澱みの数日間
異世界に召喚されてから一週間。
クラス全員が同じ訓練場に集められ、修練を続けていた。
だが、そこには残酷なまでの境界線が引かれている。
「――っ、はあああああ!」
日ノ出の叫びと共に、巨大な光の刃が訓練用の石壁を粉砕する。
周囲では他のクラスメイトたちも、日に日に強力になる自らのスキルに酔いしれ、歓声を上げていた。
たとえ「当たり」組でなくとも、彼らの放つ魔法は一週間前とは比べものにならないほど力強くなっている。
その熱狂の輪から遠く離れた、訓練場の最果て。
そこが、俺たち三人の定位置だった。
「……また、失敗だ」
澄人が、煤だらけの顔で呟いた。
彼のスキル『不火』は、長い時間をかけて魔力を溜め、ようやく小さな火球を放つことができる。
だが、制御が極めて難しく、的に届く前に霧散するか、手元で爆発するかのどちらかだった。
「……私も、変わらない。ただ、静かになるだけ」
結衣が、力なく首を振る。
彼女がスキルを使っても、周囲の音が数秒消えるだけで、戦闘にはおよそ役立ちそうにない。
俺も、手元に『水鏡』を浮かべる。
多少の衝撃なら跳ね返せる。
だが、日ノ出たちが放つような一撃を受ければ、鏡ごと粉砕されるのは目に見えていた。
孤立し、周囲から「ハズレ組」として扱われる日々。
そんな中で、俺たちは自然と身を寄せ合い、いつしか互いを下の名前で呼び合うようになっていた。
「……澄人、結衣。焦っても仕方ないよ。今は、できることをやるしかない」
俺の言葉に、二人は力なく頷く。
この疎外感の中で、二人との会話だけが俺の唯一の救いだった。
そんな俺たちの元へ、一人の男子が軽い足取りでやってきた。
「よう、神代! 藤原に源も。相変わらず苦戦してるな!」
家持だ。
主力組として特別な指導を受けているはずの彼だけは、以前と変わらず、俺たちに親しげに接してくれる。
「家持くん……。いいのか? 俺たちみたいなのとつるんでて」
「何言ってんだよ。俺たちは同じクラスの仲間だろ? 鑑定がどうとか関係ねーよ。俺が強くなって、お前らを守ってやるから安心しろって!」
家持は俺の肩を叩き、白い歯を見せて笑った。
誰も信じられないこの世界で、その笑顔だけは本物だと信じたかった。
その日の夕刻。
全生徒が招集され、筆頭魔導師ヴォルガから初の実戦任務が通達された。
「辺境に巣食う亜人――狐人族の集落を掃討していただきます」
その言葉に、最前列にいた桜花が困惑した表情で声を上げた。
「……あの、ヴォルガさん。この任務には、どのような意味があるのでしょうか? 私たちが、いきなり戦わなければならない理由を教えてください」
その場に緊張が走る。
ヴォルガは表情を変えず、生徒たち全員を見渡すようにして口を開いた。
「彼らは長年、国境付近の村々を襲い、略奪を繰り返してきた凶暴な種族です。話し合いが通じる相手ではありません。放置すれば、さらなる犠牲者が出るでしょう」
ヴォルガの淀みない説明に、生徒たちの間に「自分たちは正義のために戦うのだ」という空気が浸透していく。
桜花はなおも唇を噛んでいたが、周囲の同調する熱に押され、それ以上言葉を続けることができなかった。
「では、今から指示する小隊を組んでもらいます。第一班、……」
淡々と名前が読み上げられていく。
「……第九班。神代 渚さん、藤原 澄人さん、源 結衣さん。及び、家持 快晴さん」
家持がこちらを見て、頼もしげに親指を立てる。
「よし、俺たちの出番だな! 安心しろ、神代。俺が全部片付けてやるからよ」
翌朝。
俺たちは王国が用意した馬車に乗り込み、城門をくぐった。
目指すは狐人族の集落。
俺は、腰に下げた安物の剣の柄を、強く握りしめた。
「正義」の名の下に命じられた初の実戦任務。
ハズレ組の渚たちにとって、唯一の希望に見えるのは、クラスメイトの家持でした。
「お前らを守ってやる」
その力強い言葉を信じ、戦場へと赴く渚たち。
次回、第9話「蹂躙の宴」は明日2/5(木) 19:10更新です。
ついに物語は一章のクライマックスへ突入します。
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