「夏の終わりの冷やし中華」
夏休み明けの昼下がり。商店街の端にある小さな食堂。ユウトとセリカは、冷やし中華を前にしていた。
「やっぱり夏といえばこれだよね!」
「いや、もう九月だぞ。店の人も“そろそろ終わり”って言ってたし」
「だからこそ! 終わり際に食べるのがロマンなの!」
勢いよく麺をすすりながらセリカが言う。
ユウトは箸を止め、ため息をついた。
「ロマンっていうより……追い込みじゃねえか。宿題と同じノリだろ」
「おお、それは耳が痛い」
二人の会話に、奥の席で新聞を広げていた常連らしきおじいさんがふっと笑った。
「宿題か。わしらの頃はな、夏休みは川で魚を追いかけて、最後にまとめて先生に怒られとった」
「それ、今も大して変わってないですよ」ユウトが苦笑する。
セリカは興味津々で身を乗り出した。
「おじいさん、その川って、今の商店街の裏に流れてた川ですか?」
「そうそう。もう暗渠になっちまって見えんがな。昔は不思議な光を放つ魚がいたって噂もあったわ」
「なにそれ! 絶対異世界から来てますよ!」
「いや来てねえよ!」ユウトが即座にツッコむ。
ただ――。
店を出て帰り道、商店街の裏路地に入ったとき、ふと涼しい風が吹き抜けた。
アスファルトの下から、水の流れる音が聞こえたような気がして、ユウトは足を止める。
「……なんか聞こえなかったか?」
「え? 風でしょ? それとも川の精霊かなっ」
「だから精霊じゃねえって」
軽口を交わしつつも、ユウトは振り返って路地の奥を見つめる。
そこにはただの古いブロック塀と、落書きだらけの電柱。
――けれどほんの一瞬、水面がきらめいたように見えた。




