが、逃げ惑う狐人族を冷徹に追い詰めていた。
「な、なんで……私たちが何をしたっていうの……っ!」
子供を抱えた狐人の母親が、氷の槍に囲まれ悲鳴を上げる。
彼ら獣人にとって、王国は長年自分たちを脅かしてきた侵略の象徴だ。
その凶刃がいま、かつてない圧倒的な力となって自分たちを焼き尽くそうとしていた。
「……ひどい」
結衣が、震える声で呟く。
俺と澄人も、目の前の地獄に言葉を失っていた。
俺たちが必死に木剣を振っていた一週間の間に、上位勢の力は文字通り「化け物」の領域に達していた。
「神代、藤原、源! ここはあらかた片付いた、向こうに行くぞ!」
家持の言葉に従い、俺たちは戦場の中心を離れ、森の奥へと進んでいった。
やがて、集落の喧騒が木々に吸い込まれて消え、森の中の開けた場所へと辿り着いた。
「家持くん、ここには何もなさそうだけど……」
周囲を見渡しながら、俺は疑問を口にした。
家持は立ち止まった。
背中を向けたまま、彼はこれまでの軽薄なトーンとは正反対の、粘りつくような声で応じる。
「ああ。ここなら、やりやすいかなと思ってな」
家持がゆっくりと振り返った。
その顔に張り付いていた「お調子者」の仮面は剥がれ落ち、底冷えするような愉悦の笑みが浮かんでいた。
「家持……くん……?」
俺が困惑して声を漏らした瞬間、家持の手から空に向けて、合図の炎が打ち上げられた。
「な、なんだよ、今の……っ」
答えは、言葉ではなく圧倒的な「圧」で返ってきた。
森の影から、ゆっくりと人影が歩み出てくる。
氷の兵を従えた大伴。
ゴミを見るような目で俺たちを見下ろす白波。
そして、黄金の魔力を全身から放つ日ノ出が、俺たちの前に立ち塞がった。
「待たせたな、カイ」
日ノ出が傲岸不遜に言い放つ。
「山上のやつがずっと遊んでやがって、遅れちまった」
日ノ出が事も無げに言うと、その背後から一際どす黒い魔圧が膨れ上がった。
木々がその圧だけでミシミシと悲鳴を上げる。
暗い森の奥からゆっくりと姿を現したのは、全身に昏いオーラを纏った山上だった。
その瞳に、かつての親友としての面影はない。
山上は俺たちの絶望に歪んだ顔を視界に入れると、心底冷酷に口角を吊り上げた。
「……よお、渚。察しのいいお前ならこの状況の意味、大体分かるよな?」
信じていた仲間、唯一寄り添ってくれたはずの家持までもが、牙を剥きました。
森の奥に集結した「勝ち組」のクラスメイトたち。
彼らが渚たち「ハズレ組」をここに呼び出した、真の目的とは……。
いよいよ物語は絶望の淵へ。
次回、第10話「灰の向こう側」。ついにあの方が登場します。
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