忘れ物と、奥の奥
放課後。校庭は部活の声でにぎやかだ。
ユウトとセリカは廊下を歩いていると、同じクラスの男子・サトルが慌ただしく駆けてきた。
「やばい! 倉庫に部活の道具忘れたんだよ!」
「昨日の倉庫か?」ユウトが眉をひそめる。
「そうそう、あそこ。鍵は壊れてるから入れるけど……暗いの苦手なんだよな。ユウト、一緒に来てくれよ」
頼まれて断れず、三人で倉庫前へ。
セリカはにやにやしながら小声でユウトに囁く。
「ほら、“選ばれし者の導き”ってやつだよ」
「ただの忘れ物だろ!」
扉を開けると、昨日よりもさらにひんやりとした空気が流れ出した。
サトルは「うわ、やっぱ怖っ」と言いつつ、中へ入っていく。
奥の棚を探していたはずが――数分経っても、物音ひとつしない。
「……おい、サトル?」
返事がない。
セリカは目を輝かせて一歩踏み出す。
「ほらね、これはもう完全に――」
「黙れ!」ユウトは背筋に冷たいものを感じながらも、渋々後を追った。
倉庫の奥、木箱の隙間は昨日より大きくずれていて、その先は人ひとり通れるくらいの通路がぽっかりと口を開けていた。
暗がりの中からは、かすかにざわざわとした音……まるで遠くの市場のような、人の気配が流れてくる。
セリカはぞくりと笑い、ユウトの袖を引く。
「ユウト、聞こえる? これ……“あっち側”の音だよ」
「……やめろ、冗談にしてはリアルすぎる」
そのとき――
「おーい!」とサトルの声。
しかし、距離感がまるで違う。近いのに遠く、反響しているように響く。
「なあ、本当にただの倉庫か……?」ユウトはごくりとつばを飲んだ。
セリカは目を輝かせながら、答えにならないひと言を漏らす。
「これ、絶対……行くしかないでしょ」
扉の外では、まだ夕暮れのチャイムが鳴り終わったばかり。
なのに倉庫の奥には、別の時間が流れているようだった。




