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静かなる焦燥

あれから、数日が過ぎた。


――熱い。

視界が真っ赤に染まり、逃げ場のない熱風が肌を焼く。


目の前には、歪んだ笑顔を浮かべる山上と、無機質に呪文を唱えるクラスメイトたち。

『ごめんな、これが王国の総意なんだわ』


「……っ!」


跳ね起きると、そこは与えられた小さな個室だった。

シーツは冷や汗でぐっしょりと濡れている。心臓が早鐘を打ち、荒い呼吸がしばらく止まらなかった。


窓の外を見れば、木々の隙間から朝日が差し込み、穏やかな街並みが広がっている。

だが、その平和さが今の俺には、ひどく脆くて、自分たちとは無縁なものに見えた。


食堂へ向かうと、そこには既に澄人と結衣がいた。

澄人は黙々とスープを口に運んでいるが、その目はどこか虚空を見つめている。彼もまた、同じ悪夢を見ているのかもしれない。


「……あ、渚くん。おはよう」


結衣が少しだけぎこちなく微笑んだ。その姿に、俺は思わず足を止める。

彼女は、貸し出されていた寝巻きのような服ではなく、動きやすそうな訓練用の装束に身を包んでいた。


「結衣、その格好……どうしたんだ?」


「え、あ……えへへ、変かな。……あのね、私、天城さんにお願いしてみたの。今のままじゃ、元の世界にいた頃と……何も変わらないから」


結衣は自分の袖をぎゅっと握りしめ、俯き加減に、けれどはっきりと言葉を紡いだ。


「ただ守られるだけで……また誰かの足を引っ張って、捨てられるのを待つだけなんて、もう嫌なの。だから、あの……勇気を出して、自分を守れるだけの力を付けさせてくださいって、お願いしたんだ」


その声は少し震えていたけれど、彼女の目はいつになく真剣だった。


そこへ、自身の朝食を携えた天城が、欠伸をしながら現れた。


「おはよう、諸君。……お嬢さんのやる気は素晴らしいね。現役の隊長を捕まえて教えを請うなんて、中々いい度胸をしてるよ。いいよ。身体能力の強化や知覚の補助……そういった『魔力の基本的な使い方』なら、俺が叩き込んであげよう」


天城は椅子に腰を下ろすと、俺たちを見据えて言葉を続けた。


「王国の人間たちは、きっと教えてくれなかっただろうけどね」


その言葉には、皮肉が混じっているようにも聞こえた。天城はそのまま、渚と澄人にも視線を向ける。


「君たちもどうだい? いつまでもそんな辛気臭い顔をしてるよりは、体を動かした方が、少しはマシな夢が見られるようになると思うよ」


俺と澄人は顔を見合わせた。

自分たちは無力で、捨てられた存在だ。その事実は変わらない。


けれど、結衣が弱気な自分を必死に振り切って前を向こうとしているのに、俺たちが立ち止まっているわけにはいかなかった。


「……お願いします。教えてください」


俺の言葉に、澄人も静かに、だが力強く頷いた。


天城は「よしよし、いい返事だ」と満足げに笑い、俺たちの前に座って共にスプーンを取った。


四人で囲む食卓。

天城の適当な軽口に結衣が小さく吹き出し、それにつられて俺と澄人の顔にも自然と笑みがこぼれる。


王国で出されていたあの豪華な料理よりも、今ここで食べる平凡な朝食の方が、この世界に来てから一番美味しく感じられた。


さっきまでの暗い沈黙が嘘のように、食卓の空気は穏やかな火を灯し、胸の中にあった重苦しい澱は、いつの間にか晴れ渡っていた。

「もう、捨てられるのを待つのは嫌」

結衣の決意が、沈んでいた渚と澄人の心にも火を灯しました。


いよいよ次回から、天城による修行がスタートします。

王国の連中がひた隠しにしてきた、魔力とスキルの真実とは?


次回、第13話「魔力の胎動」は2/13(金) 20:10更新予定です。


少しずつ前を向き始めた三人を、ぜひブックマークや**評価(★★★★★)**、感想で応援いただけると嬉しいです!

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