可能性 ー源 結衣ー
大空に羽ばたく火の鳥の輝きが消えぬうちに、結衣がその場で小さく手を挙げた。
視線は泳いでいるが、結ばれた口元には確かな意志が宿っている。
「……つ、次は、私が行きます。えっと……」
結衣は自分の胸元を握りしめてから、自身の力を説明し始めた。
「私のスキルは『無音』です。……こんな感じで、私から発せられる音が、すべてなくなります」
彼女が演習場を駆け回る。だが、踏みしめる土の音も、衣擦れの音も、一切聞こえない。
立ち止まった彼女は何かを叫ぶような仕草をしたが、そこには完全な静寂だけが横たわっていた。
「すごい! 結衣、手品みたいね!」
ヒュリアが感心したように声を弾ませる。
「でも、確かに……。隠密行動には最適だけど、直接的な戦闘向きじゃないかもしれないわね」
ヒュリアの率直な分析に、結衣は視線を足元に落とし、自分の指をいじった。
だが、天城はいつもの調子で、ポツリと一言を投げかけた。
「君にとって、『音』ってなんだい?」
結衣はその問いを受け、じっと自身の内側を見つめるように考え込んだ。
「音は……確か学校で、振動とか『波』だって習った気がします。! ……だとしたら、私から発せられる『波』をすべて消せるっていうのが、このスキルの装置としての機能なのかな……?」
そこまで言うと、結衣の瞳に光が宿った。
「例えば……光だって、確か特定の波長がある『波』だって習った記憶がある。もし、消せる波の種類を広げられたら……」
結衣が自身の右手に意識を集中させる。じっと見つめる俺たちの前で、何かが起きた。
「あ……!」
驚いたヒュリアが指をさす。
結衣の右手の先、その輪郭がわずかに、けれど確実に背景の景色に溶け込み、消えかかっていた。
「なるほど。自分に反射する光を波と捉えて、それを打ち消したか。光学迷彩の原理だね。……あ、思い付いちゃったんだけど、こんなのどうだろう?」
天城は楽しげに言うと、おもむろに傍らに置いていた大きな袋から一振りの刀を取り出した。
「何かの足しになればと思って色々持ってきてたんだ。結衣、自分自身だけじゃなく、こういう『持ち物』から出る波も消せるかな?」
手渡された刀を握り、結衣が再び集中する。
すると、金属特有の鈍い輝きを放っていた刀身が、陽炎のように揺らぎ、うっすらと透明に透け始めた。
「……で、出来そうです! 私の手の一部だって強く意識すれば、消す範囲を広げられます!」
「本当に手品じゃない! 鍛える方向性は決まったわね! 剣術の稽古は、この私が直々に付けてあげるわ!」
ヒュリアの頼もしい賞賛に、結衣は顔を綻ばせ、少し照れくさそうに笑った。
「えへへ……。私、昔から人混みとか苦手だったし、透明人間になれたら楽なのに、なんて考えてたから。スキルって、そういう意識も出ちゃうのかな」
結衣のその言葉は、俺の胸に妙にしっくりときた。
スキルとは、単なる現象ではなく、その人間の内面にある願望や意識が形になったものなのかもしれない。
「波を操る……頑張ってみます。誰にも気づかれずに、みんなを助けられるように。きっとその先に、私が望んでる何かがあるはずだから」
透明に揺らぐ刃を握りしめた結衣の瞳には、もう迷いはなかった。
「音」を消す力は、あらゆる「波」を打ち消す力へ。
光学迷彩と不可視の刃を手に入れた結衣は、最強の暗殺者としての片鱗を見せ始めました。
仲間二人がとんでもない進化の片鱗を見せる中、最後は主人公・渚の番です。
「水鏡」というスキルに隠された可能性とは……?
次回、第19話は 2/27(金) 20:10 更新予定です。
三人の修行はいよいよ大詰めです!
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