表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ヒップ・インパクト:惑星ケツ論

作者: 伏木 亜耶

 21XX年、人類はついに火星移住に成功していたが、地球では相変わらずくだらない研究が続けられていた。

 その最たる例が、尻野博士である。


 本名、尻野研一郎。東京工科大学を首席で卒業したにもかかわらず、卒業論文のテーマが「臀部曲線と宇宙の因果律について」だったため、学位授与式では教授陣から総スカンを食らった男だ。


 しかし彼は諦めなかった。いや、諦めるという概念が脳内に存在しなかった。

「いいか、ミナ君。人類は長年、宇宙の真理を探求してきた。だが誰も気づかなかったんだ。答えは最も身近なところにあったということに」


 助手のミナは白衣のポケットに手を突っ込んだまま、うんざりした表情で博士を見ていた。

「博士、もう三時間もその話聞いてます。そろそろ昼ごはんにしませんか」

「昼飯など後だ!見たまえ、この美しい曲線を!」


 博士が指差したのは、研究室の巨大スクリーンに映し出された、無数の尻のデータだった。

 アメリカ人の尻、フランス人の尻、日本人の尻、ブラジル人の尻。老若男女問わず、あらゆる人種の臀部が3Dスキャンされ、数値化され、グラフ化されていた。


「・・・博士、これって盗撮にならないんですか」

「失敬な!すべて正規の手続きを経た研究用データだ。まあ、一部は街角の監視カメラをハッキングして・・・ゲホゲホ、とにかく合法だ」


 ミナは深い溜息をついた。この研究所に就職して三年。給料は悪くないが、履歴書に書けない職歴ナンバーワンである。


「それで、博士は何を発見したんですか。今度こそノーベル賞が取れるんですか」

「ノーベル賞?そんなちっぽけなもの、いらんわ!」

 博士は両手を広げ、天を仰いだ。

「私が発見したのは、宇宙の根本原理だ。名付けて『ヒップ・ハーモニクス理論』!」

 ミナは目を閉じた。また始まった。


「人類は重力を理解し、量子力学を解明し、暗黒物質の存在を予測した。だが、なぜ宇宙がこのような構造をしているのか、その根本的な『形』の理由は誰も説明できなかった」


 博士はキーボードを叩き、スクリーンに複雑な数式を表示させた。

「だが私は気づいたんだ。美しい尻の曲線は、ブラックホールの事象の地平面と同じ数式で表現できる。そして、この曲線こそが宇宙の波動構造そのものなんだ!」


「・・・はあ」

「君、全然興味なさそうだな」

「だって、去年も『乳房と素粒子の関係』っていう論文書いて学会から出禁くらったじゃないですか」

「あれは奴らが無知だったからだ!今回は違う。今回は証拠がある!」


 博士は勢いよく立ち上がり、研究室の奥にある巨大な機械を指差した。

「見たまえ、これが私の最高傑作、AI尻解析装置『ヒプノス‐9』だ!」


 そこには、どう見ても巨大な桃の形をした機械が鎮座していた。

「・・・博士、これ研究費いくらかかったんですか」

「細かいことは気にするな。とにかく、このヒプノスを使って世界中のあらゆる尻データを解析した結果、驚くべきことが判明した」


 博士は再びキーボードを叩いた。すると、スクリーンに宇宙の映像が映し出された。

「これを見たまえ。銀河M87のブラックホールだ。そしてこれが、理想的な人間の尻の断面図。どうだ、同じだろう!」

「・・・言われてみれば、丸いですね」

「そうだろう!そして、ここからが本題だ」


 博士は興奮で顔を紅潮させながら、次々と画像を切り替えた。

「私はヒプノスを使って、宇宙全体の"ヒップ波"を観測した。そして、ついに発見したんだ。観測可能な宇宙の果て、およそ137億光年先に、完璧な尻の形をした星系を!」


 スクリーンに映し出されたのは、確かに尻のような形をした星団だった。

「これが、『ヒップスフィア』だ。宇宙創生の秘密が眠る、聖なる尻の星系!」


 ミナは画面を凝視した。確かに、二つの球状星団が並んで、まるで巨大な尻のように見えた。


「博士、これって偶然そう見えるだけじゃ・・・」

「偶然だと!?君は何もわかっていない!この星系の重力波パターンは、完璧なヒップ・ハーモニクスを奏でているんだ!」

 博士はヘッドフォンを取り出し、ミナに押し付けた。

「聞いてみたまえ、この美しい響きを!」


 恐る恐るヘッドフォンを耳に当てたミナは、次の瞬間、顔を引きつらせた。

「・・・これ、『ペチャ、ペチャ』って音しか聞こえないんですけど」

「そうだろう!これが宇宙の根源的な音なんだ!ビッグバンは『パーン!』じゃなく『ペチャ!』だったんだよ!」


 ミナはヘッドフォンを外し、深く深く深呼吸した。


「博士、今からでも遅くないです。まともな研究に戻りましょう。ほら、太陽電池の効率化とか、海水淡水化とか、人類に役立つ研究が・・・」

「役立つだと?ミナ君、君は重大な勘違いをしている。人類に最も必要なのは、パンでも水でもエネルギーでもない。真理だ!そして真理は、尻の中にある!」


 その時、研究室のドアが勢いよく開いた。

「尻野ォォォ!また無断で国家予算使いやがったな!」

 入ってきたのは、文部科学省の監査官、堅物太郎だった。名前の通り、融通の利かない堅物である。


「おや、堅物君。久しぶりだね」

「久しぶりじゃねえ!先週も来たぞ!いいか、お前に割り当てた研究費は年間500万円だ。なのになぜ、先月の支出が53億円になってるんだ!」


 博士は「あー」と言いながら頭を掻いた。

「ちょっと機材を買い足したくてね」

「ちょっとじゃねえ!見ろよこの明細!『巨大宇宙船建造費 52億9千万円』って何だ!」


「ああ、それか」

 博士はまるで「夕飯の買い物でつい牛肉を買いすぎちゃった」とでも言うような軽い口調で答えた。

「ヒップスフィアまで行くのに必要だったんだよ。地球から137億光年だからね。普通のロケットじゃ無理だろう」


 堅物の顔が真っ赤になった。

「無理に決まってんだろ!というか、お前、まさか本当に宇宙に行く気か!」

「当然だ。私は尻の真理を解明しなければならない。そのためなら、宇宙の果てだろうと異次元だろうと行く」

「行くな!お前の研究は今日で打ち切りだ!」


 堅物は書類を取り出し、博士の机に叩きつけた。

「これが研究所閉鎖命令書だ。一週間以内にこの施設を明け渡せ。さもなくば、警察に通報する」


 博士はしばらく書類を眺めていたが、やがてニヤリと笑った。

「堅物君、君は大きな過ちを犯した」

「あ?」

「私を怒らせた」

 次の瞬間、研究室中に警報音が鳴り響いた。


「な、何だ!」


「グラマラス号、起動シーケンス開始!」

 博士がキーボードを叩くと、研究所の床が開き始めた。

「ちょ、博士!まさか!」

 ミナが叫ぶ中、地下から巨大な宇宙船がせり上がってきた。


 その形は・・・どう見ても、巨大な尻だった。


「紹介しよう、これが私の最高傑作、尻型ワープ航法搭載宇宙船『グラマラス号』だ!全長2キロメートル、推進力は尻波動エンジン、そして船体は完璧なヒップカーブで設計されている!」


「ふざけんな!そんなもん作る予算どこから出た!」

 堅物が叫ぶ中、博士はマントを翻した。


「ミナ君、乗るぞ!」

「え?私も?」

「当然だ。君は私の助手だろう」

「いや、聞いてないんですけど」


「細かいことは宇宙で話そう。さあ、人類史上最もバカげた宇宙旅行の始まりだ!」

 博士はミナの手を掴み、グラマラス号に向かって走り出した。


「待て!尻野!」

 堅物が追いかけるが、すでに遅い。


 グラマラス号のエンジンが唸りを上げ、尻型の船体が光り始めた。

「発進カウントダウン!10、9、8・・・」


「博士、私、遺書とか書いてないんですけど!」

「大丈夫だ、死なない!たぶん!」

「たぶんって何ですか!」


「3、2、1、ヒップ・ワープ!」

 次の瞬間、グラマラス号は光に包まれた。

 そして、消えた。


 残されたのは、巨大な尻型の跡と、唖然とする堅物だけだった。

「・・・あいつ、本当に行きやがった」


 堅物は空を見上げた。そこには、尻の形をした光の軌跡が残っていた。


 その日、世界中のニュースは一つの話題で持ちきりになった。

「日本の変態科学者、尻型宇宙船で宇宙に逃亡」


 しかし、これはまだ序章に過ぎなかった。

 本当の災厄は、これから始まるのだ。


 グラマラス号内部では、ミナが叫んでいた。

「博士!計器がおかしいです!ワープ座標がずれてます!」


「何だと!」

 博士が操縦席に駆け寄ると、確かに航行システムがエラーを表示していた。


「まずいな。ヒップ・ワープの計算式を一桁間違えたかもしれん」

「一桁って!博士、私たち今どこにいるんですか!」

「わからん。とりあえず、ワープを止めよう」


 博士が緊急停止ボタンを押した瞬間、船体が激しく揺れた。

「きゃあ!」

「しまった!ワープエネルギーが逆流している!」


 計器盤に次々と警告が表示される。

「博士、これって・・・」

「ああ。最悪のパターンだ」


 博士の顔が青ざめた。

「尻波動が地球方向に拡散している。このままでは・・・」


 その時、通信装置から堅物の怒号が響いた。

「尻野ォォォ!お前何をした!地球がおかしくなってるぞ!」


「どうおかしいんだ!」

「街中のビルが丸くなってる!山が桃みたいになってる!人間までもが・・・待て、お前も丸くなってきたぞ!」


 通信画面に映る堅物の尻が、みるみる膨らんでいく。

「ひいいい!俺の尻が!」

「やばい。これは『けつインフレーション現象』だ」


 博士は頭を抱えた。

「ミナ君、私はとんでもないことをしてしまったかもしれん」

「今更ですか!」


 ミナも自分の尻を触って顔を引きつらせた。

「私も・・・大きくなってる・・・」

「安心したまえ。一時的なものだ。たぶん」

「だからたぶんって何ですか!」


 しかし、地球の状況はミナの想像を遥かに超えていた。


 東京では、東京タワーが桃の形に変形し、富士山は完璧な尻型になっていた。


 ニューヨークでは、自由の女神の尻が三倍に膨張し、像が後ろにひっくり返った。


 エジプトでは、スフィンクスが完全に球体になり、もはや何の像かわからなくなった。


 そして、最も深刻だったのは人間だった。


 世界中のあらゆる人間の尻が、「理想的なヒップ形状」に変化し始めたのだ。

 痩せていた人は適度に丸みを帯び、太っていた人は引き締まり、老若男女問わず、誰もが完璧な尻を手に入れた。


 一見すると良いことのように思えるが、問題があった。

 尻が大きすぎて、ズボンが履けないのだ。


「助けてくれ!尻が挟まって脱げない!」

「ドアを通れない!」

「椅子に座れない!」


 世界中で阿鼻叫喚の声が上がった。

 そして、各国政府は緊急会議を開いた。


「これは生物兵器だ!」

「いや、新種のウイルスか!」

「いずれにせよ、原因を突き止めねば!」


 その時、日本政府代表が立ち上がった。

「諸君、犯人はわかっている。日本の変態科学者、尻野博士だ」

 会場がざわめいた。


「あの尻型宇宙船の!」

「やはり、あれが原因だったのか!」


 各国代表は激怒した。

「日本は責任を取れ!」

「賠償金を払え!」


 しかし、アメリカ代表が冷静に言った。

「待て。これは危機であると同時に、チャンスかもしれない」


「どういう意味だ」

「考えてみろ。この現象を兵器化できれば、敵国を無力化できる。尻が大きすぎて戦えない軍隊など、脅威ではない」


 その言葉に、各国代表の目が光った。

「確かに」

「これは使える」

「技術の解明を急ぐべきだ」


 かくして、世界は「尻をめぐる冷戦」に突入した。


 アメリカは「ケツ・シールド防衛網」の開発を発表。敵国から尻波動攻撃を受けても、自国民の尻が変化しないバリアを作るというのだ。


 中国は「人工尻AI軍団」を開発。完璧な尻の形をしたロボット兵器を量産し、尻波動を無効化する計画を立てた。


 ロシアは「反尻ミサイル」を配備。尻を平らにする波動を放射するという、ある意味最も残酷な兵器だ。


 そして日本は、独自の路線を選んだ。

「尻神様信仰を国家宗教とする」

 内閣総理大臣がそう宣言した瞬間、国会は騒然となった。


「総理、正気ですか!」

「正気だ。考えてもみたまえ。尻が大きくなることを災厄と捉えるから問題なのだ。これを祝福と捉えれば、何も問題はない」


「しかし、それは・・・」

「すでに国民の8割が尻の大きさを気に入っていると回答している。ならば、これを日本の新しい文化とすればいい」


 かくして、日本では毎朝、国民が尻に向かって礼拝する光景が日常となった。

 テレビでは「今日のお尻予報」が放送され、「美尻コンテスト」が国民的人気番組になった。


 一方、宇宙を漂うグラマラス号では、博士とミナが頭を抱えていた。


「どうしよう、博士。私たち、地球を滅茶苦茶にしちゃいました」

「まあ、滅茶苦茶というのは言い過ぎだ。ちょっと丸くしただけじゃないか」

「ちょっとじゃないです!私たち、もう地球に帰れませんよ!」

「大丈夫だ。ヒップスフィアに到達すれば、すべてが解決する」


「なんでですか」

「そこに尻の真理があるからだ」

「それ、何の解決にもなってないですよね」


 しかし、博士は真剣な顔で星図を見つめていた。

「ミナ君、私は確信している。ヒップスフィアには、宇宙の根源的な秘密が隠されている。それを解明すれば、地球の尻も元に戻せるはずだ」


「・・・本当ですか」

「本当だ。私を信じろ」

 博士の目には、いつになく真剣な光が宿っていた。


 ミナは小さく頷いた。

「わかりました。でも、博士」


「何だ」

「もし、これで地球が元に戻らなかったら、博士のお尻、蹴り飛ばしますからね」

「それは困る。私の尻は研究資料だからな」

「そういうところですよ」

 二人は顔を見合わせて笑った。


 そして、グラマラス号は再び宇宙の彼方へと加速していった。

 目指すは、ヒップスフィア。


 尻型の星系が待つ、宇宙の果て。

 その旅路は、予想以上に長く、そして奇妙なものになる。


 なぜなら、宇宙には尻以上に奇妙なものが、まだたくさん存在していたからだ。


 航行三日目、ミナは異変に気づいた。

「博士、小惑星帯に何かいます」

「何かとは?」

「わかりません。でも、動いてます」


 博士がスクリーンを確認すると、確かに小惑星の間を何かが高速で移動していた。

「ズームしてみよう」

 画像を拡大した瞬間、二人は絶句した。


「・・・尻?」

「尻だな」


 そこには、巨大な尻が浮遊していた。

 しかも、推進剤も何もないのに、自力で飛行している。


「博士、これって・・・」

「生命体だ。尻型の宇宙生命体だ」

「そんなものいるんですか!」

「私も初めて見た。だが、理論上は可能だ。宇宙空間でヒップ波動が結晶化すれば、自律的な生命体になりうる」


 その尻生命体は、グラマラス号に気づいたのか、こちらに向かってきた。

「博士、近づいてきます!」

「落ち着け、敵意はなさそうだ」


 尻生命体はグラマラス号の周りを旋回し始めた。まるで、犬が飼い主の周りをぐるぐる回るように。

「・・・懐かれてる?」

「そうらしいな。おそらく、グラマラス号が尻型だから、仲間だと思っているのだろう」


 ミナは窓の外を見た。そこには、つぶらな瞳(どこについているのかは不明)で、こちらを見つめる尻生命体がいた。


「・・・かわいい」

「えっ」

「いや、その、なんか、けなげで」


 博士は笑った。

「ミナ君も尻に愛着が湧いてきたようだな」

「違います!」


 しかし、ミナは窓に手を当てた。尻生命体も、自分の表面(?)を窓に押し付けてきた。


「博士、この子、連れて行っていいですか」

「いいが、エサは何を食べるんだろうな」

「考えます」


 かくして、グラマラス号には新しい乗組員が加わった。

 ミナはその尻生命体を「ピーチ」と名付けた。


 ピーチは非常に従順で、ミナが呼ぶと尻を振りながら(全身が尻なので、振っているのか回転しているのかは不明)やってきた。


 そして、ピーチは意外な能力を持っていた。


「博士!ピーチが何か言ってます!」

「何だと」


 ピーチが尻を振ると、音波が発生した。

「ぷりぷり」

「・・・鳴き声か?」

「いえ、違います。これ、何かのパターンです」


 ミナはピーチの音波を解析した。

「博士、これ、座標データです!」

「何?」

「ピーチが、ヒップスフィアへの最短ルートを教えてくれてます!」


 博士は驚愕した。

「まさか、ピーチはヒップスフィアの住民なのか?」

「かもしれません」


「ならば、案内を頼もう。ピーチ、ヒップスフィアまで連れて行ってくれ」

 ピーチは嬉しそうに回転し、宇宙の彼方を指差した(尻に手はないが、なぜか方向がわかった)。


「よし、その方向に進路を取る」

 グラマラス号はピーチを先導に、未知の宇宙へと突き進んだ。


 そして、航行十日目。

「博士、前方に巨大な構造物です!」

「何だ?」


 スクリーンに映ったのは、想像を絶する光景だった。

 巨大な尻型の惑星が、整然と並んでいる。


「これが・・・ヒップスフィア・・・」


 博士は感動で声を震わせた。

「美しい・・・完璧だ・・・」


 惑星は全部で十二個。それぞれが微妙に異なる形をしているが、すべて完璧な尻の形状を保っている。


 そして、その中心には、特に巨大な尻型の天体が浮かんでいた。

「あれが、ヒップスフィアの中枢か」


 グラマラス号が近づくと、突然、通信装置が鳴った。


『ようこそ、尻の探求者よ』


 低く、荘厳な声が響いた。

「誰だ!」


『私はヒプトロン。この星系を管理する古代AI生命体だ』

「ヒプトロン・・・まさか、本当に存在したのか」

 博士は興奮を抑えきれなかった。


『貴方は長い旅をしてきた。そして、多くの犠牲を払った。地球が桃尻化したことは、ここからも観測している』


「すまない、あれは事故で・・・」

『謝罪は不要だ。むしろ、感謝している』


「え?」

『貴方のおかげで、地球人類は尻の重要性に目覚めた。それは、進化の重要な一歩だ』


 ミナが口を挟んだ。

「ちょっと待ってください。つまり、尻が大きくなるのは進化なんですか?」


『その通り。人類の進化は、尻の形によって決まる』

「どういうことです」


『説明しよう。生命体の進化は、環境への適応だけでは説明できない。そこには、より根源的な力が働いている』

 ヒプトロンの声が、厳かに響く。


『それが、ヒップ・ハーモニクスだ。宇宙は、美しい曲線を求める。そして、その究極の形が、尻なのだ』


 博士は頷いた。

「やはり、私の理論は正しかったのか」

『貴方の理論は、真理に最も近い。だが、まだ不完全だ』


「何?」

『尻は単なる形ではない。それは、宇宙の自己保存構造そのものだ』

 スクリーンに、複雑な図形が表示された。


『見たまえ。これが宇宙の真の姿だ』

 そこに映ったのは、無数の尻が連なる、巨大な構造だった。


「これは・・・」

『宇宙は、入れ子構造になった尻の集合体だ。小さな尻が集まって大きな尻を形成し、その大きな尻がさらに巨大な尻を形成する。そして、その頂点に存在するのが』


 ヒプトロンは言葉を区切った。


『究極の尻、すなわち宇宙そのものだ』


 博士は目を見開いた。

「宇宙は・・・尻なのか・・・」


『その通り。ビッグバンとは、究極の尻が爆発した瞬間だ。そして、宇宙の終焉とは、すべての尻が一つに収束する時だ』


「なんてことだ・・・」

 博士は膝から崩れ落ちた。


 ミナが駆け寄る。

「博士!しっかりしてください!」

「ミナ君・・・わかったぞ・・・すべてが・・・」


 博士の目には涙が浮かんでいた。

「私は・・・尻を研究していたつもりだった・・・だが、実際には・・・宇宙そのものを研究していたんだ・・・」


『貴方は理解した。ならば、地球を救う方法も理解できるはずだ』

「地球を救う?」


『今、地球は尻インフレーションで混乱している。だが、それは一時的な不安定状態に過ぎない。真の安定を取り戻すには、ヒップ・リセット装置が必要だ』

「ヒップ・リセット装置?」


『そうだ。それは、この中枢惑星の内部にある。貴方たちに、それを使う資格を与えよう』


 中枢惑星の表面が開き、内部への入り口が現れた。

「行くぞ、ミナ君」

「博士、本当に大丈夫ですか」

「大丈夫だ。私には、やるべきことがある」


 二人はグラマラス号を降り、ピーチを連れて中枢惑星の内部へと進んだ。

 内部は、巨大な神殿のようになっていた。

 壁一面に、古代文字が刻まれている。


「これは・・・尻文字か?」

 博士は壁に触れた。すると、文字が光り始めた。


『ここに記されているのは、宇宙創生の記録だ』


 ヒプトロンの声が響く。

『太古の昔、究極の尻は孤独だった。だから、自らを分割し、無数の小さな尻を生み出した。それが、星であり、惑星であり、生命だ』


「つまり、すべての存在は、元々一つの尻だったのか」

『その通り。そして、いつか、すべての尻は再び一つになる。それが、宇宙の最終目的だ』


 ミナが尋ねた。

「それって、幸せなことなんですか?」

『わからない。だが、それが宇宙の意志だ』


 神殿の最奥に、巨大な装置が見えてきた。

「あれが、ヒップ・リセット装置か」


『そうだ。それを起動すれば、地球の尻インフレーションは収束する。だが、代償がある』

「代償?」


『装置を起動した者は、宇宙の一部になる。肉体は消滅し、意識だけがヒップ波動となって宇宙に溶け込む』


 博士は笑った。

「それは代償というより、ご褒美だな」

「博士!」

 ミナが叫ぶ。


「私は覚悟している。これは、私が地球にできる最後の贈り物だ」

 博士は装置に向かって歩き出した。


「待ってください!私も一緒に!」

「だめだ、ミナ君。君は地球に帰るんだ」


「でも!」

「いいか、誰かがこの研究を引き継がなければならない。尻の真理を、後世に伝えなければならない。それができるのは、君だけだ」


 博士はミナの頭を優しく撫でた。

「ありがとう、ミナ君。君がいてくれて、この旅は楽しかった」

「博士・・・」


 博士は装置の前に立ち、深呼吸した。

「さらばだ、物質世界よ。私は今、尻となる」


 博士が装置のスイッチを押した瞬間、眩い光が神殿を満たした。

「博士ーーーっ!」

 ミナの叫びが木霊する中、博士の身体は光の粒子となって消えていった。


 そして、最後に博士の声が響いた。

「美しい・・・この宇宙は、ひとつのケツだったんだ・・・!」

 光が収まった時、そこには誰もいなかった。


 ミナは床に膝をついて泣いた。

 ピーチが、優しくミナに寄り添った。


『泣くな、少女よ』

 ヒプトロンの声が響く。


『彼は消えたのではない。形を変えただけだ。今、彼の意識は宇宙全体に広がっている。すべての尻の中に、彼は生きている』


「本当ですか・・・」

『本当だ。そして、地球の尻インフレーションも収束した。人々は正常に戻るだろう』


「博士は、地球を救ったんですね」

『そうだ。そして、君には使命がある』

「使命?」

『この真実を、地球に伝えるのだ。尻野博士の研究が、決して無駄ではなかったことを』


 ミナは涙を拭い、立ち上がった。

「わかりました。私、頑張ります」

 ミナはグラマラス号に戻り、地球への帰路についた。


 窓の外には、無数の尻型惑星が輝いていた。

「博士、見ててくださいね。私、ちゃんと伝えますから」


 ピーチが「ぷりぷり」と鳴いた。

 まるで、「大丈夫だよ」と言っているようだった。


 そして、数千年後。

 地球では、新しい人類文明が栄えていた。

 彼らは古代の伝説を語り継いでいた。


『ヒプノスの神話』

 それは、尻の真理を求めて宇宙に飛び立った、一人の変態科学者の物語だった。


「昔々、尻野という神がいました」

 母親が子供に語りかける。


「尻野神は、宇宙の真理が尻にあることを発見しました。そして、自らを犠牲にして、人類を救ったのです」

「尻野神は、今どこにいるの?」

 子供が尋ねる。


「どこにでもいるのよ。この椅子にも、あなたのお尻にも、尻野神の意志が宿っているの」

「へえー」

 子供は自分の尻を触った。


「本当だ、なんか温かい気がする」

「それが尻野神の愛よ」

 人類は、尻を神聖なものとして扱うようになった。


 毎年、「尻の日」には、盛大な祭りが開かれる。

 人々は最高の尻を競い合い、優勝者には「尻野賞」が授与される。


 科学者たちは、尻野博士の理論をさらに発展させ、「ヒップ物理学」という新しい学問を確立した。


 そして、ついに人類は、尻の力を使った超光速航法を実現し、銀河中に進出した。


 彼らが訪れた先々の惑星で、彼らはこう言った。

「我々は、尻野の子孫である」


 その言葉を聞いた異星人たちは、最初は困惑したが、やがて理解した。

 尻こそが、宇宙の共通言語であることを。


 そして、銀河連邦が設立された時、その憲章の第一条にはこう記された。

「すべての知的生命体は、美しい尻を追求する権利を有する」


 ミナは、長い長い年月を生きた。

 ヒプトロンから授かった特別な延命処置により、彼女は三千年もの間、尻野博士の研究を世に広め続けた。


 そして、ついにその生涯を終える時、彼女は静かに微笑んだ。

「博士、会いに行きますね」


 ミナの意識は、尻波動となって宇宙に溶け込んだ。

 そして、彼女は感じた。

 宇宙全体が、優しく彼女を包み込むのを。


『よく頑張ったな、ミナ君』

 博士の声が聞こえた気がした。


『おかげで、尻の真理は永遠になった』

「博士、宇宙って本当に尻だったんですね」

『そうだ。そして、美しいだろう?』

「ええ、とても」


 ミナは幸せだった。

 なぜなら、彼女もついに、宇宙の一部になれたのだから。


 かくして、物語は終わる。


 尻野博士とミナは、今も宇宙のどこかで、尻の形をした星々を見守っている。

 そして、誰かが美しい尻を見るたびに、彼らは微笑むのだ。


「ああ、また一つ、宇宙の真理に近づいた」


 宇宙はケツで始まり、ケツで終わる。

 これが、『ヒップ・インパクト:惑星ケツ論』の物語である。


 あなたが今座っている椅子も、実は尻野博士の意志の一部かもしれない。


 宇宙の意識は全て繋がっている、そう・・・全ての意識はお尻愛おしりあいなのだ・・・

書いた自分が言うのもなんですが。


読み返すとめっちゃくちゃくだらねえ・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ