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毒姫モルガナ、魔界に嫁ぐ

一風変わった毒姫モルガナの魔界生活をお楽しみ下さいませ。


 


 モルガナ・ドラクスは今日も今日とて毒を作る。


 部屋には薬草や小動物のミイラ、奇妙な香りを放つ花や薬草、そして何枚もの書類が散乱している。ここはモルガナにとって聖域であり、最も安心する場所でもある。


 モルガナは侯爵令嬢ながら、世間では適齢期を過ぎた23歳の、変わり者の令嬢として有名である。

 痩せ気味の体はいつも黒いドレスを身に纏い、漆黒の髪は適当に結い上げられている。

 顔色は青白く不健康そうで、端正な顔立ちをしているのに、アメジストの様な瞳の色を持つ目は常に眠そうに半分しか開かれておらず、唇には真っ黒な口紅が引かれている。モルガナは黒色が世界で最も美しい色だと考えている。


「はぁ……また素晴らしい毒を作り上げてしまったわ」


 うっとりと大釜を見つめるモルガナ。

 空の小瓶を棚から取り出して、大釜から深緑色のドロリとした液体を慎重に入れる。そして蓋をすると小さな紙片に毒の名前を書き込んで、今まで作り上げてきた毒が並ぶ棚に小瓶を置く。この瞬間がモルガナは好きだった。

 と、そこへ部屋がノックされる。


「モルガナ様、朝食の用意ができましたので食堂までお越しくださいませ」


「わかったわ」


 モルガナは部屋を出ると食堂へと向かう。その足取りはふわふわと覚束ないが、別に体の具合が悪いわけでも足が悪いわけでもなかった。考え事をしていると、いつもこうなってしまうだけなのだ。


 食堂につくとすでにテーブルには銀食器が並べられており、当主である父、その妻である母が座っていた。


「昨日はちゃんと眠ったのかい我が黒猫よ」


 父オルファザドが尋ねた。


「えぇ、二時間ほど眠りましたわ」


「そうかい、それは良かった我が黒百合よ」


 父はナプキンを膝に広げながら言った。


「それで、なにか新しい毒は作れたのかしら?」


 大きく胸元が開いた煽情的な黒いドレスを着て、気怠そうに母アザリナがモルガナを見つめた。その美貌は彼女が何歳なのか分からないほどだった。


「先ほど作り上げましたわ」


「それはそれは、お義父様もお喜びになられるでしょう」


 艶やかに母が笑った。

 そこへ杖をカツンカツンと鳴らす音が近づいてくる。


「まぁ、噂をすれば何とやらだわ」


「オルベリアだ! オルベリアが鍵だったのだ!」


 痩身の老人が皺だらけの顔を歪めながら喚き散らす。モルガナの祖父ザルモスである。


「まぁ、それはどのような毒ですのお祖父様」


 モルガナが問いかけると、ザルモスは嬉々として答えた。


「この毒を飲んでも、死体からは決して毒が検出されぬだ」


「まぁ、素晴らしいですわねお祖父様。ですがオルベリアを入れてしまうと骨が僅かに溶けてしまいますわ。それではせっかくの毒も台無しです」


 ザルモスは己の額を叩いた。


「儂の賢き孫よ! そこに気づくとは! これはいかん。また一から作り直さねば!」


 そう言うと、再び杖をカツンと鳴らしながら自室へ戻っていった。


「あぁ、父上には困ったものだ。せっかくの料理が冷めてしまう。じつに困ったものだ」


 父オルファザドが困った風でもなく言った。


「それではいただきましょう、料理が冷める前に」


 母アザリナが妖しく笑みを浮かべながらスプーンを手に取った。モルガナもスプーンを手に取り、スープをすくう。

 銀のスプーンがみるみるうちに変色していくが、モルガナは気にせず口に運ぶ。


「あら、今日のスープは少々味が濃いですわね。ブラントリスの苦味を消すためでしょうけど、これでは返って怪しまれますわ」


 父と母も頷く。次々と運ばれる料理に手を付ける度に、モルガナと両親は毒の特徴と料理の感想を言い合う。


 ドラクス家は代々、毒作りを生業としてきた一族である。生まれたその時から乳に毒を混ぜて耐性をつけさせる。そうしてあらゆる毒が効かない体を作り上げるのだ。

 この家に嫁いでくる者にも条件があった。黒魔法を得意とし、毒を無効化できる魔法を使える者。

 そうしてこのドラクス家は繁栄してきた。


 食後のデザートを食べ終わると、父オルファザドが思い出したように手を叩いた。


「我が黒薔薇よ。お前に今日王宮に来いとの命が出ているのを忘れていた」


「あら、なにかしでかしたのモルガナ」


 母が楽しそうに食後のワインを飲みながら聞いた。

 モルガナはしばし視線を宙に彷徨わせたあと、首を振った。


「なにも思いつきませんわお母様」


「あら残念。なにか悪いことをして、ギロチンにかけられるのかと思ったのに」


「ギロチンも捨てがたいが、磔刑も見てみたかったよ我が黒ウサギよ」


「ご期待に添えず申し訳ありません、お父様、お母様」


 モルガナは席を立つとメイドに導かれて寝室へと向かう。

 寝室は薄暗く家具や調度品は黒色ばかり。メイドはドレッサーから数着ドレスを取り出した。そのどれもが黒色をしている。


「どのドレスにいたしますかお嬢様」


「そうね……このドレスなんてどうかしら。首元まで覆われていて、薔薇の棘が刺繍されているわ。まるで首を絞められているようだわ」


 そうして選ばれたドレスを着せてもらい、黒真珠のイヤリングとネックレスを身に付けた。


 玄関を出ると馬車が待ち構えており、両親は寄り添い合いながら、娘を見送った。


 モルガナは馬車の中でも新しい毒の調合を考えていた。それは王宮にたどり着いて謁見の間に通されるまで続いた。


「オルヴェル侯爵令嬢、モルガナ・ドラクス!」


 侍従が高らかに宣言する。

 謁見の間に入ると、国王と王妃が玉座に座っていた。

 モルガナはフラフラと歩きながら、国王の前に立つ。


「モルガナ・ドラクスよ、お主に頼みたいことがある」


 しかしモルガナは返答しない。


 国王の側近が咳払いをし、初めてモルガナの焦点が国王に向けられた。


「あら、国王陛下、ご機嫌よう。私になにか用がありまして?」


「重大な用件だ」


「左様でございますか。それで?」


 モルガナは例え相手が国王だろうと、己の振る舞いを正さないし、ドラクス家はそれを許されている唯一の貴族でもある。


「お主に魔王のところへ嫁いでほしいのだ」


「魔王……噂で聞いたことがあるような気がいたしますわ。それで何故私が魔王に嫁ぐことに?」


「もうお主しか頼れる者はおらぬのだ。毒作りに長け、黒魔法にも造詣が深い。そこらの貴族の令嬢では、魔王は恐らく満足はせぬ。そうなれば我が国は魔王に滅ぼされてしまう」


「あら、まあ。それはそれは悲劇的な末路ですこと。滅びゆく瞬間を見てみたいわ」


 国王は辛抱強く訴えた。


「どうか頼む。我が国を守るために魔王に嫁いでくれ」


 モルガナはしばし考える。


「魔王はどこにお住まいですの?」


「魔界だ。この世と天界の狭間に存在する世界だ」


「そこには毒が存在しておりますの?」


「あぁ、恐らく嫌というほど」


 モルガナの眠そうな目が僅かに開かれた。


「なんて素晴らしいことでしょう。まだ見ぬ薬草や生き物も存在しておりますか?」


「うむ」


 モルガナはスカートを手に取りは腰を曲げた。


「その頼み、このモルガナ・ドラクスが引き受けましょう」


 こうしてモルガナと魔王の婚姻は決まったのだった。


 +++


「魔王だなんて、ゾクゾクするわね。毎日血みどろの晩餐会が開かれているのでしょうね」


 母アザリナが恍惚とした表情で言った。


「何か気に入らぬ事があれば、魔王の首を刎ねて戻ってきなさい、我が黒曜石よ」


 父親が当たり前のように言って短剣を娘に渡した。


「私は新たな毒が作れるのを楽しみにしておりますわ」


 そうして両親への報告も終わり、嫁入り道具も用意され、モルガナは両親と祖父に笑顔で送り出された。


 馬車に乗りながら、モルガナはまだ見ぬ薬草や生き物たちに思いを馳せていた。魔王のことなど少しも頭によぎらなかった。


 馬車がガタガタと揺れる。王宮が用意した馬車がこれほど揺れるということは、よほどの悪路なのだろう。そんなことはモルガナにとって瑣末なこと。


 馬車がガタン、と大きく揺れてモルガナの体は扉にぶつかった。その拍子に扉が開かれ、モルガナの華奢な体は馬車から放り出されてしまった。


 落下する浮遊感を感じながら、モルガナはさてどうしたものかと考えていた。このまま落ちれば醜く潰れたトマトのようになってしまうだろう。母が好みそうな趣向の死に方の一つだとも思った。

 そうこうしている内に、地面が近づいてくる。モルガナは何の感慨もなく、ただ落ちていた。


 ブニュリ──モルガナの体が何かに包まれる。それはブヨブヨとしていて、強烈な悪臭を放っていた。

 そこから抜け出そうと、モルガナは藻掻いたが、体力のなさすぎる彼女の体は動くことすら出来なくなった。

 仕方なくモルガナはそのブヨブヨした何かに包まれながら、空を見上げていた。

 空は紫がかっており、雲は赤黒い。太陽はなく、黒い月がそこにあった。

 薄暗く淀んだ空を見て、モルガナは癒やされていた。このまま眠ってしまいそうな心地よさすら感じていた。


 そこへ突然、誰かに話しかけられた。


「おい、女」


 モルガナは誰かしら、などと呑気に考えていた。

 すると視界にニュッと人の顔が現れた。しかしそれを人と分類していいのか判断が難しいところだった。

 その人らしきものは、肌が濃い紫色をしており、長く黒い牙が口から覗いており、瞳は白目がなく真っ黒だった。額からは二つの黒い角が生えている。おまけに耳はギザギザと尖っていた。


「女、お前人間か?」


 モルガナは頷いた。声を出したくてもブヨブヨした何かに包まれているせいで口が塞がってしまっていた。そろそろ息がしたいとモルガナは思う。


「女、お前は自殺願望でもあるのか?」


 なんのことかしら、とモルガナは思う。


「ビヒャナの実にそのままいると、体が溶けて腐ってしまうぞ」


 まぁ、そうだったのね、とモルガナは納得する。


 モルガナは黒魔法の精神感応を使い、相手に話しかけた。


『そこのあなた、お手数をおかけいたしますが、ここから私を出しては頂けませんか?』


 その人か何かが目を眇めた。


「人間のくせに黒魔法が使えるのかお前」


『そうですが、それが何か? 私そろそろ息ができなくて。助けてくださいまし』


「ふんっ、いいだろう」


 その人か何かはモルガナの手を掴むと引っ張り上げた。その拍子にモルガナの体はその人か何かの腕の中に綺麗に収まってしまった。

 腕の中は思いの外快適で、紫色の肌はハリと弾力があった。

 モルガナは腕の中から出ていくと、淑女の礼をした。


「こたびは死ぬ寸前で助けて頂き、誠にありがとうございます。ところでお聞きしたい事がございますの」


 その人か何かは腕を組みモルガナを見下ろした。先ほどは分からなかったが、随分と背が高く筋肉質の、体格の良い男性だった。


「この場所は何という場所でございますか?」


 男は尻から生えている立派な尻尾を地面に叩きつけた。すると地面が大きく抉れた。


「お前、ここがどこかも知らずにやってきたのか? 随分と物好きな奴だな」


「返す言葉もございませんわ。魔界に行く馬車の中から落ちてしまいましたの。今日は魔王に会わなければならないのですが、ここの場所さえ分からない有様ですの」


 男はもう一度、尻尾で地面を叩きつけた。


「この場所は魔界だ。してお前の名は何という?」


「まぁ、ここは魔界でしたのね。そういえば名前も名乗っていませんでしたわ。私はモルガナ・ドラクスと申します。よろしければ、貴方様のお名前を伺っても?」


「俺の名前はガルヴォルドだ」


「まぁまぁ、勇ましい名前ですこと。ガルヴォルド様、申し上げにくいのですが、魔王のいる場所まで案内して頂けませんか? お礼は新作の毒を差し上げますので」


「毒なんぞ別にいらん。仕方ない、魔王のいる城まで連れて行ってやる」


「お心遣い、痛み入ります」


 再度礼をすると、ガルヴォルドはモルガナの手を握って歩き始めた。

 しかし普段から部屋に篭り運動どころか、歩くことさえ殆どしないモルガナは、すぐに力尽きてその場に蹲ってしまった。


「どうした女」


 ガルヴォルドは不思議そうにモルガナを見下ろす。


「申し上げにくいのですが、私は歩くのが苦手でして。この近くに辻馬車でもありませんか?」


「辻馬車? そんなものはこの世界にはない」


「まぁ、魔界とは不便な場所ですのね。あぁ、どういたしましょう」


 ガルヴォルドはまた尻尾を地面に叩きつける。


「面倒な女だな。仕方ない、俺が運んでやる」


「運ぶ?」


 そう言うと、ガルヴォルドの背中から巨大な羽が生えてきて、へたり込むモルガナを肩に乗せると、そのまま地面を蹴って空へと飛び出した。


「まぁ! 素晴らしい羽をお持ちなのね。私にも羽があれはご迷惑をおかけせずに済みましたのに」


「呑気な女だな」


 モルガナはしばし魔界の空の旅を堪能していたが、腹に男の肩が食い込んで、痛くなってきた。


「ガルヴォルド様、またもや申し上げにくいのですが、貴方様の肩が私のお腹に食い込んで大変痛いのです」


「それくらい我慢しろ」


「分かりました。では人の限界に挑戦してみます」


 そうしてモルガナは我慢をし続けたが、割と早い段階で音を上げた。


「ガルヴォルド様。人の限界に到達してしまいました。私このままではお腹と背中がくっついて、離れなくなりそうですわ」


 ガルヴォルドがはあ、と大きな溜息をついた。そして肩からモルガナを下ろすと、両腕で抱え上げた。


「まぁ、お優しいのですねガルヴォルド様は」


「うるさくされるよりマシだ」


「そうでございましたか。では私魔王のいる城まで黙っておりますわね」


「ぜひそうしてくれ」


 モルガナはガルヴォルドの腕に抱かれながら空を見上げた。この日の当たらない薄暗さが何とも心地よく、魔界は素晴らしい所なのではと思い始めていた。


 しばらくして外壁が真っ黒な城が見えてきた。黒が大好きなモルガナは、その美しさに感嘆の溜息を零した。


「どうした」


「いえ、大変美しいお城だと思いまして」


「禍々しいの間違いではないのか?」


 モルガナは即座に否定した。


「とんでもない! あのような美しい建築物を禍々しいなど、どなたがおっしゃるのです? その方は美意識が狂っておられますわ」


「いや、狂ってるのはお前の方だろ」


 ボソリとガルヴォルドが呟く。


「え、今なにかおっしゃいました?」


「いや、何でもない」


 そうして近付く黒い城は氷柱を逆さにしたかのような歪な形を顕にした。

 ガルヴォルドは地上に降り立つと、モルガナを地面に下ろした。

 目の前に聳え立つ堅牢な門。そこから続く道はあちこちに抉られた跡がある。

 前庭は枯れ果てた低木や、よく分からない蠢く植物で埋め尽くされていた。


「まぁ、随分と個性的な城ですこと」


 モルガナは門に近づき押し開こうと力を込める。

 がしかし、普段毒作りで大釜の毒を棒でかき混ぜるくらいしかしてこなかったモルガナが、この堅牢な門を開けられるはずも無かった。


「はぁ……魔界とは力がいる場所ばかりですのね。うんざりしますわ」


 その時、重く堅牢な門がギギギと音を立てながら開いていく。不思議に思い背後を振り返ると、ガルヴォルドが片手で門を難なく開けていた。


「貴方様は何でもできますのね。素晴らしいですわ」


 素直に感心して言うと、ガルヴォルドはついてこいと、仕草だけで示した。

 モルガナは黙って後に続く。

 その行く手を阻むように、前庭に蠢く棘だらけの植物がガルヴォルドに襲いかかる。

 しかしガルヴォルドは片手を軽く振っただけで、その植物は綺麗に切断された。


「まぁ、どんな魔法ですのそれは?」


「こんな植物相手に魔法なんぞいらん」


 ガルヴォルドが次々と植物を切断していき、ついにモルガナは城の扉へとたどり着いた。

 大きな扉に小さなドアノッカーが取り付けられている。それはドクロの形をした黒鉄のドアノッカーだった。

 そのドアノッカーのドクロが口を開く。


「生者が必ず持ち、死者が決して持たぬもの。だが、永遠に持ち続けることは誰にもできぬ。これはなにか?」


 モルガナは興味津々で動くドクロを見つめている。


「まぁ! 謎掛けですの? そうですわね──」


 バキッ──ドクロのドアノッカーごとガルヴォルドが扉を破壊する。巨大な扉は小さな亀裂が無数に走り、しまいには扉が木っ端微塵となって崩れ落ちてしまった。


「あらぁ、残念ですわ。せっかく答えを用意いたしましたのに。因みに答えは“息”ですわ」


 破壊された扉の欠片を避けながら、モルガナは城の中に入っていく。黒の大理石で出来た床に黒の調度品。黒曜石で出来たシャンデリア。モルガナが気に入らないはずがなかった。


「まぁ、まぁ! 美しいお城は中も美しいのですわね」


 うっとりとしていたところ、騒ぎを聞きつけた城のものが階段を降りてきた。


「またドアノッカーを破壊したのですか! 何度直せば気が済むのです!」


 下半身が蛇、上半身が獅子という姿の生き物が轟々と叫びながら二人に近づいてきた。


 そこでモルガナの存在に気づいたそれは、動きを止めてモルガナを金色の目で見つめた。


「おや……おやおや。魔界に人の娘とは珍しい。してこれは何故ここに?」


 モルガナは一応、淑女の礼をした。


「初めまして、蛇と獅子のお方。私はモルガナ・ドラクスと申します。私は人間界の国王から魔王に嫁ぐように言われ、馳せ参じました」


 蛇と獅子とガルヴォルドが同時に声を上げた。


「何だと?」


「あら? 何か手違いでもおありで?」


 ガルヴォルドはモルガナに詰め寄った。


「お前はなんと言われてここに来た」


 モルガナは頬に手を当て国王の言葉を思い出す。


「確か……“魔王に滅ぼされてしまうから魔王に嫁げ”……そんな様な事を仰られ、私が選ばれたのですわ」


 蛇と獅子、ガルヴォルドが唖然としている。


「ナクシール、どういうことだ」


 蛇と獅子のナクシールがハッ、と我に返る。


「あぁ、なるほどなるほど。そういえば、そんなことを百五十二年ほど前に言った記憶があります」


「そんなものは無効だ!」


 モルガナは二人のやり取りをぼんやり眺めつつ、そろそろ足が疲れてきたので座りたいと思っていた。


「もし、そこのお二方」


「なんだ」

「なんですか」


「私は魔王に嫁いだ身。ですが肝心の魔王は見当たりません。どちらにおられるのですか?」


 ナクシールは額を手で覆った。

 一方、ガルヴォルドはモルガナに近づくと、牙を剥き出しにして唸るように言った。


「魔王ならずっとお前のそばにいた。この俺、ガルヴォルドが魔界の王だ」

 

 

 

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