ホラーは君と
閲覧いただきありがとうございます!
Xに掲載済のちょっと切ない、夏の夜のお話です。
『それは……だったのです』
「ひぇー!!!」
テレビからはおどろおどろしい音楽と、低く嗄れた声が流れ、ブランケットを頭から被った恋人は、ビクビクしながらも目を離さず悲鳴をあげている。
ここで、そんなに怖いなら観なければいいのでは?なんて野暮はもちろん言わない。なぜなら自分は、この怖がる恋人をみるのがいっとう好きだからだ。ブランケットの塊を隣で見つめながらほくそ笑んでいると、どうやら番組が終わったらしい。
「あ〜、怖かったぁ〜」と一人ごちながらリビングを明るくした恋人は、次はスマホに夢中になる。きっと番組の感想をSNSで呟いているんだろう。
暫くしてスマホから視線を上げた恋人は、自分ではなく窓際に目をやった。
そこには、爪楊枝を刺した茄子と胡瓜が鎮座している。幾分か胡瓜の方が丁寧に扱われている気がするのは気のせいだろうか。
「もうそろそろ来ないかな。いい加減、一人で観るの怖いんだよ。隣にいてくれよ」
…実はもう隣にいるんだけどね。生粋のバイク乗りを舐めんなよ。爆速で駆けつけたぞ。まあ、見えないんだから、しゃあないんだけど。恋人の頬に流れる、ひとすじの涙。年一回くらい、拭えたらいいのになぁ。
触れはしない頬に手を伸ばしたその時、パタリと茄子が倒れた。
「もしかして、来た!?わーい!ホラー映画の新作、観ようぜ!」
さっきの涙はどこへやら。ケロッとしてテレビを操作しはじめる姿に思わず爆笑しながら、触れることは叶わない恋人をそっと抱きしめる。
そうだな、一緒に観よう。もっとも、自分が見たいのはホラーじゃなくて、ブランケットの塊なんだけど。
お口にあいましたでしょうか。
お盆の時期とは少しずれましたが、
気に入っていただけたら、幸いです。