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毒姫モルガナと孤独な魔王ガルヴォルドの幸せな結末


 

 

 ガルヴォルドの体は完璧な状態に戻っていた。いや、それどころかモルガナの作った毒を飲まされまお陰で、以前よりも力が漲っている。


 ドラクス一族ですら沈黙する魔界の王ガルヴォルドの迫力。

 彼はゆっくりドラクス一族の間を通り抜けると、そのまま屋上から飛び降りた。


「旦那様!」


 ドシンッ! という音と共に、ガルヴォルドは地面に降り立った。瘴気に満ち溢れ、魔力が体中から迸っている。

 その時地鳴りが響き渡った。

 それはガルヴォルドの怒号であった。

 魔王の体はどんどん巨大になっていき、今や城と同じ大きさになっていた。

 ガルヴォルドは瘴気を吸い取る天界人の巨大な剣を引き抜くと、剣の中に封じられていた瘴気を解き放つ。それは魔王の剣となり、天に浮かぶ天界人たちを驚愕させた。

 ガルヴォルドが剣を一振りすると、天界人は瘴気と黒魔法に満たされた剣に触れただけで跡形もなく消滅していく。

 次々と天界から送り込まれる天界人は、その凶刃の餌食になるだけだった。

 天界人はこのままでは全滅しかねないと判断したのか、時空の裂け目から撤退していく。ガルヴォルドはそれを許さないとばかりに剣を時空の裂け目にねじ込むと、逃げ遅れた天界人達を食らっていく。

 最早天界人は恐慌状態であった。ガルヴォルドは天界に手を入れて、天界人達を手掴みしては食らっていく。まさに阿鼻叫喚である。

 天界人達が無数の光の剣で対抗するのをガルヴォルドは鬱陶しそうに跳ね除ける。殺すのも食うのにも飽きたガルヴォルドは、剣を引き抜くと刃を叩き割った。瘴気が魔界中にばら撒かれていく。

 天界人はその隙に時空の裂け目を閉じた。


 ガルヴォルドは剣を放り投げると、城に向かって歩いていく。その体はどんどん小さくなっていき、遂にはいつものガルヴォルドの大きさになった。

 ガルヴォルドは羽を広げて屋上まで飛び立つと、ゆったりと降り立った。

 ガルヴォルドに真っ先に駆け寄ったのはモルガナだった。


「旦那様! お怪我はもう大丈夫ですの?」


 ガルヴォルドはニヤリと笑った。


「お前は黒も似合うが赤も似合うな」


 そう言うと、ガルヴォルドはモルガナを抱え上げ、情熱的なキスを交わした。

 モルガナは呆然とガルヴォルドを見ている。


「旦那様……私は夢を見ているのですか?」


「夢ではない。現実だ」


「旦那様……!」


 モルガナは泣きながらガルヴォルドの首に抱きついた。


「旦那様が死ぬかと私は生まれて初めて恐怖いたしましたのよ!? それなのに、こんな、こんなことで許されるとでもお思いで?」


「ならお前と結婚してやる。それならば文句はあるまい」


 モルガナの息が一瞬止まる。そして次の瞬間には花が綻ぶ様な笑顔を見せた。


 見守っていたドラクス一族から大きな拍手が沸き起こる。


「あなた、ご覧になって。私達の娘があんなに立派で禍々しい殿方と結ばれるのよ」


「あぁ、あぁ。我らの娘はドラクス一族の誇りだ」


 母アザリナと父オルファザドは互いを抱き寄せた。

 祖父ザルモスも満足げな笑顔をしている。


 ガルヴォルドはモルガナの左手を取ると、そこに口づけた。すると薔薇の蔦の様な黒曜石がガーネットの薔薇を咲き誇らせながら、モルガナの薬指に巻き付いた。


「我はガルヴォルド。我の妻として、モルガナ・ドラクスを妻にすることをここに誓う」


 モルガナは涙を浮かべながら指輪に触れると、ガルヴォルドの醜い顔を愛おしそうに撫でた。


「私はモルガナ・ドラクス。私の夫として、魔王ガルヴォルドを夫にすることをここに誓います」


 そしてモルガナはガルヴォルドの腕から下りると、左手を取り、同じように口づけた。そこには同じく薔薇の棘が絡みつき、黒曜石となりガーネットの薔薇が咲き誇った。

 誰からか分からない。気付けば大きな拍手が二人を包み込んでいた。

 ガルヴォルドは再び熱烈なキスをモルガナと交わす。今まで独りだった事を埋め合わせるかの様に。


 その晩は食堂で飲んで騒いで、大いに盛り上がった。

 ガルヴォルドとモルガナは並んで座り、互いを見つめ合っている。


「我が賢き孫娘よ! お前はドラクス家の名誉であり誇りだ! そんな孫娘が捕まえた夫である魔王よ、未来永劫モルガナを宝とすることを誓うか!」


 ガルヴォルドは祖父ザルモスを見て不敵に笑う。


「あぁ、俺は誓う。三世界で唯一無二の存在であるモルガナを宝として守り抜くことを!」


 ザルモスは満足げに額を叩いた。


「よくぞ言った! 我ら一族はお主たちを見守り続けようぞ! そして永久の愛をこの目に焼き付けようではないか!」


「あらぁ、それはとても情熱的だわ。ですがお義父様、二人の時間の邪魔はしてはなりませんことよ」


「あぁ、そうだとも。愛とは常に見せびらかすものではない。時に魅惑的な秘密を持つものだ。そうであろう? 我がオニキスよ」


「えぇ、お父様。その通りでございますわ」


 モルガナはガルヴォルドの肩にそっと身を寄せた。ガルヴォルドはモルガナの細い腰に手を回した。


「グリンプ! もっと酒と食事を持ってこい!」


「分かりまし〜た」


 するとぽんっぽんっ、と消えては現れ消えては現れを繰り返して食事と酒をグリンプは持ってくる。ドラクス一族と魔王は家族となった。彼はもう孤独ではない。上機嫌に尻尾も揺れている。


 こうしてガルヴォルドの満たされなかった心を満たしたのは、変わり者の毒姫モルガナであったのだった。

 

 

 

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