災厄の介入
時は遡る。
ソルディア王国による狐人族集落掃討任務――。
それは王国にとって、召喚者たちの実戦データ収集を兼ねた、冷徹な「間引き」の場でもあった。
集落から数キロ離れた地点に設営された、王国軍の前線本営。
魔法通信の残響が鳴り響く中、一人の連絡員が転進するように飛び込んできた。
「報告! 各侵攻拠点において甚大な被害報告が上がっております!」
今回の作戦指揮を執るガーゼル中佐が、険しい表情で顔を上げる。
「……何だと? 何かの間違いだろう。先程まで、召喚者たちの活躍も相まって掃討は極めて順調に進んでいると報告があったはずだ」
「は、はい! ですが、複数の拠点において……突如として巨大な魔法が投下された模様です。現在、第一、第二中隊共に連絡が途絶。爆心地は未だ炎と雷に包まれ、生存者の確認すら困難です!」
「馬鹿な……。狐人族にそんな真似ができるはずがない。奴らに広域殲滅魔法など扱えるはずが……」
ガーゼルが机を叩き、怒声を上げる。
その横で、送られてくる伝令の報告を精査していた補佐官が、蒼白な顔で呟いた。
「中佐、まさか……ディザスターでしょうか」
ガーゼルの顔から血の気が引く。
ディザスター。
「エクシア共和国の人間である」ということ以外の一切が不明とされる特級戦力。
王国の軍事行動の場に現れては、圧倒的な「個」の武力によって軍を壊滅させて去っていく、生ける災害。
「またしても奴の介入か。迷惑な災害め……。奴が現れた以上、もはや作戦継続は不可能だ」
「……全軍撤退だ。それと、今回の作戦で別行動をとっている召喚者たちの部隊――『3-1部隊』はどうなっている。あそこには日ノ出や山上もいるはずだ」
「3-1部隊は現在、ヴォルガ様からの極秘任務に移っている頃かと」
「急ぎ伝令を飛ばせ! **『ディザスターとは決して対峙するな』**と。奴は我々の理解を超えている。我々の最高戦力候補といえど、初陣で奴を相手どらせて潰したとあっては、我々がどのような処分を受けるか分かったものではないからな!」
その頃。
森の奥では、山上、日ノ出をはじめとした旧友達による「不要品処分」が、その終わりを迎えようとしていた。
「さよなら、渚。……地獄でお似合いの席を探しなよ」
山上の嘲笑と共に、無慈悲な力が解き放たれる。
爆炎、氷槍、そしてクラスメイトたちが放つ無数の魔力の束が、逃げ場のない渚たちへと殺到した。
――だが。
「――おっと。これ以上はやらせないよ」
冷静でありながら、戦場そのものを射すくめるような猛々しい響き。
直後、魔法という概念すら超越したような「何か」が、迫りくる死의 奔流を正面から迎え撃った。
放たれた膨大な熱量も、鋭利な氷も、叩きつけられた魔力の一切をも、その「何か」は無造作に掻き消し、爆散させた。
砂塵の向こう側に一人の男が立っていた。
男――天城は、倒れている渚たちを一瞥し、深い溜息をついた。
「ソルディア王国が大規模な召喚を行ったっていう噂は、どうやらホントだったみたいだね。……やれやれ。危なかったよ。目の前で理不尽に命が刈り取られるのを見るのは、寝覚めが悪くてね。ここで消えるには、君たちは少し若すぎる」
「……誰だ、てめぇ……! 俺が誰だか分かってんのか!」
日ノ出が黄金の魔力を剥き出しにして叫び、一歩踏み出そうとした瞬間。
天城の纏う空気が、絶対零度よりも冷たく静まり返った。
「静かにしてなよ。これ以上向かってくるようなら、子供相手でも容赦しないよ」
ゴォォォォォォォッ!!
天城が放ったのは、攻撃ですらなかった。ただの威圧に伴う「爆風」。
それは天城によって引き起こされた局地的な小型台風のごとき暴風となり、日ノ出たちの周囲を文字通り吹き飛ばした。
「がはっ……!?」
「何だ、この……風は……っ!」
最強のスキルを授かったはずの山上たちが、膝をつき、呼吸を忘れるほどの恐怖に支配される。
『全軍撤退ッ! 繰り返す、全軍即時撤退だッ!!』
遠くから響く、ガーゼル中佐の命を伝達する軍の拡声魔法。
日ノ出たちは屈辱と、そして本能的な恐怖に追い立てられるように、天城へ背を向けて逃げ出すしかなかった。
「……拾わせてもらうよ。君たちの『命』の重さを理解できない連中のところに、置いておくわけにはいかないからね」
天城啓は、意識を失った渚、澄人、結衣の三人を軽々と抱え上げると、そのまま音もなくその場を立ち去った。
亜人集落殲滅作戦の裏側で起きていた真実。
天城啓――またの名を、王国が恐れる生ける災害「ディザスター」。
彼がなぜあの場に現れ、渚たちを救ったのか。その圧倒的な力の片鱗が明らかになりました。
次回、第22話は 3/8(日) 20:10 更新予定です。
新章はソルディア王国を描いていきます。
ソルディアが隠し持つ戦力たちが続々登場予定です。
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