可能性 ー神代 渚ー
二人の仲間が、それぞれ自らの意志で「ハズレ」の烙印を塗り替える可能性を見いだした。
その熱量に当てられるように、俺は一歩前へ踏み出す。
「さて、残るは渚だね」
天城が期待を込めた視線を向けてくる。俺は精神を集中させ、自らの力を形にした。
「俺のスキルは『水鏡』。水で出来た鏡を作り出します。この鏡で、物理攻撃や魔法を反射することが出来ます」
目の前に、薄く揺らぐ水の円盤が浮かぶ。
それを見たヒュリアが、腕を組んでうなった。
「うーん、確かに守りには使えそうだけど……。自分から攻め込むには、ちょっと工夫が必要そうね」
「ええ。だから、別の解釈をしてみようと思うんです。さっきヒュリアさんが見せてくれたように、鏡の形にこだわる必要はないはずだ。形状を変えて身に纏うこともできるかもしれないし、そもそも『水』である必要もなくて、水のように流動的な何かをイメージすればいい」
俺は「鏡を生成する」という固定観念を捨てた。
掌の上に、水のように滑らかで、けれど鏡のような光沢を持つ無属性の魔力の膜を練り上げる。
「へー、属性変化! 斬新な解釈じゃない。それ、応用が利きそうね!」
ヒュリアが目を輝かせる。
すると、隣で見ていた結衣が、小さく手を挙げて口を開いた。
「あの……ちょっと、いいかな? 鏡って光を反射してるけど……見方によっては、相手の姿をそこに『止めてる』とも思えないかな?」
「姿を、止める……?」
結衣の言葉が、すとんと胸に落ちた。
反射とは、跳ね返すことだ。だが、その瞬間にエネルギーを鏡の中に固定し、内側に留めることができたら――。
「そうか……反射するだけじゃなくて、『吸収』することもできる可能性があるのか。澄人、ちょっと手伝ってくれるか? さっきの火の鳥を、俺に向けて放ってみてくれ」
「えっ、大丈夫か? ……いくよ!」
澄人が放った火の鳥が、鮮やかな尾を引いて俺に迫る。
俺は手に纏った『水鏡』を盾のように突き出し、それを迎え撃った。
衝突の瞬間、火の鳥は弾けることなく、俺の掌の膜へと吸い込まれるように消えた。
そして次の瞬間、俺が手を振ると、天に向かって先ほどと寸分違わぬ火の鳥が飛び出していった。
「すっげー! 吸い込んでそのまま撃ち出したのか!?」
澄人が声を上げて驚く。
だが、俺は自分の右手に残る痺れるような感覚を無視できなかった。
「……だけど、俺自身の魔力出力が変わったわけじゃない。今のだけで結構ギリギリだ。強すぎる攻撃には耐えられないかもしれないな」
自分の限界が見えかけたその時、天城が静かに歩み寄ってきた。
「僕からも一つアドバイス。昨日の魔力操作の時、渚は外部の魔力を感じ取っていたよね? 昨日は混乱させないために説明を止めたけど……その『外部の魔力』を借りることだって、理論上は可能だよ」
「外部の魔力を、借りる……?」
「そう。渚にはそのセンスがあるって、僕の直感が言ってる。……まあ、実際めちゃくちゃ難しいんだけどね。この僕でさえ、補助程度にしか使えない高等技術だから。ははは!」
天城がさらっと口にした言葉に、場が凍りつく。
あの規格外の天城でさえ、完全にはこなせない技術。
もし、俺にその才能があるのだとしたら。
「……よし。それぞれ進むべき方向は決まったね。お気づきの通り、君たちのスキルは『ハズレ』の一言で片付けられるような陳腐なものじゃないよ」
天城の言葉に、ヒュリアが力強く頷き、俺たちの肩を叩いた。
「そうよ! あとは精進あるのみ。私も全力で手伝ってあげるわ。……だってお友だちのためだもの。ね!」
ヒュリアの屈託のない笑顔と、天城の底知れない期待。
俺たちは、自分たちの足元に広がっていたはずの絶望の淵が、いつの間にか未知の可能性に満ちた滑走路に変わっていることに気づいていた。
三者三様の「再定義」。
「水鏡」の真価は、反射を超えた吸収、そして再放出にありました。
さらに天城から告げられた、渚にしかできない「外部魔力の利用」。
ハズレ組の快進撃は、ここから加速していきます。
次回、第20話は 3/4(水) 20:10 更新予定です。
再始動編、いよいよ簡潔!
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