表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふつうと異常の間で  作者: まどろみ=アオ
1/3

ガチャガチャと、たまに開くドア

「……今日、バイト来たってだけで俺えらくない?」


そうぼやきながら、ユウトは駄菓子屋「たばた屋」のレジカウンターに顔を乗せた。

制服のネクタイは緩めたまま、上半身だけレジの内側にだらーんと倒れ込んでいる。


「えらいえらい、地球回してるよ」


奥の棚で飴の補充をしていたセリカが、ひょこっと顔を出した。

なぜか口には、さっき見たばかりのキャンディの新しいやつ。


「それ、2本目じゃない?」


「さっきのは味見。これは正式に“購入したやつ(予定)”です」


「レジ通してから言ってくれる?」



夕方の商店街。

蝉が鳴きやんで、遠くから夕飯の支度の匂いがただよってくる。

店の前を通る風が、吊るされた旗をばさっと揺らした。ちょうど洗濯物をはたいた時みたいに。


「そういやさっき、ガチャガチャのとこで小学生が騒いでたよ」


「また何か変なカプセルでも出た?」


「いや、『知らんドアが開いてた』って」


「はは、きっと新種のごっこ遊びだよ。“商店街異世界転移ごっこ”とかそんな感じのやつ」



「でもこの商店街、たまに変な店湧かない?」


「それ“出店”って言うんだよ。お前が忘れてるだけ」


「“古書と香水の店”とか、“骨董と鍋の間”とか」


「存在しない語感なんだよな」



セリカはラムネ菓子を補充しながらくすくす笑う。


「まあでも、ほんとに異世界とかあったらさ」


「またその話?」


「このバイト代が金貨5枚分くらいにならないかなって」


「むしろ異世界の方が搾取キツそうだよ? “労働は貴族の命令である”とか言われてさ」


「やだ、絶対ユウト毎日グリフォンの世話とかさせられるよ」


「それバイトじゃなくて試練じゃん……」



ガチャガチャがコトン、とひとつ落ちる音がした。


「俺、もし異世界に行ったら“バイトしなくてもいい世界”がいいな」


「むしろ“労働を求めて異世界へ”って感じしない?」


「それただの現実逃避の延長戦……」



レジ横の古びた扉が、ギィィ……と、誰も触れていないのにほんの少し開いた。

向こうには暗がり。そこに何があるか、誰も確かめようとはしなかった。


ユウトがぼそっとつぶやく。


「……で、そのキャンディ、今日の“試食”何本目?」


「業務試食は回数に含まれません」


「お前それ去年も言ってた」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ