選別の天秤
晩餐会の喧騒は、厚い石壁に阻まれてここまでは届かない。
王城の深部に位置する軍議室。
円卓を囲むのは、国王、筆頭魔導師ヴォルガ、そして数名の軍部高官のみ。
卓上に広げられたのは地図ではなく、今しがた行われた鑑定結果の写しだった。
「――以上が、今回の召喚個体の精査結果です」
ヴォルガが淡々と告げる。
国王はその書面を指先でなぞり、深く、満足げに頷いた。
「素晴らしい。過去数回にわたる儀式……理論構築のための尊い犠牲も、ようやく報われたということか。これほどの『当たり』が揃うとはな」
その言葉に、ヴォルガが薄く笑みを浮かべる。
「左様でございます。日本の高校生という、高度に均質化された環境で育った者たちの波長順応。それらが集団として一斉に励起したことで生じる魔力効率は、試算を大幅に上回りました」
彼らにとって、あの教室にいた生徒たちは、長年の実験を経てようやく手に入れた「高品質な部品」に過ぎないのだ。
「主力は三名。まずは最大火力の山上 業、そして万能型の日ノ出 恒一。この二人が我が王国の新たな『矛』となります。さらに、時雨 桜花……『聖女』を引いたのは大きい」
一人の高官が熱を帯びた声で言った。
「彼女こそが王国の正義と平和を体現する象徴。我が国の侵略……いえ、大陸平定の正当性を飾る、最高のアイコンとなりましょう」
「うむ。家持、大伴、白波の三名も即戦力だ。早急に教育を施し、王国の忠実な牙に仕立て上げよ」
国王は満足げに背もたれに身を預けた。
そして、手元にある最後の一枚の資料――。
神代 渚、藤原 澄人、源 結衣の名が記された紙を、無造作に指で弾いた。
「……して、こちらの『光らぬ者たち』はどうされますか?」
ヴォルガの問いは、事務的なものだった。
国王は鼻で笑い、興味なさげに視線を逸らす。
「好きにせよ。戦力にならぬ者を養うリソースなど、我が国にはない。ヴォルガ、そなたの判断に任せる」
「ならば、召喚者たちの実力も一度見ておきたいので、全員を辺境の任務に投入しましょう」
ヴォルガの声には、僅かな抑揚もなかった。
「神代ら三名は、家持 快晴と同じ班に組み込みます。……その後の采配については、私にお任せを」
国王はそれ以上の興味を示すことなく、席を立った。
円卓の上。
光り輝く名前が並ぶ資料の影で。
弾き飛ばされた三人の名前が記された紙は、冷たい床の上に無残に転がっていた。
救世主として招かれたはずの生徒たちは、王国にとってはただの「高品質な部品」でしかありませんでした。
利用価値がある者は「牙」となり、価値のない者は「リソースの無駄」として切り捨てられる。
ヴォルガの提案した「辺境への任務」。
家持と同じ班にされた渚たちを待ち受けるのは、果たして……。
次回、第8話「澱みの数日間」は2/4(水)の19:10更新予定です。
少しずつ、王国側の「真意」が見えてきました。
渚、澄人、結衣。この三人の逆転を信じてくださる方は、ブックマークや評価での応援をぜひお願いいたします!




