魔力の胎動
朝食を終えた俺たちは、天城に連れられて騎士団宿舎のすぐ裏手にある演習場へとやってきた。
そこは鮮やかな緑に囲まれ、共和国の穏やかな風が吹き抜ける、静かな場所だった。
「さて。まずは魔力について、基本的な考え方から整理しようか」
天城は演習場の中央で立ち止まり、俺たちを振り返る。
その顔からは先ほどまでの眠たげな気配が消え、一人の「騎士」としての重みが漂っていた。
「魔力っていうのは、詰まるところ『意志』や『想い』を外部に出力するためのエネルギーに変えたものだ。そのエネルギーを体内に巡らせれば身体能力を底上げできるし、体外へ放出すれば強力な一撃になる」
天城は説明しながら、すっと右手を差し出した。
次の瞬間、彼の掌の上に青白く透き通った光の球が浮かび上がる。
特定の属性を持たない、純粋な魔力の塊。彼がそれを無造作に放つと、前方の標的が弾け飛んだ。
「そしてスキルってのは、その魔力を源泉にして、特定の『現象』を形にしたものだ。……例えば、こんな風にね」
天城が再び右手に意識を向けた。
先ほどとは比較にならないほどの熱気が立ち昇り、掌にバレーボール大の真っ赤な火の玉が現れる。
彼が指先を弾くと、火の玉は瞬きする間もなく視界から消え、次の瞬間には数十メートル先の巨大な岩を爆音と共に粉砕していた。
「実際は身体の外側……自然界の意志や、この空間に充満する想いから生じる魔力もあるんだけどね。まあ、初めからそんなことを話しても混乱するだけだ。説明はこのくらいにしておこう」
天城は俺たちを一人ずつ見据え、口角を上げた。
「さあ、理屈はこのくらいだ。君たちも魔力操作から始めてみようか。そうだな、まずは体内に意識を集中させて。イメージしやすい心臓を起点に魔力を生成し、それを全身に巡らせるんだ」
天城に促され、俺たちはそれぞれ等間隔に立ち、自身の内側へ意識を向ける。
だが、それが想像以上に難しかった。
「……くそっ、うまく動かないな……」
澄人が眉間に皺を寄せ、全身を強張らせている。
結衣も目を閉じ、必死に自分の中の何かを探っているようだった。
「焦らなくていい。君たちは今まで『スキル』という、用意された結果だけを与えられてきたんだ。その根元にあたる魔力自体を上手く扱えないのは、当然のことだよ」
天城の声を聞きながら、俺も必死に鼓動に合わせて熱い塊を動かそうと試みた。
何度目かの深い呼吸を繰り返した、その時だ。
不意に、心臓の奥からピリピリとした痺れが走り、体温とは違う熱が全身の血管を駆け巡るのを感じた。
「あ……」
魔力が、巡った。
一瞬、意識が研ぎ澄まされたその時だ。
(……!?)
俺の肌を刺すような、圧倒的な圧力を感じて顔を上げる。
目の前に立つ天城から、目には見えないほどの膨大な魔力が、大気そのものを揺らすように溢れ出しているのが「見えた」。
澄人や結衣は気づいていない。
俺だけが、彼の周囲に満ちる、自然界の魔力と混ざり合うような巨大な力の流れを敏感に感じ取っていた。
「……ほう」
天城が、面白そうに目を細めて俺を見た。
俺の中にある「何か」が、外側の世界にある魔力と呼応しようとしている。
「ハズレ」だと言われた俺たちの体の中で、何かが静かに、けれど確実に胎動を始めていた。
修行初日、ついに魔力操作に成功した渚。
しかし、彼が見た「光景」は他の二人には見えていないようで……?
「ハズレスキル」の本当の意味が、少しずつ明らかになっていきます。
次回、第14話は 2/15(日) 20:10 更新予定です。
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