業火の向こう側
「な……何を、言ってるんだよ、山上くん……」
俺の震える声に、山上くんは苛立ちを隠そうともせず、鼻で笑った。
「わからないか? お前らは捨てられたんだよ。お前らを消せば、さらに待遇を良くしてくれるってヴォルガから言われてな。家持なんかは異世界美女でハーレム作るとか言ってたっけ(笑)。まあ、そういうことだ」
冗談でも言っているような、軽々しい口調。
だが、その背後に渦巻く殺気だけは本物だった。
「そんな……っ! お前ら、正気かよ!」
澄人が、震える手で『不火』を構える。
だが、魔力を溜める時間は残されていない。
結衣は声にならない悲鳴を上げ、ただ立ち尽くしていた。
「さよなら、渚。……地獄でお似合いの席を探しなよ」
山上の嘲笑と共に、森が大きく揺れ動いた。
猛烈な爆炎と、頭上から降り注ぐ凍てつく氷槍の雨。
逃げ場はない。
俺は反射的に澄人と結衣を背に庇い、気休めにもならない『水鏡』を展開した。
――だが、俺たちの身体が焼き尽くされるよりも早く。
周囲の空気が、一変した。
「――おっと。これ以上はやらせないよ」
聞き慣れない、だが驚くほど落ち着いた声が響く。
直後、凄まじい衝撃波がすべてを弾き飛ばし、降り注ぐ死の雨を、目に見えない巨大な力が一瞬で霧散させた。
そのあまりに巨大な力の余波に、俺たちの意識は抗う術もなく――深い闇の底へと墜ちていった。
……。
…………。
――。
(……温かい?)
不快な熱ではなく、柔らかい陽だまりのような温かさ。
重い瞼をゆっくりと押し上げると、そこには見覚えのない、落ち着いた内装の天井があった。
「……ここ、は……?」
掠れた声で呟くと、視界の端で椅子に座っていた男が、ひらひらと手を振った。
「やあ、目が覚めたかな。間一髪、間に合って良かったよ」
そこにいたのは、見たこともない男だった。
整った顔立ちに、どこか掴みどころのない飄々とした雰囲気を纏っている。
「……あんた、は……。俺、生きて……澄人と、結衣は……っ!」
跳ね起きようとする俺の肩を、男が優しく、それでいて抗えない力で制した。
「大丈夫だよ。お友達の二人は隣の部屋で眠ってる。……ここはエクシア共和国。君たちは運が良かったんだ」
男は窓の外を眺め、少しだけ目を細めた。
「ソルディアがまた召喚を行った挙句、亜人の集落に進攻してるって情報を聞きつけてさ。集落を助けに駆けつけたところで、たまたま君たちがやられそうになってるところを見かけたんだよ」
「……」
「まあ、大体の察しはついてるよ。戦力にならない者を切り捨てるなんて、あっちの国なら当然の判断だろうけど。……あまりに気の毒だったから、拾わせてもらったよ。……ね?」
男の微笑みには、何か底知れない力が秘められているように感じられた。
俺は、あまりに急激な現実の変化に思考が追いつかない。
王国に捨てられたこと。
クラスメイト全員に殺されかけたこと。
そして、見知らぬ男に助けられたということ。
その事実の一つ一つを把握しきれないまま、ただ、生きているという確かな感触だけが、泥のように重く脳に沈み込んでいった。
第一章「召喚」編、完結です。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
すべてを失い、死を覚悟した渚たちの前に現れた謎の男。
彼の目的は? そして、ハズレスキルと呼ばれた3人の真の力とは……?
【更新頻度についてのお知らせ】
次回から第二章「再始動」編がスタートします!
これに合わせ、更新頻度を以下のスケジュールに変更いたします。
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いよいよ渚たちの本格的な修行、そして王国への逆襲が動き出します。
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