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廃ビル全体を揺るがす銃撃と爆音。


ジャスティスとシャドウ、そしてハンドの構成員たちの戦いは、ついに佳境に達していた。




吹き抜けの地下で“鬼”の因子を垣間見せたジャスティスは、敵も味方も圧倒する存在感を放っていた。


だが、その背後には灯がいる。その事実が、戦いを単なる殺し合いにさせない。




「押せ!」悠が叫び、真理子が踏み込む。


だがその攻撃の全ては、灯に弾道や衝撃を届かせまいと調整されている。


その時、ハンドの一人がロケットランチャーを構える。


「おい、発射を止めろ!」


ランチャーは発射され、同時にハンドの戦闘員は肩を撃ち抜かれた。


ミサイルはまっすぐ灯のいる扉に向かう。しかし、ミサイルよりも早く黒い影が通り過ぎた。


そしてそのまま何かに当たり爆発を起こす。


「!?」振り返るシャドウの面々。ミサイルは灯の扉に到達する前に爆発した。


煙が収まると、そこにはジャスティスが居た。背中から煙が上っている。


「痛ってーー!! 何しやがんだ!」


その瞬間、一瞬だけ銃声が止んだ。敵味方全員、ジャスティスに呆気に取られている。




「化け物だ……」


ハンドの一人が呟いた。




真理子の胸には別の重荷もあった。


(……鳴海は偽物。あの時、紗季の照合でわかった)


彼女は戦いながらも、その真実を隠し持っていた。


(今ここで言うべきか? いや、戦いを終わらせてからだ……)




上階から轟音。ハンドの援軍が突入してきた。


閃光弾が飛び、銃撃が壁を削る。


「クソッ、数が多い!」悠が舌打ちする。


ジャスティスも振り返りざま、隠し武器を引き抜き迎撃する。




その混乱の中――ふたりの女が対峙していた。




灯の隠れている踊り場の方へ、疾風のような気配が走った。


黒いエナメルのツナギ。仮面に描かれた艶やかな笑み。


口の横のほくろが、灯りの中で妖しく光った。




「見つけた……!」




女幹部――かつてジャスティスに腕を粉砕されたはずのハンドの女。


異常な回復力とスピードで舞い戻り、今度こそ灯を狙って一直線に駆ける。




その進路に、影のように水月は立ちはだかっていた。




女幹部は嘲笑う。「退け。お前程度、風で吹き飛ぶ」


次の瞬間、二つの影が重なり――そして弾けた。




女幹部の動きは速すぎた。目に映る残像のすべてがフェイク。


右に見えたかと思えば左、上かと思えば下。


高速で軌道を変え、獲物を混乱させるトリッキーな戦法。




だが、水月の瞳はわずかも揺らがなかった。


(――次は左下から。三歩後に跳ぶ)


頭の中に、相手の軌跡が“像”として浮かぶ。


女幹部の脚が踏み込むより早く、水月はその場から半歩だけ外れる。


風がかすめる。残像が切り裂くのは空だけ。




「なっ……!」女幹部の瞳が揺らいだ。


「見えてますわ」水月が淡々と告げる。




スピードに頼る戦法は、相手に見切られた瞬間に脆い。


女幹部は焦り、無理な軌道変更を繰り返す。


やがて、壁を蹴っての突進。体勢は不自然で、着地も計算外。


その先に待っていたのは、水月の冷静な一撃。




「終わりや」




女幹部の脚を払う。着地の失敗が連鎖し、自ら壁に叩きつけられる。


仮面が半分欠け、苦痛の声を漏らした。


水月は追撃しない。ただ一歩前に進み、静かに睨みつける。


女幹部は呻きながらも、立ち上がれなかった。




(……自滅したわけじゃない。彼女自身が、勝手に自分を追い込んだのよ)




水月は小さく息を吐き、再び戦場を振り返った。




その頃、ジャスティスとシャドウはハンドの残党を追い詰めていた。


壁は崩れ、床は穴だらけ。火薬と汗の匂いが立ち込める。


やがて銃声が止み、呻き声だけが残った。




「……終わったな」悠が銃を下ろした。


「いや」ジャスティスが低く返す。「こいつらハンド……小物ばっかりだ。もっと手ごわい奴がゴロゴロいるはずだ。」




真理子が息をつき、ついに口を開いた。


「ジャスティス、聞いて欲しい。今回警察に鳴海朔という人物が自分の娘の捜索願を出した。それが灯。うちらはその娘を父親の元に返すのが仕事。   だった……」




「鳴海って政治家のあの鳴海か? それで だったとは?」ジャスティスは訝いぶかしげに言った。




「そうよ、民自党党首、鳴海朔よ。だけど鳴海朔という人物はとっくに殺されていたの。」




「じゃあ、偽物の鳴海にいっぱい食わされたって事かい」ジャスティスが意地悪そうな顔をして言った。




「ま そういう事になるわ」真理子は視線をそらして答えた。




悠が言葉を継いだ。「ただ、コンコードの狙いは灯じゃなかった。 あんただよ ジャスティス。あんたの因子“鬼”だよ」




ジャスティスは一瞬目を見開き、黙った。




悠は続ける


「コンコードは灯を餌にあんたを釣ったんだ……あんたは灯を放っておけないと知っていた。灯を庇いながらではあんたは全力を出せないだろう。コンコードはどさくさに紛れてあんたの体の一部、あるいは血液を採集し人工的に鬼の因子を作ろうとするだろう。生け捕りにするのが一番だが……」




ジャスティスは拳を握りしめたまま、ほんの一瞬だけ視線を逸らす。


「……俺の因子については薄々わかっていた。俺の体の事を調べている事も。」




悠が吐き捨てるように笑った。


「いずれにしても、あんたの因子をコンコードに渡したいとは思わんが……」




短い沈黙の後、ジャスティスは口元にわずかな笑みを浮かべた。


「なるほどな。…… ちょっと考えさせてくれ」







戦いの翌日、公安が孤児たちを引き取った。


灯もその中に加わり、小さなバッグを握りしめていた。


警察関係者が深々と頭を下げる。


「子どもたちは我々で責任をもって保護します」




ジャスティスは何も言わなかった。ただ腕を組んで見守る。


灯は車に乗り込もうとしたが、途中で振り返った。


「……ジャスティス!」




初めて口にするその名。


彼女は駆け戻り、彼の胸に飛び込んだ。


ジャスティスは驚き、硬直したが、やがて不器用に腕を回す。


小さな体を抱きしめ、ただ一言。


「生きろ」




灯は涙と笑顔を残し、車へと戻っていった。


去り際に振り返ったその瞳は、強く輝いていた。




夕暮れのひなた食堂。


戦いの報告を受けた高瀬は窓の外を見つめていた。


「ネビュラの遺産――一つの球体。今は欠片になって散っているが、集まれば世界を支配できる力になる。コンコードはそれを狙ってる。奴らに渡すわけにはいかん」




零士は黙ったまま煙草に火を点ける。


水月と蓮が視線を交わす。


紗季のアバターが画面に映り、冷ややかに言った。


『鳴海の件も、まだ終わってないよ。そっちのケアも忘れないで』




外の街で、不意に光が弾けた。


誰もが気づかぬまま、遠い場所で“欠片”が動き始めていた。


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