その男、天城啓
俺たちを救ってくれたという男に促されるまま、俺はふらつく足取りで隣の部屋へと向かった。
扉を開けると、そこには見慣れた二人の姿があった。
「ナギ……サ……?」
ベッドに腰掛けていた澄人が、信じられないものを見るような目でこちらを振り返る。
その隣では、まだ顔色の悪い結衣が、シーツを握りしめたまま震えていた。
「澄人、結衣……。無事だったんだな」
「渚くん! よかった、本当によかった……!」
結衣が声を上げ、堪えきれずに涙を溢れさせた。
俺たちは、生きている。
あの裏切りの中でも、誰一人欠けることなく、こうして再び顔を合わせることができた。
その事実だけで、胸の奥が焼けるように熱くなる。
「……感動の再会中に悪いね。体調はどうかな」
後ろから、さっきの男がひょいと顔を出した。
三人の視線が彼に集まる。
「あ、あの……あなたは……」
「ああ、自己紹介が遅れたね。俺の名前は天城啓。ここ、エクシア共和国の聖騎士団で、第二番隊の隊長を務めている。今は……まあ、訳あってこの国に世話になってる身だよ」
天城はそう言って、ふらりと窓辺へ歩み寄った。
彼が視線を向けた先には、豊かに生い茂る木々と美しい街並みが調和した、穏やかな共和国の風景が広がっている。
「天城さん。俺たちは……どうしてこんな目に遭わなきゃならなかったんですか」
澄人が、絞り出すような声で言った。
「俺たちのスキルが使えないからって……あいつら、俺たちを殺す必要なんてなかったはずだ!」
「ソルディア王国は、徹底した力による支配と、歪んだ排他思想の上に成り立っている国なんだ。彼らにとって、戦力にならない者は人間ですらない。異世界召喚は今回が初めてじゃないが、その度に『ハズレ』を引いた者たちは、彼らの思想に則って容赦なく切り捨てられてきたんだよ」
天城の言葉は、氷のように冷たく俺たちの心に突き刺さった。
使い道がないから、殺す。
それが、あの王国の歴史だというのか。
「ふざけんなよ……っ! 山上も、日ノ出も、王国の連中も! 俺たちの命を、なんだと思ってるんだよ!」
澄人の怒りはもっともだ。
だが、結衣が縋るような声で言葉を継いだ。
「でも……でも、時雨さんたちまで、そんなことするなんて信じられないよ。他のみんなだって、本当は……あんなことしたくなかったはずなのに……」
あの日、俺たちに魔法を放ったのは間違いなくクラスの連中だった。
けれど、結衣の言う通り、全員が俺たちを憎んでいたようには見えなかった。
何かが、決定的に狂っていた。
重苦しい沈黙が、部屋を支配する。
その沈黙を破ったのは、天城の言葉にずっと違和感を抱いていた様子の結衣だった。
「あの……天城さん。さっき、過去にも召喚があったと仰ってましたよね。それを知っていらっしゃるということは……」
結衣は少しだけ身を乗り出すようにして、窓辺の背中を見つめた。
「それに、『天城』っていう苗字も……。もしかして、天城さんも……私たちと同じ、召喚された方……なんですか?」
結衣の問いに、俺と澄人も息を呑んだ。
天城は一瞬だけ、ふっと遠くを見るような目をした。
だが、すぐにいつもの掴みどころのない微笑を浮かべ、ひらひらと手を振って見せる。
「はは、そんなことはいいじゃないか。今はもう、過ぎたことだよ」
天城はそれ以上語ることを拒むように、優しい手つきで結衣の頭を軽く撫でた。
「それよりも、まずは体を休めることだ。君たちはまだ若い。そんな若い命を、あんなところで終わらせずに済んで、俺は本当に良かったと思ってるよ」
天城という、謎に包まれた男に救われ、俺たちはこの地に立っている。
奪われた日常と、刻まれた裏切り。
その傷跡を抱えたまま、俺たちの「本当の異世界」が、ここから始まろうとしていた。
第二章「再始動」編、開幕です!
無事に再会を果たした渚、澄人、結衣の三人。しかし、彼らに告げられたのは王国のあまりにも残酷な真実でした。
そして目の前に現れた天城啓の正体とは……?
ここから、ハズレ組と呼ばれた三人の凄まじい成長と、王国への逆襲が始動します。
次回、第12話「静かなる焦燥」は2/11(水) 20:10更新予定です。
※今後は【水・金・日】の週3回更新となります。




