少女は嵐と共に
夕食後の騎士団宿舎、食堂の隅にある席。
わずかなランプの灯りの下、俺たちは今日一日で起きた出来事を反芻していた。
「……信じられるか? 王国が、資源のためにあの集落を襲ったなんて」
澄人がコップを握りしめ、悔しそうに声を潜める。結衣も静かに頷いた。
「天城さんの話も、アネモス団長の話も……嘘には聞こえなかった。私たちが教えられてきた正義は、なんだったんだろうね」
重苦しい空気が漂う。だが、その沈黙を切り裂くように、明るく凛とした声が響いた。
「あなたたちが例の集落の件で、天城が拾ってきた召喚者さんね。いろいろ大変だったみたいだけど、顔色は悪くないわね。ああだこうだ聞き回るより、直接会ったほうが早いと思って来ちゃった!」
声のした方へ顔を上げると、そこには透き通るような白髪を揺らした美少女が立っていた。
月光を閉じ込めたような髪、そして意志の強さを感じさせる瞳。
一瞬、食堂の空気が華やいだような錯覚に陥るほど、彼女は可憐だった。
「ごめんごめん、自己紹介がまだだったわね。私はヒュリア・アネモス。エクシア聖騎士団で1番隊隊長を任されてるわ。よろしくね!」
見たところ、俺たちとそう年は変わらなそうに見える。なのに、聖騎士団の隊長。
やっぱり、この人も「持っている側」の人間なんだろう。
天城と同じように、俺たちとは住む世界が違うのだ。
その気さくで屈託のない振る舞いに、俺は元の世界にいた頃の桜花を思い出した。
「……初めまして、アネモスさん。俺は渚。いろいろとお世話になってます」
俺が代表して挨拶すると、ヒュリアは少しだけ顔をしかめて、ひらひらと手を振った。
「あー、その『アネモスさん』ってやめてくれる? パパと呼ばれ方が同じなのは、ちょっと嫌なの。……ねえ、私たちきっと同年代よね? ヒュリアでいいわ。お友だちになりましょう!」
――パパ?
アネモス団長と親子ってことか。
俺が内心で驚いていると、隣で澄人が慌てて立ち上がった。
「えっ、あ、あのアネモス……じゃなくて、ヒュリアさんは、その、その若さで隊長なんて、すごいですね……!」
澄人は完全に彼女の美貌に当てられ、たじたじになっている。
顔を赤くして視線を泳がせる様子は、いつもの冷静な彼からは想像もつかないほどだった。
「あはは、ありがとう! 気づいてるかもしれないけど、アネモス団長は私の父よ。だけど、この役職が親の七光りだなんて思われたくないからね。これからも誰より精進していくつもりよ!」
腰に手を当て、胸を張して笑う彼女からは、嫌味のないポジティブなエネルギーが溢れていた。
自立した一人の騎士としての芯の強さが、その立ち姿から伝わってくる。
「それで、お友だちへ天城から伝言を預かってるの。『明日の朝からは本格的にスキルの訓練を始めていこう。王国からハズレの烙印を押された君たちのスキル、一度見せてくれ』ってさ」
天城さんらしい、どこか挑発的で、それでいて確かな自信を感じさせる言葉だった。
「正直、私も興味があるの。ソルディア王国に『ハズレ』と切り捨てられた力に、どんな可能性があるのか。……明日、私も稽古に付き合ってあげる。楽しみにしてるわね、渚!」
そう言い残すと、彼女はまた嵐のように去っていった。
ハズレと切り捨てられた力。
その言葉を噛み締めながら、俺は自分の手のひらを見つめた。
明日、俺たちは初めて自分自身の「力」と向き合うことになる。
新ヒロイン候補(?)、ヒュリアが登場しました!
団長の娘にして1番隊隊長。そんな彼女に「お友だち」と言われ、澄人はすっかり骨抜きに……(笑)。
そして次回以降、いよいよ「ハズレスキル」にフォーカスしていきます。
天城とヒュリアの前で、三人の力がどう変化していくのか。
次回、第16話は 2/20(金) 20:10 更新予定です。
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