反転する序列
俺が鑑定を終え、よろよろと列に戻る際、浴びせられたのは罵倒ですらなかった。
それは、関心の喪失だ。
日ノ出や桜花の時にあった熱狂は霧散し、クラスメイトたちは「あいつはもう関係ない」とばかりに視線を逸らす。
その沈黙が、鋭利な刃物のように俺の背中をなぞった。
次に前へ出たのは、眼鏡をかけた、どこか現実的な雰囲気の男子生徒だった。
「名前、藤原 澄人。スキル――不火」
放たれた光は弱々しく、神官の声には隠しきれない落胆が混じる。
藤原と呼ばれた男子は、感情を殺したような顔で、ふらふらと俺に近い位置まで戻って立ち尽くした。
続いて、長い前髪で顔を隠した女子生徒が、震える足取りで自ら水晶の前へと歩み寄る。
「名前、源 結衣。スキル――無音」
光はやはり、俺の時と同じく頼りない。
クラスのどこからか、欠伸をするような音が聞こえた。
「……はあ、期待して損したわ」
「もう終わり? メインディッシュの後に残りカス見せられてる気分」
特定の誰が言ったわけじゃない。
それは、場を満たす「総意」だった。
王国側もすでに、残る一人の存在など忘れているようだった。
神官たちが片付けの相談を始め、日ノ出や桜花の周りには早くも追従する生徒たちが集まり、華やかな輪ができている。
その喧騒から遠く離れた場所で。
最後の一人の男子生徒が、無言で水晶の前に立った。
誰も彼を見ていない。
期待の欠片も投げられていない。
彼が、水晶に手を触れる。
――瞬間、すべてが凍りついた。
ドクン、と心臓を直接掴まれたような衝撃。
広間の照明が消えたのかと錯覚するほどの、圧倒的な「黒」が溢れ出した。
それは光を拒絶し、すべてを飲み込む闇の奔流。
「……え?」
誰かの抜けた声。
闇の波動は重圧となって広間を揺らし、豪華な装飾をガタガタと震わせる。
パキ、と不吉な音が響いた直後。
――ガシャンッ!
激しい破砕音と共に、水晶が粉々に砕け散った。
神官は腰を抜かし、国王が玉座から身を乗り出す。
「……名前、山上 業」
神官の声が、極限の畏怖に震えている。
「スキル――深淵滅葬……!」
日ノ出の時以上の、だが性質の全く異なる衝撃。
最強の「闇」が、音もなくそこに顕現していた。
クラスの連中は、歓声を上げることも忘れて立ち尽くしていた。
さっきまで「残りカス」と笑っていた相手が、自分たちの誰よりも不吉で強大な力を剥き出しにしている。
認めたくない。
だが、その肌を刺すようなプレッシャーが、強制的に「格が違う」ことを分からせてくる。
恐怖と困惑が混ざり合った、歪な沈黙が広間を支配した。
「山上くん! 良かった、すごいじゃないか……!」
俺は思わず、弾かれたように声をかけた。
自分たちが底辺に沈んでも、唯一の友人である彼が評価されたこと。
それがこの地獄のような状況での、たった一つの希望に思えた。
だが。
駆け寄ろうとした俺の足は、彼から立ち上る異様な空気感に射すくめられた。
業は、砕けた水晶を見つめたまま、自分の手を確認するように握りしめている。
その顔に、今まで見せたことのない、暗く恍惚とした笑みが浮かんでいた。
「山上くん……?」
「……近寄るなよ、神代」
低く、冷たい拒絶。
彼は俺を見ようともせず、ただ陶酔した瞳で自らの力を噛み締めていた。
「俺、分かっちゃったんだ。この光と、この高揚感でさ……」
彼はゆっくりと俺を振り返る。
その瞳には、かつて共有したはずの友情の欠片もなかった。
あるのは、自分を蔑んできた世界を逆転させたという、歪んだ全能感。
「俺はもう、お前らとは違うからさ」
頭を強く殴られたような衝撃だった。
王国の兵士たちが、畏怖と共に彼を迎え入れ、ひざまずく。
その光景を、クラスメイトたちはただ呆然と、嫉妬と恐怖が入り混じった顔で見守ることしかできなかった。
俺と、すぐ傍に立ち尽くする二人の男女。
残されたのは、暗い隅に追いやられた三人と、かつての親友から投げつけられた、鋭い拒絶の言葉だけだった。
かつての親友、山上業の変貌。
最強の闇を授かった彼は、昨日までの絆さえも「過去のもの」として切り捨ててしまいました。
あまりにも残酷な決別。
残された渚、澄人、結衣の三人の前には、さらなる過酷な現実が待ち受けています。
次回、第6話「黄金の晩餐、冷たい視線」は、明日2/2の19:10更新です。
ここから物語は「王国側の陰謀」と「三人の絆」へと進んでいきます。
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