ヒップ・インパクト:惑星ケツ論
21XX年、人類はついに火星移住に成功していたが、地球では相変わらずくだらない研究が続けられていた。
その最たる例が、尻野博士である。
本名、尻野研一郎。東京工科大学を首席で卒業したにもかかわらず、卒業論文のテーマが「臀部曲線と宇宙の因果律について」だったため、学位授与式では教授陣から総スカンを食らった男だ。
しかし彼は諦めなかった。いや、諦めるという概念が脳内に存在しなかった。
「いいか、ミナ君。人類は長年、宇宙の真理を探求してきた。だが誰も気づかなかったんだ。答えは最も身近なところにあったということに」
助手のミナは白衣のポケットに手を突っ込んだまま、うんざりした表情で博士を見ていた。
「博士、もう三時間もその話聞いてます。そろそろ昼ごはんにしませんか」
「昼飯など後だ!見たまえ、この美しい曲線を!」
博士が指差したのは、研究室の巨大スクリーンに映し出された、無数の尻のデータだった。
アメリカ人の尻、フランス人の尻、日本人の尻、ブラジル人の尻。老若男女問わず、あらゆる人種の臀部が3Dスキャンされ、数値化され、グラフ化されていた。
「・・・博士、これって盗撮にならないんですか」
「失敬な!すべて正規の手続きを経た研究用データだ。まあ、一部は街角の監視カメラをハッキングして・・・ゲホゲホ、とにかく合法だ」
ミナは深い溜息をついた。この研究所に就職して三年。給料は悪くないが、履歴書に書けない職歴ナンバーワンである。
「それで、博士は何を発見したんですか。今度こそノーベル賞が取れるんですか」
「ノーベル賞?そんなちっぽけなもの、いらんわ!」
博士は両手を広げ、天を仰いだ。
「私が発見したのは、宇宙の根本原理だ。名付けて『ヒップ・ハーモニクス理論』!」
ミナは目を閉じた。また始まった。
「人類は重力を理解し、量子力学を解明し、暗黒物質の存在を予測した。だが、なぜ宇宙がこのような構造をしているのか、その根本的な『形』の理由は誰も説明できなかった」
博士はキーボードを叩き、スクリーンに複雑な数式を表示させた。
「だが私は気づいたんだ。美しい尻の曲線は、ブラックホールの事象の地平面と同じ数式で表現できる。そして、この曲線こそが宇宙の波動構造そのものなんだ!」
「・・・はあ」
「君、全然興味なさそうだな」
「だって、去年も『乳房と素粒子の関係』っていう論文書いて学会から出禁くらったじゃないですか」
「あれは奴らが無知だったからだ!今回は違う。今回は証拠がある!」
博士は勢いよく立ち上がり、研究室の奥にある巨大な機械を指差した。
「見たまえ、これが私の最高傑作、AI尻解析装置『ヒプノス‐9』だ!」
そこには、どう見ても巨大な桃の形をした機械が鎮座していた。
「・・・博士、これ研究費いくらかかったんですか」
「細かいことは気にするな。とにかく、このヒプノスを使って世界中のあらゆる尻データを解析した結果、驚くべきことが判明した」
博士は再びキーボードを叩いた。すると、スクリーンに宇宙の映像が映し出された。
「これを見たまえ。銀河M87のブラックホールだ。そしてこれが、理想的な人間の尻の断面図。どうだ、同じだろう!」
「・・・言われてみれば、丸いですね」
「そうだろう!そして、ここからが本題だ」
博士は興奮で顔を紅潮させながら、次々と画像を切り替えた。
「私はヒプノスを使って、宇宙全体の"ヒップ波"を観測した。そして、ついに発見したんだ。観測可能な宇宙の果て、およそ137億光年先に、完璧な尻の形をした星系を!」
スクリーンに映し出されたのは、確かに尻のような形をした星団だった。
「これが、『ヒップスフィア』だ。宇宙創生の秘密が眠る、聖なる尻の星系!」
ミナは画面を凝視した。確かに、二つの球状星団が並んで、まるで巨大な尻のように見えた。
「博士、これって偶然そう見えるだけじゃ・・・」
「偶然だと!?君は何もわかっていない!この星系の重力波パターンは、完璧なヒップ・ハーモニクスを奏でているんだ!」
博士はヘッドフォンを取り出し、ミナに押し付けた。
「聞いてみたまえ、この美しい響きを!」
恐る恐るヘッドフォンを耳に当てたミナは、次の瞬間、顔を引きつらせた。
「・・・これ、『ペチャ、ペチャ』って音しか聞こえないんですけど」
「そうだろう!これが宇宙の根源的な音なんだ!ビッグバンは『パーン!』じゃなく『ペチャ!』だったんだよ!」
ミナはヘッドフォンを外し、深く深く深呼吸した。
「博士、今からでも遅くないです。まともな研究に戻りましょう。ほら、太陽電池の効率化とか、海水淡水化とか、人類に役立つ研究が・・・」
「役立つだと?ミナ君、君は重大な勘違いをしている。人類に最も必要なのは、パンでも水でもエネルギーでもない。真理だ!そして真理は、尻の中にある!」
その時、研究室のドアが勢いよく開いた。
「尻野ォォォ!また無断で国家予算使いやがったな!」
入ってきたのは、文部科学省の監査官、堅物太郎だった。名前の通り、融通の利かない堅物である。
「おや、堅物君。久しぶりだね」
「久しぶりじゃねえ!先週も来たぞ!いいか、お前に割り当てた研究費は年間500万円だ。なのになぜ、先月の支出が53億円になってるんだ!」
博士は「あー」と言いながら頭を掻いた。
「ちょっと機材を買い足したくてね」
「ちょっとじゃねえ!見ろよこの明細!『巨大宇宙船建造費 52億9千万円』って何だ!」
「ああ、それか」
博士はまるで「夕飯の買い物でつい牛肉を買いすぎちゃった」とでも言うような軽い口調で答えた。
「ヒップスフィアまで行くのに必要だったんだよ。地球から137億光年だからね。普通のロケットじゃ無理だろう」
堅物の顔が真っ赤になった。
「無理に決まってんだろ!というか、お前、まさか本当に宇宙に行く気か!」
「当然だ。私は尻の真理を解明しなければならない。そのためなら、宇宙の果てだろうと異次元だろうと行く」
「行くな!お前の研究は今日で打ち切りだ!」
堅物は書類を取り出し、博士の机に叩きつけた。
「これが研究所閉鎖命令書だ。一週間以内にこの施設を明け渡せ。さもなくば、警察に通報する」
博士はしばらく書類を眺めていたが、やがてニヤリと笑った。
「堅物君、君は大きな過ちを犯した」
「あ?」
「私を怒らせた」
次の瞬間、研究室中に警報音が鳴り響いた。
「な、何だ!」
「グラマラス号、起動シーケンス開始!」
博士がキーボードを叩くと、研究所の床が開き始めた。
「ちょ、博士!まさか!」
ミナが叫ぶ中、地下から巨大な宇宙船がせり上がってきた。
その形は・・・どう見ても、巨大な尻だった。
「紹介しよう、これが私の最高傑作、尻型ワープ航法搭載宇宙船『グラマラス号』だ!全長2キロメートル、推進力は尻波動エンジン、そして船体は完璧なヒップカーブで設計されている!」
「ふざけんな!そんなもん作る予算どこから出た!」
堅物が叫ぶ中、博士はマントを翻した。
「ミナ君、乗るぞ!」
「え?私も?」
「当然だ。君は私の助手だろう」
「いや、聞いてないんですけど」
「細かいことは宇宙で話そう。さあ、人類史上最もバカげた宇宙旅行の始まりだ!」
博士はミナの手を掴み、グラマラス号に向かって走り出した。
「待て!尻野!」
堅物が追いかけるが、すでに遅い。
グラマラス号のエンジンが唸りを上げ、尻型の船体が光り始めた。
「発進カウントダウン!10、9、8・・・」
「博士、私、遺書とか書いてないんですけど!」
「大丈夫だ、死なない!たぶん!」
「たぶんって何ですか!」
「3、2、1、ヒップ・ワープ!」
次の瞬間、グラマラス号は光に包まれた。
そして、消えた。
残されたのは、巨大な尻型の跡と、唖然とする堅物だけだった。
「・・・あいつ、本当に行きやがった」
堅物は空を見上げた。そこには、尻の形をした光の軌跡が残っていた。
その日、世界中のニュースは一つの話題で持ちきりになった。
「日本の変態科学者、尻型宇宙船で宇宙に逃亡」
しかし、これはまだ序章に過ぎなかった。
本当の災厄は、これから始まるのだ。
グラマラス号内部では、ミナが叫んでいた。
「博士!計器がおかしいです!ワープ座標がずれてます!」
「何だと!」
博士が操縦席に駆け寄ると、確かに航行システムがエラーを表示していた。
「まずいな。ヒップ・ワープの計算式を一桁間違えたかもしれん」
「一桁って!博士、私たち今どこにいるんですか!」
「わからん。とりあえず、ワープを止めよう」
博士が緊急停止ボタンを押した瞬間、船体が激しく揺れた。
「きゃあ!」
「しまった!ワープエネルギーが逆流している!」
計器盤に次々と警告が表示される。
「博士、これって・・・」
「ああ。最悪のパターンだ」
博士の顔が青ざめた。
「尻波動が地球方向に拡散している。このままでは・・・」
その時、通信装置から堅物の怒号が響いた。
「尻野ォォォ!お前何をした!地球がおかしくなってるぞ!」
「どうおかしいんだ!」
「街中のビルが丸くなってる!山が桃みたいになってる!人間までもが・・・待て、お前も丸くなってきたぞ!」
通信画面に映る堅物の尻が、みるみる膨らんでいく。
「ひいいい!俺の尻が!」
「やばい。これは『けつインフレーション現象』だ」
博士は頭を抱えた。
「ミナ君、私はとんでもないことをしてしまったかもしれん」
「今更ですか!」
ミナも自分の尻を触って顔を引きつらせた。
「私も・・・大きくなってる・・・」
「安心したまえ。一時的なものだ。たぶん」
「だからたぶんって何ですか!」
しかし、地球の状況はミナの想像を遥かに超えていた。
東京では、東京タワーが桃の形に変形し、富士山は完璧な尻型になっていた。
ニューヨークでは、自由の女神の尻が三倍に膨張し、像が後ろにひっくり返った。
エジプトでは、スフィンクスが完全に球体になり、もはや何の像かわからなくなった。
そして、最も深刻だったのは人間だった。
世界中のあらゆる人間の尻が、「理想的なヒップ形状」に変化し始めたのだ。
痩せていた人は適度に丸みを帯び、太っていた人は引き締まり、老若男女問わず、誰もが完璧な尻を手に入れた。
一見すると良いことのように思えるが、問題があった。
尻が大きすぎて、ズボンが履けないのだ。
「助けてくれ!尻が挟まって脱げない!」
「ドアを通れない!」
「椅子に座れない!」
世界中で阿鼻叫喚の声が上がった。
そして、各国政府は緊急会議を開いた。
「これは生物兵器だ!」
「いや、新種のウイルスか!」
「いずれにせよ、原因を突き止めねば!」
その時、日本政府代表が立ち上がった。
「諸君、犯人はわかっている。日本の変態科学者、尻野博士だ」
会場がざわめいた。
「あの尻型宇宙船の!」
「やはり、あれが原因だったのか!」
各国代表は激怒した。
「日本は責任を取れ!」
「賠償金を払え!」
しかし、アメリカ代表が冷静に言った。
「待て。これは危機であると同時に、チャンスかもしれない」
「どういう意味だ」
「考えてみろ。この現象を兵器化できれば、敵国を無力化できる。尻が大きすぎて戦えない軍隊など、脅威ではない」
その言葉に、各国代表の目が光った。
「確かに」
「これは使える」
「技術の解明を急ぐべきだ」
かくして、世界は「尻をめぐる冷戦」に突入した。
アメリカは「ケツ・シールド防衛網」の開発を発表。敵国から尻波動攻撃を受けても、自国民の尻が変化しないバリアを作るというのだ。
中国は「人工尻AI軍団」を開発。完璧な尻の形をしたロボット兵器を量産し、尻波動を無効化する計画を立てた。
ロシアは「反尻ミサイル」を配備。尻を平らにする波動を放射するという、ある意味最も残酷な兵器だ。
そして日本は、独自の路線を選んだ。
「尻神様信仰を国家宗教とする」
内閣総理大臣がそう宣言した瞬間、国会は騒然となった。
「総理、正気ですか!」
「正気だ。考えてもみたまえ。尻が大きくなることを災厄と捉えるから問題なのだ。これを祝福と捉えれば、何も問題はない」
「しかし、それは・・・」
「すでに国民の8割が尻の大きさを気に入っていると回答している。ならば、これを日本の新しい文化とすればいい」
かくして、日本では毎朝、国民が尻に向かって礼拝する光景が日常となった。
テレビでは「今日のお尻予報」が放送され、「美尻コンテスト」が国民的人気番組になった。
一方、宇宙を漂うグラマラス号では、博士とミナが頭を抱えていた。
「どうしよう、博士。私たち、地球を滅茶苦茶にしちゃいました」
「まあ、滅茶苦茶というのは言い過ぎだ。ちょっと丸くしただけじゃないか」
「ちょっとじゃないです!私たち、もう地球に帰れませんよ!」
「大丈夫だ。ヒップスフィアに到達すれば、すべてが解決する」
「なんでですか」
「そこに尻の真理があるからだ」
「それ、何の解決にもなってないですよね」
しかし、博士は真剣な顔で星図を見つめていた。
「ミナ君、私は確信している。ヒップスフィアには、宇宙の根源的な秘密が隠されている。それを解明すれば、地球の尻も元に戻せるはずだ」
「・・・本当ですか」
「本当だ。私を信じろ」
博士の目には、いつになく真剣な光が宿っていた。
ミナは小さく頷いた。
「わかりました。でも、博士」
「何だ」
「もし、これで地球が元に戻らなかったら、博士のお尻、蹴り飛ばしますからね」
「それは困る。私の尻は研究資料だからな」
「そういうところですよ」
二人は顔を見合わせて笑った。
そして、グラマラス号は再び宇宙の彼方へと加速していった。
目指すは、ヒップスフィア。
尻型の星系が待つ、宇宙の果て。
その旅路は、予想以上に長く、そして奇妙なものになる。
なぜなら、宇宙には尻以上に奇妙なものが、まだたくさん存在していたからだ。
航行三日目、ミナは異変に気づいた。
「博士、小惑星帯に何かいます」
「何かとは?」
「わかりません。でも、動いてます」
博士がスクリーンを確認すると、確かに小惑星の間を何かが高速で移動していた。
「ズームしてみよう」
画像を拡大した瞬間、二人は絶句した。
「・・・尻?」
「尻だな」
そこには、巨大な尻が浮遊していた。
しかも、推進剤も何もないのに、自力で飛行している。
「博士、これって・・・」
「生命体だ。尻型の宇宙生命体だ」
「そんなものいるんですか!」
「私も初めて見た。だが、理論上は可能だ。宇宙空間でヒップ波動が結晶化すれば、自律的な生命体になりうる」
その尻生命体は、グラマラス号に気づいたのか、こちらに向かってきた。
「博士、近づいてきます!」
「落ち着け、敵意はなさそうだ」
尻生命体はグラマラス号の周りを旋回し始めた。まるで、犬が飼い主の周りをぐるぐる回るように。
「・・・懐かれてる?」
「そうらしいな。おそらく、グラマラス号が尻型だから、仲間だと思っているのだろう」
ミナは窓の外を見た。そこには、つぶらな瞳(どこについているのかは不明)で、こちらを見つめる尻生命体がいた。
「・・・かわいい」
「えっ」
「いや、その、なんか、けなげで」
博士は笑った。
「ミナ君も尻に愛着が湧いてきたようだな」
「違います!」
しかし、ミナは窓に手を当てた。尻生命体も、自分の表面(?)を窓に押し付けてきた。
「博士、この子、連れて行っていいですか」
「いいが、エサは何を食べるんだろうな」
「考えます」
かくして、グラマラス号には新しい乗組員が加わった。
ミナはその尻生命体を「ピーチ」と名付けた。
ピーチは非常に従順で、ミナが呼ぶと尻を振りながら(全身が尻なので、振っているのか回転しているのかは不明)やってきた。
そして、ピーチは意外な能力を持っていた。
「博士!ピーチが何か言ってます!」
「何だと」
ピーチが尻を振ると、音波が発生した。
「ぷりぷり」
「・・・鳴き声か?」
「いえ、違います。これ、何かのパターンです」
ミナはピーチの音波を解析した。
「博士、これ、座標データです!」
「何?」
「ピーチが、ヒップスフィアへの最短ルートを教えてくれてます!」
博士は驚愕した。
「まさか、ピーチはヒップスフィアの住民なのか?」
「かもしれません」
「ならば、案内を頼もう。ピーチ、ヒップスフィアまで連れて行ってくれ」
ピーチは嬉しそうに回転し、宇宙の彼方を指差した(尻に手はないが、なぜか方向がわかった)。
「よし、その方向に進路を取る」
グラマラス号はピーチを先導に、未知の宇宙へと突き進んだ。
そして、航行十日目。
「博士、前方に巨大な構造物です!」
「何だ?」
スクリーンに映ったのは、想像を絶する光景だった。
巨大な尻型の惑星が、整然と並んでいる。
「これが・・・ヒップスフィア・・・」
博士は感動で声を震わせた。
「美しい・・・完璧だ・・・」
惑星は全部で十二個。それぞれが微妙に異なる形をしているが、すべて完璧な尻の形状を保っている。
そして、その中心には、特に巨大な尻型の天体が浮かんでいた。
「あれが、ヒップスフィアの中枢か」
グラマラス号が近づくと、突然、通信装置が鳴った。
『ようこそ、尻の探求者よ』
低く、荘厳な声が響いた。
「誰だ!」
『私はヒプトロン。この星系を管理する古代AI生命体だ』
「ヒプトロン・・・まさか、本当に存在したのか」
博士は興奮を抑えきれなかった。
『貴方は長い旅をしてきた。そして、多くの犠牲を払った。地球が桃尻化したことは、ここからも観測している』
「すまない、あれは事故で・・・」
『謝罪は不要だ。むしろ、感謝している』
「え?」
『貴方のおかげで、地球人類は尻の重要性に目覚めた。それは、進化の重要な一歩だ』
ミナが口を挟んだ。
「ちょっと待ってください。つまり、尻が大きくなるのは進化なんですか?」
『その通り。人類の進化は、尻の形によって決まる』
「どういうことです」
『説明しよう。生命体の進化は、環境への適応だけでは説明できない。そこには、より根源的な力が働いている』
ヒプトロンの声が、厳かに響く。
『それが、ヒップ・ハーモニクスだ。宇宙は、美しい曲線を求める。そして、その究極の形が、尻なのだ』
博士は頷いた。
「やはり、私の理論は正しかったのか」
『貴方の理論は、真理に最も近い。だが、まだ不完全だ』
「何?」
『尻は単なる形ではない。それは、宇宙の自己保存構造そのものだ』
スクリーンに、複雑な図形が表示された。
『見たまえ。これが宇宙の真の姿だ』
そこに映ったのは、無数の尻が連なる、巨大な構造だった。
「これは・・・」
『宇宙は、入れ子構造になった尻の集合体だ。小さな尻が集まって大きな尻を形成し、その大きな尻がさらに巨大な尻を形成する。そして、その頂点に存在するのが』
ヒプトロンは言葉を区切った。
『究極の尻、すなわち宇宙そのものだ』
博士は目を見開いた。
「宇宙は・・・尻なのか・・・」
『その通り。ビッグバンとは、究極の尻が爆発した瞬間だ。そして、宇宙の終焉とは、すべての尻が一つに収束する時だ』
「なんてことだ・・・」
博士は膝から崩れ落ちた。
ミナが駆け寄る。
「博士!しっかりしてください!」
「ミナ君・・・わかったぞ・・・すべてが・・・」
博士の目には涙が浮かんでいた。
「私は・・・尻を研究していたつもりだった・・・だが、実際には・・・宇宙そのものを研究していたんだ・・・」
『貴方は理解した。ならば、地球を救う方法も理解できるはずだ』
「地球を救う?」
『今、地球は尻インフレーションで混乱している。だが、それは一時的な不安定状態に過ぎない。真の安定を取り戻すには、ヒップ・リセット装置が必要だ』
「ヒップ・リセット装置?」
『そうだ。それは、この中枢惑星の内部にある。貴方たちに、それを使う資格を与えよう』
中枢惑星の表面が開き、内部への入り口が現れた。
「行くぞ、ミナ君」
「博士、本当に大丈夫ですか」
「大丈夫だ。私には、やるべきことがある」
二人はグラマラス号を降り、ピーチを連れて中枢惑星の内部へと進んだ。
内部は、巨大な神殿のようになっていた。
壁一面に、古代文字が刻まれている。
「これは・・・尻文字か?」
博士は壁に触れた。すると、文字が光り始めた。
『ここに記されているのは、宇宙創生の記録だ』
ヒプトロンの声が響く。
『太古の昔、究極の尻は孤独だった。だから、自らを分割し、無数の小さな尻を生み出した。それが、星であり、惑星であり、生命だ』
「つまり、すべての存在は、元々一つの尻だったのか」
『その通り。そして、いつか、すべての尻は再び一つになる。それが、宇宙の最終目的だ』
ミナが尋ねた。
「それって、幸せなことなんですか?」
『わからない。だが、それが宇宙の意志だ』
神殿の最奥に、巨大な装置が見えてきた。
「あれが、ヒップ・リセット装置か」
『そうだ。それを起動すれば、地球の尻インフレーションは収束する。だが、代償がある』
「代償?」
『装置を起動した者は、宇宙の一部になる。肉体は消滅し、意識だけがヒップ波動となって宇宙に溶け込む』
博士は笑った。
「それは代償というより、ご褒美だな」
「博士!」
ミナが叫ぶ。
「私は覚悟している。これは、私が地球にできる最後の贈り物だ」
博士は装置に向かって歩き出した。
「待ってください!私も一緒に!」
「だめだ、ミナ君。君は地球に帰るんだ」
「でも!」
「いいか、誰かがこの研究を引き継がなければならない。尻の真理を、後世に伝えなければならない。それができるのは、君だけだ」
博士はミナの頭を優しく撫でた。
「ありがとう、ミナ君。君がいてくれて、この旅は楽しかった」
「博士・・・」
博士は装置の前に立ち、深呼吸した。
「さらばだ、物質世界よ。私は今、尻となる」
博士が装置のスイッチを押した瞬間、眩い光が神殿を満たした。
「博士ーーーっ!」
ミナの叫びが木霊する中、博士の身体は光の粒子となって消えていった。
そして、最後に博士の声が響いた。
「美しい・・・この宇宙は、ひとつのケツだったんだ・・・!」
光が収まった時、そこには誰もいなかった。
ミナは床に膝をついて泣いた。
ピーチが、優しくミナに寄り添った。
『泣くな、少女よ』
ヒプトロンの声が響く。
『彼は消えたのではない。形を変えただけだ。今、彼の意識は宇宙全体に広がっている。すべての尻の中に、彼は生きている』
「本当ですか・・・」
『本当だ。そして、地球の尻インフレーションも収束した。人々は正常に戻るだろう』
「博士は、地球を救ったんですね」
『そうだ。そして、君には使命がある』
「使命?」
『この真実を、地球に伝えるのだ。尻野博士の研究が、決して無駄ではなかったことを』
ミナは涙を拭い、立ち上がった。
「わかりました。私、頑張ります」
ミナはグラマラス号に戻り、地球への帰路についた。
窓の外には、無数の尻型惑星が輝いていた。
「博士、見ててくださいね。私、ちゃんと伝えますから」
ピーチが「ぷりぷり」と鳴いた。
まるで、「大丈夫だよ」と言っているようだった。
そして、数千年後。
地球では、新しい人類文明が栄えていた。
彼らは古代の伝説を語り継いでいた。
『ヒプノスの神話』
それは、尻の真理を求めて宇宙に飛び立った、一人の変態科学者の物語だった。
「昔々、尻野という神がいました」
母親が子供に語りかける。
「尻野神は、宇宙の真理が尻にあることを発見しました。そして、自らを犠牲にして、人類を救ったのです」
「尻野神は、今どこにいるの?」
子供が尋ねる。
「どこにでもいるのよ。この椅子にも、あなたのお尻にも、尻野神の意志が宿っているの」
「へえー」
子供は自分の尻を触った。
「本当だ、なんか温かい気がする」
「それが尻野神の愛よ」
人類は、尻を神聖なものとして扱うようになった。
毎年、「尻の日」には、盛大な祭りが開かれる。
人々は最高の尻を競い合い、優勝者には「尻野賞」が授与される。
科学者たちは、尻野博士の理論をさらに発展させ、「ヒップ物理学」という新しい学問を確立した。
そして、ついに人類は、尻の力を使った超光速航法を実現し、銀河中に進出した。
彼らが訪れた先々の惑星で、彼らはこう言った。
「我々は、尻野の子孫である」
その言葉を聞いた異星人たちは、最初は困惑したが、やがて理解した。
尻こそが、宇宙の共通言語であることを。
そして、銀河連邦が設立された時、その憲章の第一条にはこう記された。
「すべての知的生命体は、美しい尻を追求する権利を有する」
ミナは、長い長い年月を生きた。
ヒプトロンから授かった特別な延命処置により、彼女は三千年もの間、尻野博士の研究を世に広め続けた。
そして、ついにその生涯を終える時、彼女は静かに微笑んだ。
「博士、会いに行きますね」
ミナの意識は、尻波動となって宇宙に溶け込んだ。
そして、彼女は感じた。
宇宙全体が、優しく彼女を包み込むのを。
『よく頑張ったな、ミナ君』
博士の声が聞こえた気がした。
『おかげで、尻の真理は永遠になった』
「博士、宇宙って本当に尻だったんですね」
『そうだ。そして、美しいだろう?』
「ええ、とても」
ミナは幸せだった。
なぜなら、彼女もついに、宇宙の一部になれたのだから。
かくして、物語は終わる。
尻野博士とミナは、今も宇宙のどこかで、尻の形をした星々を見守っている。
そして、誰かが美しい尻を見るたびに、彼らは微笑むのだ。
「ああ、また一つ、宇宙の真理に近づいた」
宇宙はケツで始まり、ケツで終わる。
これが、『ヒップ・インパクト:惑星ケツ論』の物語である。
あなたが今座っている椅子も、実は尻野博士の意志の一部かもしれない。
宇宙の意識は全て繋がっている、そう・・・全ての意識はお尻愛なのだ・・・
書いた自分が言うのもなんですが。
読み返すとめっちゃくちゃくだらねえ・・・




