消えた荷物と猫の足跡
放課後の商店街。ユウトは、スーパーの前でバイトの制服姿のまま段ボール箱を抱えていた。
「……重っ。なんで俺がこんな荷物運ばされてんだ」
「アルバイトだから、じゃない?」
セリカが当然のように横を歩いている。彼女は店のエプロンを外したばかりで、まだ髪にコーヒーの香りが残っていた。
「いやさ、なんでお前は一緒に来てんの」
「ついで。だってこの後、寄り道しよーって思って」
「……お前、元気だな。俺はもう帰りたい」
段ボールを抱えたユウトは、ふと足を止める。箱がやけに軽くなった気がしたのだ。
慌てて中をのぞき込むと――空っぽ。
「……おい、ちょっと待て。中身がない」
「えっ、さっきまで缶詰ぎっしりだったよね?」
「そうだよな!? え、俺どっかに落としたか!?」
ユウトは半ばパニックで辺りを見回す。だが道には何も落ちていない。
「まさか……」
セリカが目を輝かせる。
「異世界に転送されたんじゃない!?」
「するか! 俺の時給に見合わない事件やめろ!」
そのとき、路地の端を一匹の猫が横切った。段ボール箱と同じ缶詰をくわえて。
「……」
「……」
二人はしばし無言。
「……犯人いたな」
「うん、完全に猫だね」
猫の足跡を追いかけると、路地の奥に小さな隙間があり、その中に缶詰が数個転がっていた。どうやら猫の“隠し倉庫”らしい。
「はぁ……俺の心臓返せ……」
ユウトがへたり込むと、セリカは小声でくすっと笑う。
「でもさ、猫が通った路地、さっきより奥行きが深くなってなかった?」
「……は? 見間違いだろ」
「かもね。でも、異世界の入り口って小さなズレから始まるんだよ」
夕暮れの風が吹き抜け、猫の隠し倉庫の奥が、ほんの一瞬だけ見知らぬ街路に繋がっているように見えた。
ユウトは気のせいだと首を振ったが、背筋に残る違和感は消えなかった。




