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 タングリア伯爵夫妻はとても仲のよい夫妻でした。

 ところが、妻が流行り病で亡くなってしまいます。

 残された娘は妻そっくりの美しい女の子。


 十年後、タングリア伯爵は再婚します。

 王宮で侍女として働いていた男爵令嬢で、今年で二十歳。

 タングリア伯爵は今年で三十二歳。

 娘のロージーは十四歳。

 なんとまあ、波乱万丈な物語が始まりそうです。


「始まらないから。やめてよ。ちょっと」

「だって、新しいお母さん、二十歳なんだろ。めっちゃ若いじゃん。意地悪とか絶対してくるよ。十四歳の娘なんて邪魔にしかならない」

「そう邪魔にしかならないわ」

「は?」


 ロージーに断言されて、軽口をたたいていた幼馴染のピーターは動きを止めた。

 真っ赤な髪に緑色の瞳のロージーはそれなりの恰好をすればとても美しい令嬢だった。しかし普段の彼女は動きやすい男の子の恰好をしており、髪も一つに結んでいる。

 とても令嬢には見えないが領主の娘であることは誰もが知っていて、領主である父と領地を見回る際はきちんと令嬢らしい服装を身に着けていた。ロージーも年頃になればやんちゃなことはしなくなるだろうと領民の多くはそう思っていた。

 しかし、本人は大人しく令嬢をするつもりはまったくなかった。

 ピーターはロージーの幼馴染で遊び友達。

 十四歳にもなるのに、牧場の息子であるピーターとつるんで狩りをしたり、釣りをしたりして楽しんでいた。


「新しいお母様がきたら、私は離れに住むの」

「え?そんなの領主様が反対するにきまっているだろ」


 領主は一人娘のロージーを溺愛している。

 今回の再婚のこともかなりロージーのことを気にしており、何度も彼女に相談したくらいだった。

 ロージーは迷うことなく父の再婚を受け入れた。

 あっさりすぎて、父のアンドリューが心配になるくらいだった。


「反対はさせないわ。もうすでに準備は整えているから。私が本館にいたら邪魔でしょ?早く弟を作ってもらわないといけないんだから」

「ロージー!」


 あからさまな言葉に、ピーターのほうが顔を赤らめる。


「あら、ピーター。照れてるの?可愛い奴じゃ」

「なんだよ。ふざけるな」


 ロージーはピーターの頭を撫でる。

 それが彼のコンプレックスを刺激した。

 ピーターは背が低い。まだ十四歳であるから今後伸びる可能性が高い。顔だちは母親似でかなり女性的だった。だから、可愛いと言われるとムキになるのが彼のいつもだった。


「私は二人の邪魔をしないの。弟ができれば私は後を継がなくてよくなるわ。自由よ!」

「うん。確かにそうだけど。そうなると、ロージーは将来どうするつもり?どこかの貴族様と結婚して、その家に入るの?」

「それは嫌。絶対に。私はこうしてのびのびと領地で過ごしたいの。窮屈なドレスとか毎日着ないといけないって考えるとぞっとするわ」


 ロージーは本当にそう思っているらしく、両腕をさすっていた。


「じゃあさ、僕の牧場で暮らそうよ。僕は歓迎だよ」


 ピーターは無邪気な微笑みを浮かべている。

 しかしロージーは完全に深読みだ。


「ピーター。本気なの?私をお嫁さんにしてくれるの?」


 実はロージー、ピーターのことを小さい時から可愛いと思っていた。しかもどんな遊びにでも付き合ってくれる。とても得難い友人だった。

 結婚すればずっと一緒にいられると思い、ロージーはピーターの両手を掴んだ。


「約束よ。弟ができたら、結婚して」

「う、うん」


 勢いに押されてピーターは頷く。

 これで婚約成立、そう思ったのはロージーだけであった。


 ☆


「お母様。私、弟が欲しいの。よろしくお願いします」


 挨拶もそこそこ、義娘からそう言われ、クラリッサは卒倒しそうになった。


「ロージー。何を言っているんだ。まったく」


 父アンドリューは顔色を変えているクラリッサの腰を支えた後、娘を叱る。


「ごめんなさい。お父様。ほら、私ずっと一人っ子でしょ。だから兄弟がほしくて」

「そ、そうか。そうだな。お父さん、頑張るぞ」


 娘を溺愛しているアンドリューは、ロージーのお願いにあっさりと頷いてしまう。

 領地にきた初日、クラリッサはロージーから熱烈な歓迎、とんでも発言をうけて、驚かされた。その上、夫から子作り宣言され、白目をむいて倒れた。

 クラリッサはアンドリューの部屋を整える侍女で、出会った最初の半年は何もなくただ挨拶だけを交わす仲だった。

 ある日、クラリッサが男に絡まれており、それを助けた。それがきっかけで、話すことが多くなった。助け出した時に、恐怖で怯えるクラリッサを咄嗟に抱きしめてしまい、恋に落ちたのは恐らくアンドリューが先だ。しかし、年齢差なども考え、彼は自身の気持ちを抑えたまま、過ごした。

 けれども、クラリッサが再び男に絡まれ、それが金を積んでクラリッサを買おうとした婚約者だと知り、アンドリューが強引に奪った。もちろん、奪ったと言っても肉体とかではない。クラリッサの実家の借金を肩代わりして、婚約者に成り代わったのだ。

 アンドリュー的には十二歳離れているので、本当に結婚する気はなかった。けれどもクラリッサの両親が亡くなってしまい、アンドリューはクラリッサを妻として迎えることにしたのだ。

 そんな経緯で結婚したので、二人はまだ清い仲だ。

 娘に応援され、アンドリューはうっかりそう発言したことを後悔していた。


「クラリッサ、すまない。あれは言葉のあやで」


 寝室で横になるクラリッサに、アンドリューが謝罪する。


「アンドリュー様。私、ずっとお伝えしていなかった気持ちがあります。私、アンドリュー様をお慕いしております。だから、妻になれたことを嬉しく思っています」

「本当か?私はてっきり」

「ごめんなさい。はっきり言葉で伝えていませんでした。今日は、ロージー様から言われてしまい、びっくりしてしまったのです」

「あ、そうだな。私もアレにはびっくりした。ロージーはちょっと破天荒でな」

「可愛らしい娘さんです。私一人っ子だったので、妹ができたみたいで嬉しいです。だから、あの私、がんばります」

「え、」

「ロージー様に弟か妹でできるように精一杯頑張らせていただきます」

「え、あの、はい」


 クラリッサも少し変わった令嬢であり、アンドリューのほうが押される形で頷いてしまった。


 ☆


「ピーター。作戦は成功だわ」


 ピーターの家は領主の屋敷から一番近いところにある。

 クラリッサが倒れ、アンドリューが介抱している間に、ロージーはピーターの家に来ていた。


「作戦って」

「二人の仲を深める作戦」


 ロージーがそう言って、ピーターは口に含んでいたミルクを吐き出してしまった。


「汚い!」

「ごめん、ごめん。本当ロージーって」

「何?だってはっきり言った方がいいでしょ?」

「そうだけど」

「ピーター。弟ができたら結婚しましょうね」

「う、うん」


 それから一年がたち、ロージーに弟ができた。

 彼女が十五歳の春先だった。

 一年がたち、ロージーにも少し女性らしい丸みがでてきていた。

 ピーターも身長が伸び始め、今はロージーより少し背が高くなっている。だからロージーが頭を触ろうとすると、ピーターはわざと顔を上げ、それを避けていた。

 一か月前から、ロージーはピーターに結婚の話をしなくなった。

 彼女がピーターを好きなのは変わらない。

 けれどもピーターが可愛いからカッコいいに変わりつつあり、結婚を強く意識してしまうと照れてしまうからだ。

 なんせ子供の作り方さえ知っているロージーだ。結婚したらそんなことをピーターとできるか、などとおかしな心配もしていた。

 そんなロージーの様子をピーターは勘違いしていた。

 一年前の結婚の約束。

 その時は勢いに押されて頷いたが、何度もロージーに言われると自覚するようになった。ロージーに相応しい男になりたいと思い始めていたのだ。けれども一か月前からロージーの態度がそっけなく思えて、ピーターは不安を覚えていた。

 やはりロージーは貴族だから、貴族へ嫁ぐことにしたのではないかと。


 


 

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